解除
透き通るような白い体。手足や尻尾の先だけ鮮やかな青色に染まっている。
額には角が尖っていない菱形のような模様が入っている綺麗な竜だ。
前世でいうところのフェレットほどの大きさでまだ幼体のようだ。
ケガも気にせず、くあっとあくびをする呑気な様子に、初めて幻獣を見て感動した気持ちが少し薄れた。
「罠にかかってるわりに元気だな?」
「グゥ」
「罠から外してやるからいきなり襲ってくるなよ」
金属でできた罠を外したいが外し方も分からず。仕方がないので金属は冷やすと脆くなるという前世の記憶から竜に接していない根元を急速冷凍させて壊すことにする。
どれくらい冷やせばいいのか分からないので、氷よりもずっと冷たく、更に冷たくと魔力を注ぎこむ。
余波で落とし穴の中までも吐いた息が白くなるほど気温が下がり、それでも暫くの間注ぎ続ける。
「そろそろいいんじゃないかな」
「グッ」
罠に手をかけると壊そうとしていることが分かったのか体全体でジタバタする。
俺が力を込めて押すのと、竜の尻尾が脆い所に当たったのと同時にあっさりと根元から折れた。
「ピー!」
嬉しそうに鼻から抜けるような高い声を出す。
折れた翼を無理に動かそうとしたが、痛かったらしい。すぐに大人しくなった。
「あー、ちょっと待て。まだ翼に引っかかってるから。暴れるなよ」
ぺたんと腹ばいになってしょげている竜の白い背中を恐る恐る撫でてみる。噛み付いてきたりしないことを確認してから噛み合っている歯を翼から外す作業を始めた。
穴が空いてボロボロになっている飛膜をそれ以上傷つけないように慎重に外す。
「よし、取れたぞ」
「クピ!」
「まだ折れてるし穴も開いたままだから動き回るなよ」
尻尾をぶんぶん振っている竜を見ながら考える。
ネーライラ皇国では、恐らく魔法の力は一部の特権階級のみが使える秘された力であり、その力こそが特権階級たる所以だったのだろう。
その力が国に向かうことを恐れた上層部が、自分達の地位を守るために俺のような魔力に目覚めた庶民達は人知れず排除されてきたのだろう。
知る機会も与えられず、魔力の使い方もよく分かっていない自分の今の力量で、この状態から治せる保証はなく。
下手に治療して変な形に固定してしまったらこいつの一生に関わるだろう。
「こんな落とし穴が普通にあるんだし、あっちより治癒の方法も発展してるだろ」
素人が手を出すより、専門家に任せた方がきっといいはずだ。
「痛いだろうけど我慢してな」
そっと抱き上げた腕の中でそいつは小さく喉を鳴らした。