落とし穴
てくてくと林の中を進む。
軽く見渡すと上陸した浜辺には壊れた釣竿や人の足跡が残っており、近くに人里があることが見て取れた。
近くの林にあった踏み分け道を辿りつつ掌に小さな氷を出してみた。
「氷くらいしか上手く出せんな」
ぐっと手を握りイメージすると氷は飛散して空気に溶けた。
もう一度手を開いて今度は火を出そうとするが火花が一瞬散っただけで顕著させることが出来なかった。
「これが俗に言う属性というやつかな」
思い出した前世の記憶には、様々なファンタジーの知識があった。
あまり詳細には思い出すことはできないが、元々俺はゲームやファンタジーな映画やアニメが好きなどこにでもいるような会社員だった。何が死因で死んだのか覚えていないが強く印象に残っていることだけが記憶に残っているようだ。
船で漂流している間、思い出した知識を使ってなんとか生き残れないか色々と試してみたところ、直接魔法として使えるのは水関係だけ。魔法を使う媒介として魔法陣が作れないか唯一持たされたナイフで流木を割って記号や数字、漢字を刻んでみた。
「上手くいったのは奇跡だよな。あのナイフだって自害用だろうし」
漢字と数字の組み合わせでなんとかなった時は思わず叫んだ。
水は魔法でなんとかなるが、食料は最初から用意されていないし調達することもできない。まだ魔法を行使する要領が分からずすぐそこに魚が泳いでいるのに捕まえることが出来なかったのだ。
雷の魔法陣を刻んだ木を海に放り投げて感電した魚を獲るのに、これまた風の魔法陣を刻んだ木のオール擬きが大活躍したのだった。
これまでの悲惨な漂流生活の記憶を振り払うように、邪魔な蔦を切り払ったら隠されていた落とし穴に落ちた。
本当に嫌になる。