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鈴の下駄  作者: 水瀬透
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冬の花

4 冬の花 


 ね。きみは綺麗事って嫌い?

 そもそも、綺麗事ってなんだろうね。――察するに、取り繕うこと、格好つけること、やせ我慢に、ちょっとの嘘、かな?

 面倒くさい? あはは、まあ、そうだろうね。生き物の中でもさ、きっと人間だけなんだよね。なのに、人間のなかでは、取り繕ってなんかいない、綺麗事を何も使っていないものはほとんどいない。ちいさな子供だって、泣きたくってもわらってみせたりするでしょう?

 ね。きみは綺麗事ってどう思う?

 いわばきみのアクセサリーだ。こうなりたい、って――そう、綺麗事ってのは理想だね。

 嘘つきだって、思う? もし、思ってしまうなら。少しだけ、身に付けた時のことを思い出してみてよ。格好つけだったかもしれない、嘘つきだったかもしれない、どころか、適当や成り行きや仕方なくだったかもしれない。

 でもね、理由はどうあれ、きみが選んだものだ。

 誰かを思ってわらってみせた、押し殺した涙の宝石だよ。ずっときみと一緒にいたんだ。


 ね。綺麗事って、ぼくは優しいと思うんだ。――きみとおんなじで。


 ★


 大きな松の樹のある御宮さんに、冬がきました。

 木枯らしに松の樹はばさばさ揺れて、葉の落ちた枝は、じっと眠りについています。雪でも触れば、一面真っ白に染まった御宮さんに、雪遊びをしに子供たちがやってくるのですが、こんなに寒くなっては遊びに来る子はほとんどいません。マフラーに顔をうずめながら、ランドセルを背負って集合する小学生が来るのと、一年中変わらず毎朝散歩に来るおじいさんたちが訪れるくらいです。犬も寒そうに白い息を吐いています。

 風に松ぼっくりがカラカラと転がって、狛犬のところで止まりました。


 冷たい冬の境内に、女の人が腰掛けています。

 キャラメル色のダッフルコートに、赤い手袋。白いマフラーに口元を埋めて、足をぶらぶら遊ばせています。寒い中、背中まである黒髪を風にふわりと揺らして、少し赤くなった鼻は気にしないふりで、御宮さんを、その向こうの景色を見ていました。ぼんやりと、けれどどこか一心に、ずっと向こうを。


「こんにちは、お嬢さん」


 カランっと音がして、いつの間にか、風変わりな格好をした少年が彼女の隣に腰掛けていました。

 寒空の下、朱色の羽織に同じ色した鼻緒の下駄を素足に履いて、ずっとそこに居たみたいに、彼は妙にしっくりと馴染んでいました。まあるいどんぐり眼は、髪とおんなじ飴色です。カラン、コロンと不思議によく鳴る下駄を遊ばせて、長袖Tシャツに羽織一枚だというのに全然寒くないらしい少年は、なんだか嬉しそうに彼女をのぞき込んでいます。

「あ、こんにちは」

 少し間が空いてしまったけれど、遅ればせながら返事をすると、飴色の少年は「なんだか雪が降りそうだね?」と空を見上げました。煤けたように真っ黒い雲が空を覆っていて、風もなんだかぐるぐると、何かを待っているような、招いているような、雪の前独特の吹き方をしています。樹も空も「雪がくるよ!」と言っているのを、長年この近くに住んだ彼女は空の色と風に絡む木の揺れ方から、察することができました。

 お正月も過ぎて、節分も終わったこの頃は、御宮さんに人気はほとんどありません。

 二人で並んで空を見上げながら、「そうだね」とか「積もるかな」なんて、ぽつりぽつり、吹けば消えてしまうような、そんなやりとりを繰り返しました。

 まるで、この時間を惜しむように。――いとおしむように。


「私ね、ここを離れるんだ。」

 お嫁に行くの、彼女はぽつりと呟きました。

 違う土地に行くのだと。

「へえ、おめでとう」

 飴色の少年は、彼女の方を向いて応えましたが、とうの彼女は少し苦笑いを浮かべて、目を合わせてくれません。

 ぶらぶらと揺らす爪先を見つめて、そっと風も止んだ冬空の下、おおきなため息をつきました。

「なに、マリッジブルー、ってやつかい?」

 からかうように言う少年にゆるくわらって目を伏せると、開いた視界の先。広がる木々を、田畑を見つめ、鼻をかすめる冬の風を吸い込み、「だめだなあ」と困ったように苦笑いしながら、ようやっと飴色のどんぐり眼と目を合わせました。

「私ね、ここが好きじゃなかった。ずっと、離れたかったの。」

 びゅう、と冬の風。

「でも、離れるって決まると、ちゃんと懐かしいなんてね。」

 だから気付いたんだ、と彼女は続けます。

「私が好きじゃなかったのは、この土地じゃなくて、ここで私の周りにいる人だった。――でもきっと、他人じゃなくて、自分だった。」

 カラン、コロンと柔らかい音を相槌に、彼女はそっと語りました。心の奥底に沈んでいた、沈めてきた言葉を、もう一度灯すように。

「家族だっておんなじ、むしろ近い分もっと気を遣ったかな」

 彼女は昔から「いい子」だったのだと言いました。「自分で言うのもなんだけどね」と軽く微笑んで。

 大人がどんな子供を望んでいるか、なんとなく分かってしまったのだと。「今思えば、大人なんていやしないのにね」と相変わらずわらって言いますが、その笑顔も嘘っぱちだと、わらいました。

「誰かの機嫌が悪ければ道化になった。すねてみたり、愚痴ってみたり、形だけ怒ってみたりもした。――その、誰かが望むようにね」

 だって分かっちゃうんだもの、と彼女は力無くわらいます。「子供の頃って、親が世界の全部だって思っちゃうじゃない?」と。

 嘘ばっかりついて、気が付いたら「私」は迷子になりかけていたのだと。

「母さんに、父さんに、嫌われたくなかった。好かれたかったし、わらっててほしかった。すきだったから。――これはね、ほんとなんだ。」

 そんな、帰り道を見失いそうになっていた春の日に、彼女は出会ったのだと言いました。

 まだ小さな、ランドセルを背負い始めた春に。

「でも、当たり前だけど限界がきて――そんなときに出会ったの。」

 懐かしそうに、過去をいとおしみ、慈しむように、言葉は続きます。

 飴色の少年は、カランコロンと時折下駄を鳴らしながら、じっと話を聞いていました。――とても、とてもやさしい瞳で。

「場所も、ちょうどここだったっけ。……小さい頃、おとなしい子だったの。でも、大人って子供には元気で明るくいてほしがるから、無理して外で走り回ったり、やたらわらってみたりしてたのね。そしたら、帰り道が――『私』がわからなくなってたの。」

 きっと、こんな子供なら喜ぶだろう。

 きっと、こんな子供なら怒られないだろう。

 きっと、――どんな、私なら?

 大人しい私は、きらい? ――なんて、聞けるはずも無く。

「それで、隠れて泣いてたら、同い年くらいの男の子がいてね。すごくあっさり、拍子抜けするくらい簡単に、『そのまんまでいいんじゃない』って言ってくれたんだ。――それだけ。それだけなんだけど、私にとってその言葉はなにより欲しいものだった。満点のテストより、ごほうびのおもちゃより、なによりね」

 それからは、力抜けちゃってね。彼女はわらって、それからの日々を教えてくれました。

 きっと、歯を食いしばってわらう日もあったであろう日々を、穏やかに微笑んで。


 ――とりあえずにこにこしてようって、それだけは決めて、

 ――好きだった本を読むことを隠さなくなって、

 ――おとなしい子も集団の中には必要なんだって知って、

 ――心配なんてどうしたってかけるのもわかって、

 ――たくさんじゃないけど、いまも仲のいい大好きな友達が出来て、

 ――好きなものが増えて、好きな人もできた。


「ずっと、いつも――いまも。あの日が私を支えてくれるんだ。」


 あの、桜の花びらが風に舞っていた春の夕暮れ。

 風変わりな少年と、不器用な少女の、たった一度の出会いが、彼女の宝物でした。

「だから、嘘ばっかりついて、嘘ばっかりでわらうくせがついちゃった私でも、人を好きになれた。そして、好いてもらえた。――これってきっと奇跡みたいなことだよね。」

 飴色の少年は嬉しそうに下駄を鳴らしながら聞いています。まるで、ずっとこの話を待ちわびていたかのように。

 ひとことだけ「どんなひと?」とたずねました。

「普通の人よ。全部は知らないけど、普通に傷ついて、頑張って、諦めて、こんなもんさって日々をこなしながら、それでも自分のしあわせをちゃんと持ってるひと。嘘つきのこの笑顔を好きだって言ってくれた、――そう、素敵なひと。」

 高校の先輩だったのよ、とわらうその微笑みは嘘ではない甘さが滲んでいて、空気が少しほころんだようでした。少し照れくさそうに言って、彼女は、ふっと黙り込んでしまいました。


「私、大丈夫かな?」

 黒髪が冬の風に煽られて、不安を映したように暴れます。

「嘘で――綺麗事でばっかり、笑顔さえ塗り固めてきた。そんな私が、いつかお母さんになる。」


「離れるって決まるまで、大切だったことに――この土地が好きだったことにも気付かなかった私が、大人、になる。」


「……怖いんだ、ちゃんとやっていけるか。」


 ――心配事ばっかり浮かんで、嫌なことばっかり思い出してどうしようもなくて、だからここに逃げてきたの。

 自嘲するように、やっぱりわらった彼女はうつむいて、赤いミトンの手袋に包まれた手をぎゅっと握ります。


「ばかだなあ、きみは。」

 カラン、コロンと、茶化すように下駄を鳴らして、嬉しそうに目を細めたまま、飴色の少年は言いました。

「ばかだなあ。まったくもう、――変わらないね。」

 しょうがないなあ、と言いたげに呟いて、髪をふわふわ風に遊ばせて、下駄を鳴らします。

「嘘つきなんて、みいんな多かれ少なかれそうだろ? それに嘘も綺麗事も『どんな』嘘か綺麗事かは、ちゃんときみが選んだものだよ」

 人を傷つけるためなのか、貶めるためなのか、

 自分を守るためなのか、誰かを守りたかったのか。


 そもそも始まりは、どんな気持ちからだったのか。


「綺麗事は、理想だ。理想は全部叶うとは限らない、だから理想。――でもね、」

 ――叶えたかったから、それは理想なんだ。

 彼女の方を向いて「そうでしょ?」と少年が尋ねます。彼女は、黙ったまま。

「嘘とか綺麗事ってさ、アクセサリーみたいなものだと思うんだよ。自分をどう見せたいか、どんな自分で在りたいかってのを、言葉や態度にして自分にくっつける。首飾りや腕輪や、指輪なんかにしてさ」

 きみの指にも約束があるでしょう? と少年は、ちいさな子供みたいに不安げな彼女の手を、そっと自分のと繋ぎました。

「ずっと身に付けていくうちに、一生を過ごす嘘もあると思うんだ。逆に、流行り廃りでとっぱらう綺麗事もね。――ゴテゴテに飾りつけちゃって動けないのなら、動けないままで過ごしてみるもいいだろうさ。だって、必要だからつけたんだ、ぜんぶ取ってしまうなんてなかなか出来ないよ」

「動かないでいるうちに、きっとあれこれひとつずつ、思い出せるんじゃないかな。どんな気持ちでつけたものかって。なんでいままでずっと付けてたのかとかさ。愛着の理由も、鏡越しじゃあわからないさ。」

 なだめるように、つないだ手を冬の風が撫ででゆきます。

「生まれ育った土地が懐かしいのは仕方ないさ、きみが今まで食べてきたもの、吸い込んだ空気だとか、「きみ」を作ってるものがここには溢れてる。きみのかけらたちから離れるんだもの、ちゃんと懐かしいさ。」

 全部嫌いになれないように、全部綺麗なひともいないよ。そう言って、つないだ手をそっと包みます。

「周りがきみに似合うと思うものが、きみの好きなもの、きみが自分で似合うと思うものかは別だろ? ――だから、いいんだよ。すきなようにすれば、さ。」


「誰もそんなことできみを咎めやしない。自由が怖いのは、自由が好き放題だって勘違いしてない証拠だ。」


 だから、と言う少年の肩にふわりと白い雪のかけら。


「だから、きみは大丈夫。大丈夫だってきみが忘れるから、ぼくがずっと知ってるのさ」

 ――きみがずっと大丈夫なことなんて、きみが生まれる前から知ってたさ。


 ちら、ちら、ふうわり。

 どんよりとした黒い雲に映える白い雪が、後から後から降ってきます。

 まるで、花びらのように。


 ぐす、とちいさく鼻を鳴らした彼女は「雪だ!」とはしゃいでみせました。鼻も目も真っ赤にして、それでも、ほんとうに嬉しそうに、頬を赤くして。

 つないだ手はやさしくて、だから、離さなければいけないと彼女は知っていました。


 大切だから手を離すのならば、それも愛情だと――過ごしてきた日々のなかで、彼女は掴んでいました。


「ありがと!」

 花がほころぶように彼女はわらって、手をほどきます。

 するりと手を離した少年の前に立つと、にこっとわらいました。

「……ありがとう」

 ――ほんとは、それをもう一度、聞きたかったの。

 彼女は――かつての少女は、巻いていたマフラーを外すと、やさしいまなざしで少年の首に巻きました。

 舞い降りる白い花びらが、朱色の羽織に落ちては溶けてゆきます。

「ねえ、なんでも知ってるお兄さん。」

 彼女はいたずらっぽく目を細くして訊きました。

 なんだい? と、どんぐり眼が答えます。


「あなたが私の初恋だったって、知ってた?」


 きょとん、と目を丸くした少年にクスリと、堪えきれなくなったのかお腹を抱えてわらう彼女につられて、少年もわらいました。

 こんなにわらったのはいつぶりだろうと、彼がわらうたびに、白いマフラーが楽しそうにぴょんぴょん跳ねていました。


「マフラー、ありがとう」

 そろそろ行くねと手を振る彼女に、少年が言うと、

「どういたしまして!」

 最後まで、やっぱり彼女はわらっていたのでした。


 ★


 大きな松の樹のある御宮さんには、怒らせると怖いけれど人好きな神さまが住んでいます。

 その神さまは、ときどき人の姿をとって、御宮さんに現れると云われています。

 ――それはね、朱色の羽織と、同じ色の鼻緒の下駄をカランコロンと鳴らして、髪とおんなじ飴色のどんぐり眼の子供の姿なんだって。


 その話をするときのおかあさんは、とてもやさしい目をして話すので、女の子は寝る前に本を読んでもらったあと、いつもその話をせがむのでした。

 やさしく目を細めるおかあさんが、女の子は大好きだったのです。


 人を小馬鹿にしたような、少し生意気な口ぶりの男の子。

 けれど、ずっとそばに居てくれて、話を聞いて、何かを教えてくれたりもする、なんでも知っている神さまの物語。


 それは女の子にとって、とても身近なお話になっていました。なので、とある春の少し前。小学校に上がるからと、ランドセルを見せにおかあさんのおじいちゃんおばあちゃんの家に行ったときに、女の子は御宮さんに行ってみました。小さい頃からよく遊びにきていましたが、一人で来るのは初めてでした。

 桜は少し早かったけれど、ひとつふたつ咲いていて、女の子は嬉しくなりました。


 そのとき、カラン、コロンと不思議によく響く下駄の音がして、

「こんにちは、ちいさなお嬢さん」

 朱色の羽織に同じ色の鼻緒の下駄、春の強い風に絡む髪と、おんなじ飴色のやさしい目をした風変わりな――けれど女の子にとってはようく知っている格好の、お兄さんが立っていました。

 男の子というにはずっとお兄さんで、女の子は「あれ?」と思いました。そしてもうひとつ。

「こんにちは。……お兄ちゃん、さむいの?」

 その日は春めいたあたたかい日でした。女の子はブラウス一枚でも平気なくらいです。

 なのに、お兄さんは白いマフラーを巻いていました。

「ん? いいの、いいの。気に入ってるんだ」

 鼻歌交じりにカランコロンと下駄を鳴らして、お兄さんは女の子と並んで桜を見上げました。

 お兄さんが動くたびに、白いマフラーの端っこが、ひょこんひょこんと揺れます。

「桜、すきかい? まだあんまり咲いてないけど。」

「桜もすきだけど、お花がすきなの」

「へえ、どうして?」

 女の子は、ぱあっと笑顔を咲かせて答えました。

「だって、わたしの名前、花っていうの!」


 ――愛しい子、パパとママの宝の子。あなたの名前は二人で一緒に考えた、いちばん最初の贈り物。パパとママを出会わせてくれたのが、花びらの栞なの。そんな私達のところに生まれてきてくれたから、あなたの名前に「花」を贈ったのよ。いつかあなたにも、素敵な花が咲くように。咲かせられるように。


 ――ほんとは、あなたが素敵な花を素敵に咲かせられることくらい、あなたが生まれる前からママは知ってるけどね。


 花が怖い夢を見たりして泣いたときに、子守唄のように、花の背中をトントンとあやしながら、おかあさんが話してくれる名前の由来は、花をやさしい夢に連れていってくれました。おかあさんの口癖も、花をとても安心させてくれるので大好きでした。

 それを話すと、お兄さんはお腹を抱えてわらいだしたので、花がわらわれたと思ってむくれると「ごめん、ごめん」と頭を撫でて、浮かんだ涙を拭います。


「わっかんないなあ、世界はどんなに居たって知らないことばっかりだ」

 いつの間にやら夕間暮れ。まだまだ冬の、短い陽が落ちかけて、オレンジ色の冷たい風に、花はぶるりとくしゃみをしました。さすがにまだ冬ですからね、夕暮れはまだまだ冷えるのです。

 カラン、コロンと、楽しそうに、嬉しそうに下駄の音を響かせて、お兄さんは花の目線に合わせてかがむと、にっとわらいました。

「ちいさなお嬢さん、きみはすごいね。ぼくに教えてくれてありがとう」

 そして、巻いていた白いマフラーを花に巻いてくれました。

「お気に入りなんじゃないの?」

「いいの、いいの。気に入ってるからきみにあげるのさ」

「ほんとに、いいの?」

「ばかだなあ。きみが風邪をひいたら、みんな心配するだろ?」

 ――きみのママに、ありがとうって言っておいて。パパにも、よろしくね。

 そう言って、もこもこにマフラーを巻かれた花に、嬉しそうにわらうと、お兄さんはまた頭を撫でてくれました。その手がとてもやさしかったので、花はうっかり、お兄さんがおかあさんのお話に出てくる神さまなのかを聞くのを忘れてしまいました。

 でも、白いマフラーを巻いて帰った花が、不思議なお兄さんの話をしたら、パパもママも大笑いして、花をぎゅうぎゅう抱きしめてくれたので、「まあ、いっか」と思ったのでした。


 その後、家族みんなで、マフラーを持って、御宮さんにお参りに行きました。

 ありがとう、と花のママが、境内に白いマフラーをそっと置きます。


「せっかくくれたのに」花が言うと、

「せっかくくれたから、よ」と、ママがいたずらっぽくわらいました。

「まだまだお世話になるだろうしな」パパがママに上着をかけます。



 そうね、とお腹を撫でたおかあさんから弟が生まれるのは、もう少しあとの冬のお話。




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