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プロローグ

1話 プロローグ 



 夢を見ておりました。


 無機物の(ワタクシ)が夢見などと非科学的且つナンセンスで御座いますが、

 永い眠りの中でそういった超科学的なバグが生まれた可能性も御座います。

 辿ってみることと致しましょう。


 その 絵 はどこか懐かしいものでした。

 惑星改変初期の荒野。

 いえ、荒野と言うにもあまりに寂しく、有機物の欠片一つでさも存在しない。

 まっさらな大地が私の眼前に広がっておりました。

 ああ、あれより幾年過ぎたのでしょうか。

 覚醒する術の無い私には窺い知る術など御座いませんが、

 望郷の念にも似た感情がこの空っぽの魂を揺さぶります。


「おい22510号、これ呼びづらいな……」


「これはこれはご主人様。168年と9か月ぶりでございます」


 我が主。何とお懐かしい。

 そうです。これは、ご主人様と最後にお会いした記録。

 はて? 

 これはやはり私の記録なのでしょうか。


「168年か……あまり長く感じないのは、恐ろしくなるな……」


「ご主人様、お言葉ですが、まだまだ道半ばでございます」


「分かっているさ、22510号」


 そう言ってご主人様は、愛用のメモリ媒体である円錐型の置物を取り出されました。


「ふむ……」


「どうされましたか?」


「お前に愛称を、と思ってな」


「愛称でございますか?」


「22510号てのは識別番号だろう。そうだな……」


 ご主人様は暫くうんうん唸っておられましたが、

 ふと顔を上げると私の胸に刻印された数字をご覧になり、こう仰られました。


「下の510でゴトーてのはどうだ?」


「ゴトー、でございますか……」


「ああ、今からお前はゴトーさんだ」


 何故、私に敬称をお付けになるのか計り兼ねた訳で御座いますが、

 主人の晴れ晴れとした笑顔を見て否など有るはずも御座いませんでした。


「ありがたく頂戴いたします」


 深々と頭を垂れて、新たな名を頂きました。


「さて、ゴトーさん」


「はい」


「俺はこれから観測任務に入る」


「おお、おお、主様、それでは……」


 観測任務。つまり「常勤」です。


「ああ、お前ともお別れだ」


「おめでとうございます、とお伝えしなければいけないところでしょうが……」


 この時の心情は、機械の体では表せないものでした。

 ですから、人を真似て視覚センサーを覆いました。


「ふふ、本当に感情があるかのように喋るな、お前は」


「折角、良き名をいただいたところでしたのに残念でございます」


「心配するな。メモリに記憶しておいたから、次の持ち主にも伝わる」


「できるならば、ご主人様にそう呼んでいただきたかった……」


「俺も残念だよ。お前は本当に面白いインターフェイスだった」


「……そう言っていただけて幸せでございます」


 しばし、私とご主人様の間に沈黙が流れ、そして……


 ご主人様は背を向けられます。


「ではな、星に命を!」


「はい、星に命を、そして良き生を」

 

 こうして、私と我が主は永久の離別をしたので御座います。

 この後、幾人もの主を迎え、別れを繰り返した訳でざいますが……

 ……失礼、少し感傷的になってしまったようです。

 

 はてさて、何故、今になってこのような記録が再生されるので御座いましょうか?

 私の第二の役目に関係しているので御座いましょうか。

 はたまた、陰謀派による工作でしょうか。

 この思考でしか、存在し得ない空間において、私が意識を持った意味とは?

 考えも考え付かぬものでござ……



_対外的接触を確認。起動シークエンスを開始致します。


 

 成程。






















 




 視覚センサーに映し出されたのは、黒髪の男性の顔。

 いえ、男性と言うには、幼い。

 年の頃、10を数えるか否かの少年の顔でした。


「光った……」


 原因は分かりませんが、視覚センサーの感度が悪く、

 光源を必要としたため、アンダーライトを点灯いたしました。

 しかし、全くの光源の無い空間に少年がいるとも思えません。


「ここは……」


「うわっ、喋った!」


 少年は驚いたように飛びのき、塞がれていた視界が広がります。


「ふむ……どうも、かなりの時が過ぎてしまったようですね」


 周りは見たこともないような空間でした。

 木の根、でしょうか、壁の代わりに黄色の植物が生い茂り、

 天井に規則正しく並んでいるはずのオートマチックライトからは怪しげなシダ類が生えています。

 しばらく、辺りを見回していると少年の顔が再び近づいてきました。


「凄い! 動いてる!」


 少年はどうやら私のような存在に遭遇したことがないようです。

 だとするならば、彼は「違う」のでしょう。


「失礼。私の言葉がお分かりになりますか?」


 相手の言語は理解しておりましたが、念の為、尋ねます。


「うん。分かるよ」


「それは良かった。ところで、ここがどこだか説明できますか?」


「うーんとね。正解は知らないけど、母樹アマーシア様の中だと思う!」


「母樹ですか……」


 全く聞いたこともないものです。

 いえ、ただ、一つ思い出されるものがありました。

 私が戯れに育てていた小さな植木。

 初期の薄い酸素の中でも生きられるようにと、様々な改良を施したその子。

 最後に見たときは我が家の裏に立派に根付いておりました。


「少年はどうしてここに?」


「少年じゃない! 僕にはイエムっていう名前があるんだ」

 

 ふむ、少年の名はイエム。

 登録いたしました。


「それは悪いことをしました。イエム」


「うん。いいよ」


「では、改めて理由を聞いてもよろしいですか?」


 すると少年は立ち上がって、立ち上がって?

 おかしいですね。私のサイズはイエムが立ち上がってやっと顔が見えるくらいのはずです。


「えっとね、アマーリアさまのとこで秘密基地作ってたんだけど、あ、これナイショね。親父に知られたら。ゲンコツ食らうから。で、なんか洞穴? みたいの見つけて、皆怖がって、入らないから。僕が入ってやったんだ。そしたら、君がいたんだ」


 どうやら、セーフティーは既に機能していないようです。


「なるほど。よく分かりました」

 

 イエムは自慢気な様子で仁王立ちしています。

 なんとも溌剌とした良い少年のようです。

 まぁ多少、向こう見ずなところはあるようですが。


「ねぇ。君は何? なんで動いてるの? 魔法?」


 魔法、ときましたか。

 そんな便利なものがこの世にあればとうに主たちは目的を果たしていたことでしょう。


「いえ、純然たる科学ですよ」


「科学?」


 残念なことに少年の文明には科学が存在しないようです。

 いや、このように幼い子であるから、知り得ないだけかもしれません。


「そうですね……」


 私は胸元を見るように頭部を下げました。つられてイエムも私の胸元を見ます。


「ここを擦ってもらえませんか?」


 イエムは頷くと、ナンバリングをなぞるように埃を払いのけます。


「225……うーん、消えてるよ?」


 なんと、私の誇りが消えている。その事実に愕然と致します。

 マニュピュレータで確認しようにも、びくともしないのです。

 一体どれほどの時が……

 そもそもこの体は、最新鋭のリームメタルによりできており、

 経年劣化などと言う無粋なものは存在しない。

 そう思っていた時期が私にも有りました。


「大丈夫? 調子悪いの?」


「いえ、平気ですよ。ええ、たった手と体と、頭部の冷却ファンが動かないだけです」


 私は初めて感情を抱えていました。人で言うならば意気消沈、でしょうか。


「? よく分からないけど、ガンバ!」

 

 励まされてしまいました。

 無いものは無い。そうですね。

 まだ、希望は御座います。

 さて、落ち込むのもほどほどに、名乗られたのだから、お教えしてあげなければなりません。


「改めまして、私は第5世代型テラフォーミング計画用インターフェイス、22510号」


「テ、テラ? なんか長いね」


「はい、ですので簡単な呼び名がございます」


 私は精一杯、胸のナンバリングが見えるように頭部を上げます。


「ゴトーさん、とお呼び下さい」



 





 

 初投稿&処女作です。

 仕事の合間にぼちぼち更新したいと思っています。

 どうぞよろしくお願いします。

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