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~黒ノ編~
気分も下がるようなどんよりした曇り空。
僕は少し開いた車の窓からつまらなそうにそれを見ていた。
視線をずらして見える景色は田んぼや畑ばかりで建物すらほとんど見られない。
今の父親に言われるがまま車に乗り込んだため何処に向かっているのかも分からない。
後部座席からチラチラ見える父親の左腕。
高級時計に飾られたそれは周りから見ればいかにも裕福な暮らしをしているのだろうと思うが、妻に内緒で貢いでいる女によく見られたくて今月の給料をほとんど注ぎ込んだバカな男であることを僕は知っていた。
この光景は前にも見た。
前は助手席に知らない女も乗っていたが、それがないだけ随分マシだった。
もう2年くらい前のことだが、あの女から来る香水の香りがはっきりと思い出された。
乗り物酔いでない吐き気が襲ってくる、あの感覚。
[まただ]
僕の頭にそんな声が響いた。
やっぱりな。
[また捨てられる]
[また戻される]
あの場所に。