その4
メガネイケメン………ヴィンセントと訓練を始めて一週間がたった。
最初よりだいぶ強くなったけどまだまだヴィンセントには追いつけない。
と言うか相手にすらしてもらえない。
「と、と、よっと。」
今はあっちこっちから飛んでくる火の玉を避けに避けまくっている。
最初はナメクジ程度の速さで苦戦していたけど、だいぶ自分のカービ○のような足にも慣れてきた。
いまは、火の玉はもうトンボくらいの速さにまでなっている。
火の玉はクルクルと円を描くように回っていてその中心でヴィンセントが寝っ転がって本を読んでいる。
ここ一週間こんな調子だ。
………いつかあっと言わせてやる。
だから夜遅くなっても森の中をランニングしている。
「よっ、ほっ、うわ!」
斜め下からきた火の玉に気付かず外に弾き出された。
コロコロ転がって藪に突っ込んだ。
「……いてぇ。」
今まで何度も弾き出されて防御が上がった。
力も脚力だけは上がりに上がりまくっている。
ここで俺の現在のステータス。
名前ヒカル
レベル:10
HP:56
MP:25
スピード:150
力:32
防御:110
器用:5
運:0
知識:125
スキル
『発光』『固化』『鞭使い』
まあ、この通り随分偏ったステータスになっている。
MPは夜に発光でヴィンセントのランプになってたら上がった。
スキルもあれから全然増えていない。
「どうします?今日はもうやめにしますか?」
いつの間にか火の玉を消してヴィンセントが近くにしゃがんで来た。
「今日は、本を買いに行きたいのですが。」
そう言って読み終わった分厚い本をひらひらと振った。
「もう読み終わったのか!?」
辞書よりも大きく分厚い、下手したら横より分厚さの方が長いような本をひらひらと片手で振ってるのにも驚きだがこの本を買ってまだ一週間なのだ。
俺だったら数年はかかるな。
「はい。ですからあなたもそこそこ強くなったので町に行って見ないかと。」
その言葉を聞いて自分の目がキラーンと光った気がした。
「行きます行きます。行かせてください!!」
だいぶ鍛えられた脚力で飛び上がった。
「わ、わかりました。そんなに詰め寄らないでください。」
詰め寄るどころか顔に飛びついてるんだけどな。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ここが、ノービスです。」
しばらく森の中の道無き道を歩いて行くと町を見下ろせる崖の上に出た。
景色に見とれているとヴィンセントがひょいと崖から飛び降りた。
となるとヴィンセントの頭の上に乗っていた俺も必然的に落ちるわけで、
「は?……うわあああぁぁ!!!」
一瞬足場がなくなったと思ったらものすごいスピードで落下し、ヴィンセントの手の中にすっぽりと収まった。
「すみません。忘れてました。」
「忘れんな!」
着いたのは中世のヨーロッパのような石造りの建物が立ち並ぶ町だった。したは石畳でゴツゴツしていてヴィンセントの柔らかい靴だと足が痛そうだった。
興味津々にキョロキョロしていると甘い匂いのするお店が見えた。外の看板には食パンのマークが書かれている。
「食べますか?」
「い、いや別にそう言うわけじゃ。」
言い忘れたが俺は結構甘党だ。特にクッキーとかが好きだ。
俺の言うことを無視してヴィンセントはパン屋に入った。
食パン、フランスパン、メロンパンらしきものに、安い黒パンと高い白パン。隅にはいろいろな焼き菓子が並べられている。匂いの元はこれだ。
ヴィンセントはクッキーを一つ手に取りお金を払った。
「はい、どうぞ。」
目の前のチョコチップの入ったクッキーに目が輝くのを抑えられなかった。
受け取ろうとし………そういえば手ないじゃん。
好物を前にお預けをくらって思わず自分に手がないことを呪った。さらにヴィンセントがこんなことを言う。
「あれ?そういえばパフィンってクッキー食べられましたっけ?」
や、やめてこれ以上俺を突き落とさないで!
ウルウルした瞳でヴィンセントを見上げているとヴィンセントはため息をついた。
「うる目で上目遣いってあなたは女ですか。」
ヴィンセントが口元までクッキーを持って来てくれた。
口を隠している毛を顔を振ってどけクッキーにかぶり付いた。
「!!♪♪♪」
「はいはい。美味しいんですね。」
ヴィンセントは苦笑いをしてクッキーをもう一度近づけてくれた。
ふとひとつの店に目がいった。色とりどりの鳥たちが大きな鳥かごに入れられている。
その隣にはたくさんのパフィンの入った檻がたくさんあった。
他の動物達もいたけど一番数が多くて目立つのはパフィンの檻だ。
「あれは動物屋です。」
「動物屋?」
「人語を話すパフィンは珍しいのであまり喋らないように。文字道理動物を売る店です。パフィンが多いのは一番弱い魔獣で光属性だからです。」
ほら、と言ってヴィンセントが指を指した先には動きやすそうな服に武器を持った男達がいた。一人の男が肩に担いだ棒の先端には小さな丸い檻がありその中にパフィンが入っていた。
「光属性は人間の聖職者と勇者その他は魔獣のパフィンしか持っていない属性なのです。まあ、聖職者もかろうじて光を出せる程度ですが。あと、光の石というものがあるのですけどあまり取れなくて。なので普通の人はパフィンを光として使ってるんです。」
「火はだめなのか?」
「危ないですからね。火属性の魔獣を使ったら放火されますし火を使うのも危ないので、安全かつ安くて弱くて使いやすいのがパフィンなんです。」
「ふーん。」
「あ、着きました。」
そう言ってヴィンセントは本屋の前で立ち止まった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「うわ!」
火の玉がぶつかってきてはじき出された。
「うえ、マズっ」
口に入った土を吐き出して再び挑んだ。
あれから数日。
トンボを攻略した途端いきなり桁違いに早くなったのだ。
頭を低くし火の玉を縫うようにして進む。
…
……
………あと半分…!?
「いて!」
またはじき出された。