プロローグ
その日。
僕は魔獣に喰われた。
真っ黒な魔獣が、その巨大な口を広げ、その牙をもって僕を噛み砕くのを感じた。
なのに。
気づいたら僕は、何かを顔に付けて、真っ赤な世界の真ん中に座り込んでいた。
一番の親友だったカイトは、幼馴染の少女だったものを抱える僕を凄まじい形相で睨みながら——
彼は“僕”に向かって、確かにこう言った。
「殺してやる」
——世暦2148年。今より八年前。
世界に見たこともない生物が現れた。
分厚い外殻と、何らかの動物に似た形状をしたソレは、“魔獣”と呼ばれた。
魔獣は幾つかの街を襲い、壊滅させた。
魔獣が跋扈するようになったその地は、“魔都”と呼ばれ、誰も入ることが出来なくなった。
僕の住んでいた街も、そうなった。
人類はすぐさま国家間で条約や協約を結び、ともに立ち向かおうとした。
立ち向かおうとした、だけで、立ち向かうことはなかった。
魔獣の外殻や体液が、今まで地球上に存在したどんな物質より優れていると分かったのだ。
人類は魔獣を奪い合って戦うようになった。
そして、国同士の争いが激化していく中——その集団は現れた。
機械を纏い、奇妙な仮面を被った十人。
後に色卓の十人と呼ばれることになる者たち。
彼らは様々な色の仮面を持ち、そしてお互いをその色で呼び合った。
死なせたがりのアカ。
死にたがりのアオ。
生かせたがりのキイロ。
生きたがりのミドリ。
狂わせたがりのムラサキ。
狂いたがりのダイダイ。
壊されたがりのチャ。
壊したがりのモモ。
殺されたがりのギン。
そして彼らを統べる、殺したがりのクロ。
最強の兵器を作り得るだけの天才と、それを操りうるだけの天才が集まった、たった十人の集団は——世界の情勢を全てひっくり返した。
魔都となってしまった地域に住んでいた者たち。
魔獣の襲撃や戦争で居場所や家族を失った者たち。
そんな人々を集めて、彼らは国を作り上げた。
仮面の軍国と名高いその国は、たった八年で世界一の大国となった。
それこそが、僕の住む国——レグニア帝国だ。