森の魔法使いⅡ
自らを魔法使いと名乗ったラウラという女性。
そんなラウラの言葉にリンネは納得していた。
突然姿を表した事も、老婆から年頃の女性に姿を変えたことも、魔法だというなら納得するしかない。
リンネは生まれて初めて魔法という物を見るが、確かにこの世界には魔法という技術が存在しているのだ。
「じゃあ、先に行って準備してるからね、ゆっくりおいでな」
そう言うとラウラは姿を消した。
表れた時のように突然の事だったので、リンネは夢でも見てたのではないかと思い、松明の灯りだけが光る森の中で自分の頬をつねってみた。
頬から伝わる傷みに今起こった事が現実だと実感する頃、近くの木に異変が起こった。
ランプに灯が灯るように小さな火が1つ木の幹に灯ったのだ。
そしてその火は1つ、また1つと別の木に灯り、さながら貴族の屋敷の廊下の様な光の道を作り上げた。
「綺麗だなあ」
思わず口からそんな言葉がでた。
暗い森に出来た光の廊下は確かに幻想的で美しい。
気付けばリンネはその廊下を歩き始めていた。
どこまで続くのかと思うほどに光の廊下は続いている。
それは森の暗さと火の明るさで、先が見えないからだ。
まるで今の自分の立ち位置をそのまま表しているような。
そう思うとリンネは急に不安になった。
"不安"と一言で片付けるのはあまり良くないかも知れない。
悲しみや絶望、そんな様々な感情がリンネを押し潰そうとしていた。
そんな時だ、光の廊下の先に一際大きな光がリンネの目に入った。
優しくて、我が家を思い出させるその光は一軒の木造の家。
その家がラウラの物だと理解するのに時間はいらなかった。
木製のドアにリンネは近付きドアノブに手を伸ばす。
しかしリンネの手は空気を掴んだ。
リンネがドアを開けるより先にラウラが中からドアを開けたのだ。
「いらっしゃい、さあ入りな」
笑顔を見せるラウラを見て、何故だろうか、リンネの紅い瞳から涙が流れた。
「おやおや、何泣いてんだい」
そう言ってリンネの頭を撫でるラウラ。
この日からリンネと森の魔法使いの共同生活が始まった。