森の魔法使い
「まあなんでこんな森の奥に君みたいな子供が……」
ふと、老婆が呟いた。
しかしその声は先程のようにしわがれてはおらず、もっと若くに感じられた。
というよりは、現在進行形で若くなっている。
「ふうむ、やっぱりこの姿が一番だねえ、ああいやそれよりもだ」
リンネの目の前で老婆が姿を変えた、二十代くらいの若い女性の姿にだ。
リンネは訳が分からず、眼を点にしてその女性を見つめた。
赤い髪は艶を取り戻し、肌に刻まれていたシワは今はもう見当たらない、少しつり上がった目が凛々しい印象をリンネに与えた。
「驚かせたかい? それならすまなかったね、さて、二、三質問するよ?」
「え、あ、は、はい」
リンネは訳の分からないまま首を縦に振った。
その様子に先程まで老婆だった女性は木の根に腰を掛けると。
口を開いた。
松明の灯りはそこまで届かないはずなのだが、女性の姿はハッキリとリンネに見えていた。
女性が松明を持っている様子ではなかったのだが、女性の右隣辺りには確かに炎が揺らめいている。
「君、名前はなんてんだい?」
「リ、リンネです、リンネ・ノーラン」
「ふむ、では次だ、君は何故こんな森の奥にいる?」
この質問にリンネは顔を伏せてしまった。
しかし、リンネは真面目で良い子だ。
黙っているのは得体が知れないとはいえ、相手に失礼と思い、この森に入った理由と旅をしている理由を話した。
「その歳で両親をねえ、辛かったろうに」
女性は立ち上がると、リンネのそばにより、リンネの頭の上にポンと手を置いた。
そして聞き取れるか聞き取れないかの声で何か呟くのだ。
「ふむ、嘘はついてないみたいだね」
リンネには聞こえなかったようだが、女性は確かにそう呟いていた。
「今日は夜も遅い、家においで、明日ゆっくり話そう」
女性の言葉にリンネは従った。
正体はいまいち把握しきれなかったが、せっかくの厚意だ、何よりもこの機会を逃せばまた危険にさらされる。
「ありがとうございます、えっと……」
「ラウラ、この森に住んでる魔法使いの名前さね」