別れと出会いⅥ
気付けば、リンネは森の中を駆けていた。
焚き火を松明がわりに暗い森をただ走った。
聞こえてくる獣の足音と息づかい、リンネはいつの間にか狼達に囲まれていたのだ。
遠吠えが響く森の中はひどく不気味で、今にも暗闇から狼とは別に何か飛び出してきそうだ 。
幾度も転びそうになりながらも、なんとか耐え、リンネは走る。
飛び掛かれば直ぐにでもリンネは喰われてしまうだろうが、狼達はリンネが弱るのを待っていた。
動物というのは、襲われた際に突発的に自分でも思いもよらない反撃を行う。
狼は群れ社会のなかで生きている動物だ、仲間が傷付くのを極端に嫌う。
よって、単体で獲物をしとめようとせず、弱るのを待ち、皆で美味しくいただくのだ。
そして今のリンネは空腹という状況下で暗い森の中を必死に走っている。
狼に追われ、いつ襲われるとも分からない重圧が、みるみるリンネの体力を奪っていった。
「うわ!」
そしてとうとう、リンネは木の根に足を引っ掛けて転んでしまう。
狼がリンネを囲み、様子を伺っていた、待っているのだ群れのリーダーの合図を。
唸る狼達。
リンネの顔に恐怖は無かった。
狼相手に良く逃げたものだ、と、そんなことを考えていた。
群れのリーダーだろう、一際大きな遠吠えが響いた。
牙を剥く狼達。
リンネは諦めたか、微笑みを浮かべた。
これで両親に会える、そう思っていたのかもしれない。
「お止め! アンタ達!」
狼達がリンネに飛び掛かろうとした丁度その時だった。
リンネの耳にしわがれた老婆の声が聞こえた。
するとどうだろう、牙を剥き、唸っていた狼達が急におとなしくなった。
というよりは、耳と尻尾が垂れ下がってしまっていて完全に怯えている。
聞こえた声がなんだったのか、リンネは考えあぐねいていた。
こんな森の奥、人が住んでいたというのか、何故狼達は脅えているのか、声の主が人間なのかどうなのか。
その声の正体は直ぐに表れた。
火の粉を散らすよう逃げ出す狼達。
残ったのはリンネと、いつ表れたのか、リンネの前に立つ姿勢のいい、中背の老婆だけだった。