お見舞いに行こう
それから数日後。
リンネ達はというと、街の石材屋を連れて、エリスの故郷の集落を再び訪れていた。
エリスの父親が残した報酬とギルドからの報酬と追加報酬で慰霊碑を建てる為に訪れたのだ。
今回の救出依頼の過程で殲滅した盗賊団の討伐は別件で依頼があったうえに、更に、盗賊団の頭目だった男はそこそこ名の知れた賞金首だったそうで、初の依頼にして、金貨百数十枚という大金を手にしたリンネ達一行。
報酬をギルドから受け取った際、リンネがまず考えたのが慰霊碑を建てる事だった。
それは今はまだ退院出来ないエリスの願いでもある。
「こりゃあ……なんてヒデえ事を」
共に村を訪れた石材屋が漏らした言葉だった。
「そうですね、このままでは安らかになんて眠れませんよね」
おもむろにリンネは杖を取り出すと地面を突く。
すると地面が割れ、地中から現れたのは太い木の根。
近場に生息する焼けていない木や草も、リンネの杖を合図にしたかの様に、急激に成長を始め、焼けた村を緑で覆っていく。
焼けた家屋は蔦や苔が覆い、慰霊碑を建てる予定の場所以外には草花がまるで絨毯の様に敷き詰められる。
一見しただけなら、滅んで数十年以上経つ様にも見えた。
「ありがとうございます精霊達、どうかこの村にいた人達が少しでも安らげますように、森の加護をお与え下さい」
祈るリンネにリーゼロッテとルティアも続く。
その様子に石材屋は目を丸くしていた。
「あんた、聖人様か何かなのかい?」
「僕はただの魔法使いですよ、それよりも慰霊碑の件、お願いします」
「魔法かあ、俺達みたいな適正無しには縁遠くて、神様の奇跡との違いもよく分からん。
まあ慰霊碑の件については俺達に任せて下さいよ旦那、貰った分の仕事はしますよ」
そして村を後にしたリンネ達は街に戻ると、石材屋と別れ、エリスの入院している病院ヘと歩を進める。
ここ数日で大分調子は良くなった。
心の方も落ち着いてきたようで、病室を訪れたリンネ達に微笑みくらいは向けられるようになった。
しかし、その微笑みからもまだ少し憂いが見える。
当然と言えば当然だろう。
「やあエリスさん、調子はどう?」
「リンネ君、今日もお見舞いありがとうございます、お医者様の話では後数日で退院出来るそうです」
「それは良かった。
じゃあそれまでに答えを聞かせてくださいね」
リンネが言った事、それはリンネが先日見舞いに来たときにエリスに提案した事への返答の話。
「僕達と旅をしませんか?」
というのがリンネの提案だった。
「あの、その件なんですが、私はただの村娘で、エルフではありますが、弓を使えるわけではありませんし、魔法が得意なわけでもありません、私が同行しても迷惑になるだけだと思います」
申し訳なさそうに言うエリスに、リーゼロッテとルティアは声を掛けようとしたが、リンネが急に異層空間からキャンバスを取り出して、宙に浮かせたので、二人はタイミングを失う。
「迷惑なんて掛からないと思いますけどねえ、僕達は特定の目的があって旅するわけじゃないですし」
「でも……」
「あっ! ちょっと待って下さい、もう少し、その角度でお願いします!」
下を向こうとしたエリスをリンネが制止し、キャンバスに向かって細く尖らせた黒炭を走らせる。
最近のリンネの日課の一つだ、故郷にいた時や、森で暮らしていた間、修行の合間に描いていた絵。
リンネの趣味の一つである。
「マスター、何もこんなタイミングで描かなくても」
「まあリンネのマイペースは今に始まった事じゃないけどね」