エルフの少女Ⅲ
依頼を出したエリスさんの父親は、既に亡くなっていて、村は壊滅状態で、生き残りはエリスさんだけです。
リンネは言わなければいけないだろう、聞かせたくなくても、言いたくなくても。
はぐらかして誤魔化して、今この時、この瞬間を逃れても、目の前のエルフの少女に帰る場所がもう無いという事実は変わらない。
このままリンネ達が何も言わなかったとて、療養生活が終わり、退院すれば何も知らないエリスが向かうのは滅んだ故郷だ。
誰か生き残りがいるかも知れない、父親の依頼でリンネ達はやって来たと言っていた、なら父親は生きている。
そう願い、希望をもって帰郷したエリスの眼前に広がる光景は、まさに地獄だろう。
ならば言わなければいけない。
例えこの言葉がエリスに絶望を与えるとしても。
「エリスさん、言わなければいけない事があります。
あなたの村とロブさん、お父さんの事ですが――」
深呼吸したあと、急に真剣な顔を見せたリンネに、リーゼロッテとルティアも察してか、先ほどまでの笑顔を伏せ、視線を下げる。
リンネはあの村唯一の生き残りであるエリスに、村の状況と父親の死を告げる。
「そう、ですか……」
察してはいた筈だ、夜盗に村が恐れ、自分が攫われたのを最後に夜盗達は自分以外誰一人攫っては来なかった。
つまりは……
「なんで、私達はただ、静かに暮らしていただけなのに」
エリスの言葉に嗚咽が混じる。
リンネはエリスの傍に寄り、杖を異層空間から取り出すと、出来るだけ音を立てないようにコツンと床を杖の先で突く。
リンネは部屋に防音の魔法を掛けた。
少女が家族と故郷を失って、平然としていられる筈などない。
ならば今は少しでも、いや……
「我慢しなくて良いですよ。
今は思い切り泣いた方が良い」
それだけ言って、リンネは杖を異層空間に片付け、エリスの肩に手を置く。
この時、リンネもまた自身の両親の死を思い出していた。
両手で顔を覆い泣き叫ぶエリス。
泣き疲れて眠りにつくまでの間、リンネとリーゼロッテ、ルティアはエリスに付き添っていた。
「キャラバン設立当日に、ご苦労様でしたマスター」
「いや僕は良いんだ、それより二人ともゴメンね遅くまで」