救出
地下牢があるフロアの円形のエントランスで鬼ごっこを始めてしまった二人を置いて、リンネはエルフの娘を探して地下牢を確認するために四方に伸びている通路の一つへと歩を進めた。
というよりも、人の気配がしたのがその方向の通路だっただけだ。
そして、当然のことながらリンネは一つ目の牢でエルフの娘を見つけることになる。
「金髪に尖った耳、君がロブさんの娘さん、でいいのかな?」
「……パパを、知ってるの?」
牢屋の片隅のベッドの上、膝を抱えて座っていた少女が、自分の父親の名前を聞き顔を上げる。
長い前髪で目は見えなかったが、弱々しい声からそはれでも安堵の様子がうかがえた。
一目見て盗賊とは違う身なりの少年がこんな場所にいる。
それだけで、少女はいつ以来だろうか、心の底から安堵したわけだ。
「君のお父さんから依頼を受けて助けに来たんだ、ちょっと待っててね。すぐ開けるから」
「……でも鍵が」
「大丈夫すぐに外すよ」
そう言ってリンネは杖を鍵穴へ向けると魔力を込める。
展開された小さな魔法陣は、鍵穴に吸い込まれるように消え、すぐにカチンという鍵が外れる音がリンネとエルフの少女の耳に届いた。
「すぐにその枷も外すからね」
鉄格子の扉を開け、エルフの少女に近づくと扉の鍵と同様に手足の枷をリンネは外し、エルフの少女に向かって手を差しだす。
「立てる?」
差し出された手を、掴もうと手を伸ばす少女。
しかし、少女はそこで意識を失ってしまった。
極度の空腹、疲労、そして何より助かったという安堵感から一気に睡魔が押し寄せてきたのだ。
前のめりに体勢を崩し、倒れそうになったのをリンネが抱きかかえて事なきを得たが、薄暗くて視界不良だったとはいえ、リンネはその時になってやっと少女が妙にやせ細っていた事に気が付いた。
「まずいな。リゼさん! ルティア! 一旦転移で街に戻るよ! 早くこっちに!」
「ああ、はいわかりましたマスター」
「ご、ごめんなさい私ったら手伝いもせずに——」
「いいですから、さあ早くこっちに」
リンネの声に呼ばれ、今までムキになってルティアを追いかけまわしていたリーゼロッテがそのルティアの襟首を掴んでリンネの声がした牢屋へとやってくる。
それを確認して、リンネは足元に魔法陣を展開。
術式が起動するまでに街に戻ってからすぐに病院へ向かうことを二人に告げた。
「あとそれから、ルティアは市場でなにか果物を、リゼさんはこの子に合いそうな服を買ってきてやってください」
「わかったわ、ギルドで報奨金を受け取ったらすぐに行くわ、手持ちのお金だけじゃろくな物買えないしね。この子の事はリンネに任せるわね」
リンネが頷くのが早いか魔法陣が光を放つのが早いか。
魔法陣が回転しながら地面から宙へと浮かび上がると、先ほどまでそこにいた四人は要塞から姿を消した。
かくして盗賊討伐戦は終了し、エルフの少女救出という初の任務をリンネ達は達成したのだった。