砦の中で
「やあ、お疲れ様」
3人が合流したのちリンネが開口一番そう言った。
しかし、リーゼロッテには無理に取り繕ったリンネの笑顔が、どこか悲しげに見えた。
「リンネ、大丈夫?」
「平気だよ、僕よりもリゼさんの方が大丈夫?」
「大丈夫、怪我はないわ。全部返り血よ」
そう言って苦笑するリーゼロッテに、リンネは杖を掲げて近付く。
「リゼさん手を出してもらえますか?」
「こうかしら?」
言われるまま手のひらを上に向け、リンネの方に出すリーゼロッテ。
その手の上にリンネは自分の手を重ねる。
「え、あの……」
突然の事に顔を赤くするリーゼロッテ、そんな様子をルティアは後ろでニヤニヤと眺めていた。
「浄化の術式で一番最初に教わった魔術です、まあお風呂みたいにスッキリできるわけではありませんけど」
杖の先端の宝石が光り、内部から魔方陣が展開され、その魔方陣がリーゼロッテの頭から足先へとスキャンするように移動していく。
するとどうだろうか、リーゼロッテが浴びた返り血はみるみるうちに浄化、変換され、魔素として淡い緑色の光を放ちながら空気中へと拡散していった。
「こんな事も出来るのね」
「魔法使いですからね。
さあ、依頼を完遂させましょうか」
そう言って、リーゼロッテから手を離すリンネ。
その離れていく手に、リーゼロッテは実に残念そうな顔をするのだが、リンネにはそれが何故かは分からず首をかしげた。
「マスター、途中で盗賊から聞いた話だと、地下牢に件の娘さんがいらっしゃるみたいです」
「地下かあ、階段を探すのも面倒だし直通で行こうか」
「え?」
ルティアからの情報を聞くやいなや、二人から少し離れて手をかざして、そのかざした手を地面へ着ける。
展開された魔方陣は、光を放って消えたが、遅れてリンネの立っている位置と二人の立っている位置の中間に人一人分通れるほどの穴を穿った。
崩れる石畳の地面にぽっかり空いた穴、そこにから下を覗くと、成る程、確かに地下にはリンネ達が今いるエントランスの床と同じような石畳が見えた。
「じゃあ先に行くね」
と、飛び降りるリンネ。
そこそこ高低差があったが地面に降り立つ前に自身を減速させ、なんなく降り立つとリンネは辺りを見渡した、地形の確認と、まだいるかもしれない敵の確認のためだ。
「大丈夫、盗賊達はもういないみたいだよ」
上から覗き込む二人に向かって手を振りながらリンネがそう言うと「ではでは」と、言いながらスカートを押さえながら、ルティアが続いて飛び降りた。
流石は猫と言ったところか、軽やかなものだ。
最後にリーゼロッテが飛び降りようと軽く跳んだ時だ。
ルティアがふと、独り言を呟いた。
「スカートからお召し物が見えますよ?」
「え!ちょっと!?」
ルティアの余計な一言で、思い出したようにスカートを押さえて、下で待つリンネにスカートの中を隠したものだから、リーゼロッテは体勢を崩してしまう。
実際は真下にいる訳じゃないので見えるわけないのだが、恋する乙女は冷静さを失っていた。
「危ない!」
リンネが体勢を崩したリーゼロッテを助けるために駆けつけて手を伸ばす。
どうにか減速の術式が間に合いスピードを殺せたお陰で、お姫様抱っこという形でリンネはリーゼロッテの救出に成功した。
「リゼさん大丈夫?」
「あ、あの、そのえっと、あ、ありがとう、大丈夫、大丈夫よ」
「恋する乙女は大変にゃ~」
嬉し恥ずかしで顔面真っ赤なリーゼロッテの顔が、ルティアのイタズラ心と普段使わない語尾で怒りに変わる。
「こら待て!このイタズラ猫耳メイド!!」
リンネの腕から降りてルティアを追い掛け回すリーゼロッテ。
いつしか故郷で見た、犬が猫を追い掛けている様を思い出して、リンネは苦笑いを浮かべた。
「お~い、二人とも行くよ~」