別れと出会いⅣ
葬儀の次の日、メリルの町からリンネの姿が消えた。
最初に気付いたのは従業員の男だった。
リンネの事を気掛かりに思った男が家を訪れたのだが、その時には既に姿は無かったそうだ。
リンネは明朝、まだ日も昇っていない時間に町を発っていた。
行く宛など無い。
ただこの町に、両親との楽しい思い出しかないこの町に居るのが嫌だった。
持てるだけの水と食料を革の鞄に詰め、家に置いていたローブを見にまとってリンネはただ歩いた。
少しでも早く、少しでも遠くに、そんな事を考えていたのかもしれない。
しかし子供の足だ、そう早くは歩けない。
道端に突き出た岩に座りパンをかじる。
一口食べただけだったが、リンネは口を止めた。
どうしても美味しいと感じることが出来なかった。
一昨日食べた、美味しいと感じたパンと同じものなのにだ。
食欲もわかず、ただ呆然とリンネは空を見上げた。
昨日の曇天が嘘のような晴天だ。
美しい空模様に流れる雲が輝く太陽を隠す。
リンネはしばらく呆然としていたが、それを合図にするように腰を上げ、再び歩き始めた。
家に居るとき、どうしようかと考えていた、店を継ごうかとも思った。
親戚は居ないが良くしてくれる人なら居るだろう。
自立出来るようになるまで世話になろうかとも考えた。
しかしどれもダメだとリンネは思った。
あの町に居る以上幼くして両親を失った可哀想な奴。
そういう目で見られるのが一目瞭然だった。
リンネはそれを良しとしなかった、ちっぽけなプライドだったのかもしれない、しかし哀れみの目で見られれば両親の事を思い出してしまう。
それが嫌だから、リンネは町を出たのだろう。
「さようなら皆さん、さようなら大好きな町……さようなら父さん、母さん」
小さく見える町に向かってそう呟くと リンネは町に背を向けて歩きだした、振り返る必要はない、手を振ってくれる人はもういないのだから。