初任務
「こちらをお受け取りください」
そう言われ、カウンターに戻ってきたミレーナから金属製のブレスレットをリンネとルティアは受け取った。
ミレーナの話によると、これはギルドの登録証なのだそうだ。
「最後になりますが、そのブレスレットをこの装置の球体部分にはめ込んで、手をかざしてください。
内側に名前を書き込みます」
言われるままに装置の球体部分に、まずはリンネがブレスレットをはめ込んだ。
「では、お名前を口頭でどうぞ」
「リンネ・エーデルシュタイン」
手をかざして名前を口にすると、球体の装置が、一瞬光を放った。
「これで終了です」との事なので、リンネはブレスレットを外して内側を見てみると、確かにそこには自分の名前が彫られていた。
ルティアも同様にそれを済ませ、さあどうしようかと言う前に、今度は後ろにいたリーゼロッテがカウンターへと近づいた。
「ミレーナ、私の方は移籍の手続きを頼む。
移籍先はリンネのキャラバンでな」
「分かりました、手続きはこちらで済ませますので。
3人はなにか食べて行かれてはいかがですか?」
「いや、あいにく手持ちが無くてな、手頃そうな依頼でもこなしてくるよ」
そう言って、リーゼロッテは二人の方に振り返ると「こっちに」と二人を先導して歩き始めた。
3人が向かったのは、カウンターに来る前に通りすぎた木造のテーブルが並んだ大広間。
そのさらに奥にある依頼掲示板を目指した。
テーブルとテーブルの間は充分な間隔を空けてあるので、通路が塞がる事はないが、それでも武器を立て掛けたり、荷物を置いていたりで少し通りづらい。
そして何よりも、冒険者達が座っているテーブルを通りすぎる際に此方に視線を向けてくる。
「なんだか睨まれてるけど、注目されてる?」
「強盗団の一件があったからでしょうか。
まあ気にしなくても良いですよ、襲ってくるわけでもありませんし。
仮に襲われても、ここの新人達では私達には勝てませんから」
そんな事を言っている間に、3人は掲示板の前に到着。
リーゼロッテは掲示板に貼り付けられている依頼票を物色し始めた。
壁一面の掲示板に、左から右へ難易度順に依頼票が貼り付けられているようだ。
左に行くほど簡単で、右へ行くほど難しい。
リンネのざっと見回した感じの印象がそれだった。
リーゼロッテが左から物色し始めたのに対し、リンネは右側からゆっくりと依頼票を眺めていく。
特に受けたい依頼があるわけではない、単純にどんな依頼があるのか興味があっての事だ。
「山賊の砦制圧、沼に住み着いた複数のオーク退治、サイクロプス退治。
へえ~、色々あるんだねえ、救出依頼なんてのもあるね」
その救出依頼と書かれた依頼票を手に取り、内容を読み始めるリンネ。
リンネの表情が変わったことに気付いたのは、一緒にいたルティアだ。
「マスター、どうしました?」
「この依頼受けよう、こういうの僕許せないや」
先程までの楽しげな表情はどこへやら。
眉間に皺を寄せ、依頼票を目を細めて見るリンネの表情は、ルティアが3年一緒にいた森では見たことがない怒りの形相だった。