南の街へ
――歩き始めて森を抜け、街道に出た辺りでリンネはまたあの魔方陣を宙に描いて、中から地図を取り出して広げた。
「先ずはどこに向かおうか」
「あの、リンネ様――」
「様は禁止、一緒に旅する仲間なんですから、リーゼロッテさんは」
「で、では私の事もリーゼロッテではなく、リーゼかリゼとお呼びください」
と、自分で言っておきながら、いざリンネが「じゃあリゼさん」と呼ぶとリーゼロッテは顔を真っ赤にする。
「これからとりあえず、王都に行きたいなあと思ってるんだけど、何かしておいた方がいい事ってあります?」
「そうですね、リンネ、今お金持ってる?」
「いや、持ってないわけではないけど、一夜の宿代くらいかなあ」
とりあえず確認目的で各々財布の中を出してみる。
リンネもリーゼロッテも所持金はそんなに持ち出していない、ルティアは使い魔だから持ってないとして、さてどうするか。
旅をするにあたって、モンスターを狩ったり、自然の恩恵を受けて果物や魚を食べたりで生きていくことはできる。
寝る場所も、いざとなればテントを張って野宿もありだろう。
しかし、それはあくまで緊急時の話。
いざ街に行って、あれが食べたい、この街にしばらく滞在したい、とシチュエーションはいろいろ考えられるが、お金が必要になってくる状況は絶対出てくるものだ。
「じゃあ、どうしようか」
と、考え出す前に、リーゼロッテが1つの提案を出した。
「ここから歩いて2日、南にリバテブという街があります。
そこでギルドに加入してはいかがでしょう?」
「ああ、えっとなんだっけ。
冒険者やモンスターを専門に狩る人達の寄り合い所みたいな場所だよね」
「そうですね、ギルドに加入登録して、依頼を受けてこなして見せればとりあえず金には困らないと思いますが」
「うん、そうだね。
先ずはその街に行ってギルドに入ろうか。
ルティアもそれでいい?」
「私はマスターに従いますよ」
そんなわけで一行は南へと歩き出した。
3年前、リンネがたどり着けなかったリバテブの街。
この街には、この国、アレストレア王国だけでなく、この世界のあらゆる国と契約を結ぶギルドと言う組織の出張所がある。
城壁に囲まれた街はリンネの故郷の町とは違ってそこそこ大きな街だ。
「でもまあ今日は野宿決定だねえ」
言いながらもリンネに3年前のような悲愴感は一切無い。
むしろこれから起こること、見るもの、感じること。
すべてにおいて楽しみにしている、そんな風に見えた。