旅立ち
――その日、リーゼロッテとルティアが起きてくると、リンネは予定を早め、森を発つ事を伝えた。
「急ですねマスター」
「準備は整ったしね。
急いでるわけでは無いんだけど、天気が変わって雨に降られても困る。
今日は良い具合に快晴だ、こういう日に旅立つのが良いかなって思ってね」
「分かりました。
リンネ様に従います、直ぐ装備を整えます」
リンネの言葉に、リーゼロッテは準備を始め、ルティアも荷物を持って来た。
ラウラはラウラで小屋の横にある物置小屋でなにやらごそごそやっているようで、時折ガチャガチャと音をたてていた。
「準備出来ました」と、装備を整えたリーゼロッテが荷物を抱えようとしたのをリンネが止め、ルティアの方にも手を伸ばす。
「荷物持つよ、しばらく歩くからね、女の子に大荷物は持たせらんないよ」
「しかしマスター、3人分も持てないでしょう?」
「そうですよ、私は鍛えてますから、むしろ荷物は私が――」
と、荷物を渡そうとしない二人に対し、リンネは手をかざして宙に魔方陣を描いて見せると、その魔方陣の中に手荷物を入れた、それこそ箱や袋に入れる要領で。
「僕が持つ訳じゃないよ、しまっとくだけさ。
ほら、二人も入れなよ」
「異層空間ですか、なるほどこれなら重さは感じませんよね。
ではお言葉に甘えて」
「これも魔法ですか、魔の知識には疎いもので、どういう原理かは知りませんが、凄いですね」
リンネに続いて、ルティアもリーゼロッテも荷物を魔方陣の上に置く、ゆっくりと魔方陣に吸い込まれていく荷物を、リーゼロッテは物珍しそうに見つめていた。
「さて、じゃあ行くとしようか、二人とも忘れ物は無いね?」
「ちょい待ち」
リンネにそう言ったのは、今の今まで物置小屋でごそごそやっていたラウラだった。
埃にまみれているが、その手に一本、杖を持っていた。
ここ3年で身長が伸び、今で170センチあるかないかの、リンネの身長を越える長さの長杖だ。
木でできているが、先端には大きな青い宝石が埋め込まれていた。
「魔法使いが杖持ってないと格好つかんだろう、私からのもう1つの誕生日プレゼントだ、お古だが、使ってやってくれ」
「良い杖をありがとう」
「旅立つお前達に、私の夫が昔よく言っていた言葉を送ろう。
振り返るな前を向け、下を見るな、上を見ろ、未来はいつも道の先にある。
……皆体に気をつけて、旅をする以上、何かトラブルに巻き込まれるかもしれないが、無事でな。
リンネ、次帰ってくるときは、嫁の一人でも連れて帰っておいで、楽しみにしてるよ」
「そういうの、僕にはないと思いますけどねえ」
「ははは、まあ元気でなって事だよ」
「はい、じゃあ行ってきます母さん」
ラウラの軽口に答え苦笑いしながら玄関の扉を開ける。
差し込む日差し、森に吹く風の音。
いつもと同じ光景なのに、いつもよりも、見慣れた光景が輝いて見えた。