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猫と狼と魔法使い  作者: リズ
第三章
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生まれた日

――小屋へ戻ったリンネ達。

リンネはラウラに事情を説明し、リーゼロッテを小屋へ案内すると「自分は準備がありますので」と自室へと戻り、なにやらごそごそと始めた。


暇をもて余したリーゼロッテとルティア、そしてラウラ。

3人はルティアの入れた紅茶でティータイムを過ごすことにした。


「そうだ、嬢ちゃんに良いものをあげよう」


「餞別だよ」と、ラウラは席を立つと自室から1振りの剣を持ち出してきてそれをリーゼロッテに渡す。


「随分前に手に入れた代物だが、保存状態は良好だった。

古い剣だがまあ困ったときには役に立つさ。

売れば金にもなるしね」


「いえ、頂き物を売るなどとそんな無粋な」


この日は特に何もなく終わり、そして夜が明けた。


――日が上り、鳥が朝のコーラスを奏でる頃、リンネはいつもの日課である走り込みをせず、ゆっくりと歩いて森を散歩することにした。


思い出しているのだ、初めてここに来た日の事、ラウラと出会った時の事、魔法を覚えた時の事、初めて魔法で自分より巨大な熊を倒した時の事。

3年の間にあった出来事を思い返し、笑みを浮かべた。


「あの日からいろいろあったなあ」


呟きながら見上げた空。

木々の間、枝葉の合間から見える空はまだ薄暗かったが、その日の快晴を予感させる程に雲1つ無かった。


自身の準備は整っている、しかしすぐに旅立たなかったのは名残惜しさが確かにあったからだ。

この森で過ごした3年間は間違いなく、リンネの人生を変えた。

両親が死んで、なかば自暴自棄になって町を出たが、あのまま旅を続けていれば、遅かれ早かれ今の歳になるより前に死んでいたように思うのだ。


旅先であの日のように狼に襲われるか、モンスターに襲われるか、はたまた野盗に襲われるか、のたれ死ぬか。

もしかしたら、自ら死を選んだ可能性もある。


しかし自分はそうならなかった、それもこれもこの森に来たから、ラウラに、もう1人の母と呼べる存在に出会ったからだ。


「感謝してもしきれないなあ」そう呟いて、リンネは近くの木に触れた。

背の高い針葉樹、川、土、森に住む動物や精霊達。

皆がリンネにとっては家族で、ここは紛れもなくもう1つの自分の故郷となったのだ。


しばらく歩いて、リンネは小屋へと戻った。

リーゼロッテとルティアはまだ寝ているのか姿は見えなかった。


「おはよう、リンネ」


起きていたのはラウラだけ。

ラウラは朝の挨拶をしながら自分で入れたコーヒーをリンネに差し出した。


「砂糖とミルク入ってます?」


「ああ、いつも通りの甘さだ」


受け取ったコーヒーを一口飲み、椅子に腰掛けるリンネ。

そんなリンネにラウラはあるものを渡した。

ローブだ、襟元や袖口に豪華になりすぎない程度に金の刺繍を施されたフード付の白いローブ。


「私があつらえた世界で1つのローブさ。

誕生日の祝いだ、おめでとうリンネ。

早速で悪いが、着て見せてくれないか私の自慢の息子の晴れ姿を拝ませてくれ」


「ありがとう、母さん」


立ち上がって受け取ったローブの袖に腕を通す。

リンネがローブを着終わると、そのローブの襟元に、ラウラはあるものを取り付けた。

鳥ような頭と翼を持つライオンのような体をした生物、グリフィンのレリーフが彫り込まれた菱形のバッジのようなものだ。


「これはエーデルシュタイン家の記章だ、今日からはリンネがエーデルシュタイン家の当主だからね」


本来、記章とは所有権や、忠誠を示すもので自身の身に付けるものでは無いのだが、この世界では貴族の当主もそれを身に付けている。

単純にどこの誰かを分かりやすくするためだ。


「エーデルシュタインの名に恥じないよう努力します」


「まあ気負わなくてもいい。

好きなように生き、疲れたら帰っておいで、私はいつでも此処にいるから」


「3年間、本当にありがとう、母さん。

絶対帰ってくるよ、いつか」


抱き締めあう母と息子。

二人の目にうっすらと涙が浮かんでいた。


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