恋心、猫にバレる
知人達への挨拶もそこそこに、リンネは来た道を引き返す。
通い詰めていた程ではなかったが、それでもリンネはどこか寂しそうだった。
そんな寂しさを紛らわせようと、リンネは、里を出る前に身支度を済ませて着いてきたリーゼロッテに声を掛けた。
「あの、リーゼロッテさん。
本当に一緒に行くんですか?」
「行きます……ご迷惑、でしょうか」
「いえ、迷惑な訳ではないんですが。
本当に旅の目的とか目標とかはないので、ここに帰ってこれるかも分からないですし。
リーゼロッテさん美人なんだから別に旅に出なくっても……」
「び、美人!? 私が、ですか!?」
リンネの言葉にリーゼロッテの顔が、林檎のように真っ赤に染まる。
しかし、リーゼロッテの前を歩くリンネにその表情が見える訳もなく。
「綺麗だと思いますけどねえ、僕は」などと軽々しく言ってしまうわけで。
「か、からかわないで下さい!」
と、リーゼロッテに後ろから怒鳴られてしまう。
そんな顔真っ赤なリーゼロッテの横に、それまでリンネの横を歩いていたルティアが速度を落としてやってきた。
「リーゼロッテ様、大変ですね想い人がまだ恋心、乙女心を理解出来てない子供で」
リーゼロッテ、もはや顔真っ赤どころか噴火寸前である。
「ちょ!? あなた何言ってるの!! っは!? まさか長老様との話を――――」
「まあ私、猫ですし使い魔ですし、人よりは遥かに耳は良いので」
リンネに聞こえないように、されどルティアには聞こえるように声をあげるリーゼロッテ。
そのリーゼロッテに対し、バッチリ聴こえましたよ、と言わんばかりに親指だけを立てるルティア。
無表情なのはリーゼロッテに同情してのことだろうか。
リーゼロッテは恥ずかしさのあまり身悶えする代わりに、頭を抱えた。
「まあもう少しこの森にいますので、忘れ物とかあれば取りに帰っても大丈夫ですよ。
僕も準備とかまだ終わってないんで、のんびり行きましょう」
「……ふぁい」
元気のない返事が気になってリンネが振り返って見てみれば、頭を抱えるリーゼロッテとなぜか笑いをこらえるルティアという光景。
そんな二人の状況が読めず、リンネは首をかしげるのだった。