狼の里の長老様
3人がやって来たのは集落の真ん中にある大樹の根元。
その根元に件の長老がいた。
「こんにちは長老、お加減いかがです?」
「長老様、リーゼロッテ参りました」
「こ、この方が長老様ですか。
は、初めまして、リンネ様の使い魔、ルティアと申します」
ルティアは長老にお辞儀をし、リーゼロッテは膝をつく。
リンネだけは頭を下げるでなく、にっこりと笑って、ひらひらと手を振った。
「来たか、リーゼ。
お前さんはどんどんラウラに似てくるな、坊主。
で、そっちの猫娘が坊主の使い魔と、よろしくなお嬢ちゃん」
長老は一言で言って狼だ。
人でも獣人でも亜人種でもないただの年老いた狼。
しかし、ただのというのも語弊がある。
今彼は大樹を背に伏せている状態ではあるが、それでもその体躯は人の高さを越え、馬すらをも越えていた。
「最初はこの集落のオブジェかと思いましたよ」とは後日のルティアの感想である。
歳を重ね、それでもなお眼光鋭く、魔法を介さずとも人語を操る巨大な狼。
その彼にリンネは近付き、そこでやっと頭を下げた。
「長老、僕明日で15才になります。
後数日位で準備を終えたら旅立つつもりです、それで今まで良くしてくれたお礼を言いに来ました」
「聞いているよ。
森の精霊達が寂しがっておったわ、まあ私も丁度使いの者を寄越してお前さんを呼ぶつもりだったんでな、手間が省けた」
「僕を呼ぶつもりだったって言うのは?」
「ああ、坊主よ、お前さんの旅に1人村の者を連れていってやってほしくてな」
ここまでの話を聞いていたリーゼロッテが、はっと我に帰ったかのように声を上げる。
「長老様、もしかして私を呼んだのは!?」
立ち上がり、長老に近付くリーゼロッテ。
そんなリーゼロッテの耳元に長老は口を近づける。
「お前が密かにこの坊主に惚れておるのは知っておるわ、行きたいんじゃろう、一緒に」
体躯に似合わずボソボソとリーゼロッテにだけ聞こえるようにそう言うと、老いた狼はクスクスと笑った。
「な、ななな何を言うのですか!?」
顔を真っ赤にして反論するリーゼロッテにリンネは疑問符を頭の上に浮かべる。
「いやいや、なあ坊主よ、このリーゼロッテを連れていってやってくれんか?
もう18にもなるのに恋人すら作ろうとせん。
旅のついでに良い話の一つでも探してやってくれんかね?」
突然の申し出に面食らったという感じでリンネは目を点にしている。
リーゼロッテはリーゼロッテで顔を真っ赤にしたままアワアワと口を開けたり閉じたり、涙目になったりで、先ほどまでの武人のような姿勢とは一転、年相応の乙女らしさが前面に押し出され、ほとんどパニック状態に陥っていた。
「僕の旅にリーゼロッテさんを連れていくのは構いませんが、行く宛のない放浪旅ですからねえ。
僕がよくっても、リーゼロッテさんが――――」
「行きます! 連れていって下さい!!」
「わ、分かりました」
遠回しに断ろうとしたリンネに、掴み掛からんばかりの勢いで近付くリーゼロッテ、尚もパニック状態である。