別れと出会いⅡ
「リンネ君!」
開いたドアから横殴りの雨が入り込んでくる、姿を表したのは見知った男性だった。
しかし父ではない、青ざめた顔のその男性は、両親と共に仕入れに行った従業員、同伴者だった。
この男性が帰ってきたのに両親が姿を表すことはないそれがどういう事か。
リンネはその男性の言った言葉に己の耳を疑った。
「リンネ君、良く聞いてくれ、実はな――」
男性が膝を落として震える声で両親が帰らない理由を話はじめた。
どうやら男性は先導として両親の乗る馬車の前を走っていたらしい。
そして山道に差し掛かった際に馬車の車輪が泥濘にハマったのだそうだ。
男性がその事に気付き、助けようと馬をそちらに向けた瞬間だったそうだ。
「すまない、ご両親を助けることが出来なかった……」
男の話では両親を地滑りが襲ったという。
山の斜面がまるで滝のようだったそうだ。
リンネはその話を信じなかった。
というよりは、信じることが出来なかった。
「おじさん、意地悪は止めてくださいよ、今日は僕の誕生日なんですよ?」
「すまない、どうしようもなかったんだ」
膝を付き、頭を抱えた男は、何度も何度もリンネに謝った。
その行動、言動、全てが両親が死んだんだとリンネに伝えていた。
見知った男の震える肩に手を置くリンネ、実感の湧かない両親の突然の死。
リンネは涙を見せなかった。
悲しくなかった訳ではないだろう。
ただそれ以上に両親を師と仰ぎ、両親の死にめに直面し、今ここで号泣している男が哀れで仕方なかった。
だからなのだろう泣きたいのを堪え、リンネは男に「おじさんは悪くないんだから泣いちゃ駄目だよ」とだけ言った。
そして、奧に行くと立て掛けていてキャンバスに最後の一筆を加え、それを呆然と眺めた。
雨はいっこうに止む気配がなかった。