ある魔法使いの話しⅡ
昔、300年程経つかな。
あるところに、一人の魔法使いがいてね。
そのある魔法使いの家は代々魔法使いをやって来た由緒ある家系だった。
それも、当時のアレストレイル王国の中枢を担う貴族の大名家の一つだ。
その当時の当主は女性でね。
これまでの魔法使いが不可能だった研究、魔法の開発、薬学、錬金術、数え切れないほどの貢献を彼女はしたんだ。
その彼女もやがて結婚した、騎士の家から幼馴染みを婿に迎えたんだ。
子供はできなかったが、それでも彼女は幸せだった。
でも、その幸せは割りと直ぐに終わってしまうのさ。
当時勃発してしまった世界を巻き込んだ魔族と人間の間で起こった戦争の戦火でね。
彼女とその夫は戦地の、それも最前線で活躍したよ。
夫の部隊が切り込み、彼女の部隊が援護する。
まさに獅子奮迅だった。
でも、ある城での迎撃戦でとうとう魔族の数に圧倒され魔法使いの夫は還らぬ人となった。
後衛に詰めていた彼女も同じ末路を辿ったよ。
城の外にいた部隊は全滅。
籠城戦が始まった。
そんな時さ、死んだと思った魔法使いの彼女は最後の力を振り絞って、研究中だったある禁術を城の外で発動させた。
禁術、禁忌、そう、完全に死んだ人間を蘇生する魔法を、彼女はその場ではじめて使い、結果、成功してしまったんだ。
そこからがらりと戦況は一転。
蘇生するだけでなく、不死となった城の外にいた部隊は魔族を全滅させた。
だがそれも成功したとは言え、不完全なもので、制限時間付きだったと気付いたのは後の事でね。
戦争が終わった直後、彼女以外の仲間は塵となって消えてしまった。
禁術を発動した彼女だけを残して、もう二度と蘇生できないように、ね。
その日、彼女は夢を見た。
光に包まれた場所に1人ポツンと立たされて、声が聴こえたんだ。
『あなたの犯した罪は重いものだ、天界には迎えられない』って。
そう一言言われて寝ていたベッドへ落ちる夢。
その後、彼女は仲間を、何よりも最愛の夫を塵へと変えてしまった罪の呵責から自ら死を選んだ。
だが、その時になってやっと夢の意味を理解した。
考えれば分かった筈なのだ、皆が塵となって消えてしまったあの日、なぜ自分1人が生き残ってしまったのか。
禁術、不死の効果が自分にも適用されていた、彼女は死ねなくなってしまったのさ。
解術の方法を試し、色んな死に方を試したが、彼女は死ななかった。
彼女は神の御業を真似しようとして神に、世界に嫌われたんだ。
その世界に嫌われた魔法使いの名を……ラウラ・エーデルシュタインと言う。