猫耳とメイド服
「さあ、一旦うちに帰ろうか」そう言いながら、ラウラは虚空に魔方陣を描き、おもむろにそこに手を突っ込むと袋の中でもまさぐるように腕を動かしていた。
「うーん、これはでかいな。
こっちは派手すぎて似合わなそうだし」
ぶつぶつと文句を言いながら、なにやら魔方陣から布を取り出しては再び魔方陣の中にゴミのようにその布を放る。
どうやらルティアに合う服を探しているようだ。
「お、これなんか良いんじゃないか?」
取り出した服をルティアに渡したラウラはどこか満足げだ。
「先生、これって――」
「メイド服だ」
見ればわかりますよ、とは言わず。
まあいいか、と肩をすくめるとリンネは立ち上がり、ルティアを見ないように回れ右をして少しルティアと距離を置いた。
「マスター、私は使い魔です、そういうのは気にしなくても良いですよ? 私、猫ですし」
渡されたメイド服の袖に手を通しながら言った言葉はリンネの行動の意味を分かったうえでの言葉だった。
「いくら君が僕の使い魔とはいえ、今の姿は猫じゃないんだ、気にするよ!」
顔を赤くして反論するリンネを尻目に、ラウラは「ほーれ帰るぞ」と言いながら今リンネのいる方向とは逆に歩き始めた。
つまりリンネがラウラに着いていくには再び回れ右をして、ルティアの方に向き直る必要があるのだ。
「ちょっと、先生待ってくださいよ」
「お母さん、だろう?」
「母さん、もうちょっと待って、下さい」
ぐっと口を閉じ拗ねたように言ったのはリンネがからかわれていると理解したからだ。
ルティアにそのつもりは微塵もなかったが、間違いなくラウラは今の状況を楽しんでいる。
「もう大丈夫ですマスター、私は裸ではありませんよ」
「普通に猫の姿でよかったんじゃ」
振り返りながら悪態をつくリンネは疲れた表情でため息をついた。
大腿部辺りまでしかない短めのスカートからフリルが覗き、肩のでたメイド服を見て再びリンネはルティアから視線を逸らすとラウラの方へと歩き、その後ろをルティアがゆっくりとした足取りでリンネに着いていく。
リンネからは見えなかったが、ラウラに貰ったメイド服に、ルティアは意気揚々だった。