使い魔Ⅱ
「召喚に応じ参上いたしました、使い魔、ルティアと申します。
以後よろしく、幼いマスター」
そんな声がリンネの耳に届いた。
ゆっくりと目を明け、光が落ち着いているのを確認して、今度は一気に目を見開いた。
鳥か、犬か、鼠か、猫か。
どんな動物が口をきいたのだと、視線を下げる。
しかし、そこに居たのは猫等の小動物ではなかった。
いや、厳密には猫ではある。
黒い猫の耳が確かにその頭には並んでいた。
問題はそれ以外だ。
肩まで伸びた黒髪は夜の闇のように黒く、瞳は月を思わせるような金色。
しかし目の前のそれは猫ではなくどこからどう見ても人間の、それもリンネと同じ年頃くらいの体を持つ少女だった。
というよりはもっと簡潔にすると、リンネの目の前に猫耳を生やした少女が膝をついてリンネを見つめていた。
しかも――
「な、ななな、なんで女の子が!? それも裸で!?」
「おっとこれは失礼を」
と、言うや否や、少女の体が縮んだ。
縮んだと言うよりは変わったのだ。
猫に。
「亜人種じゃ、無い?」
呆気に取られるリンネはついつい尻餅をついてしまった。
この世界には亜人種が多種族、多数存在している。
より獣や爬虫類に近い獣人族から今の社会に適応するため進化したのが亜人種だという説と、たんに獣人族と人間の間に生まれた者が亜人種の祖先だという説がこの世界では唱えられているのだ。
「私は使い魔の中でも人化を会得した上位種です、マスター」
ルティアと名乗った現在猫化中の少女がそう言い、再び人化してリンネの前に腰を下ろす。
胸や秘部を隠そうともしないルティアの姿に、慌てて目を両手で覆うリンネ。
暗い視界の中ででラウラが笑っているのが聴こえた。
「ハハハ、若いねえ。
何はともあれ喜びなさい『魔導、魔術に偶然無し』
リンネ、君という存在はこの世界に愛されているようだぞ……私とは違ってね」
最後の言葉がリンネには聞こえなかった。
それほど遠くにいる訳でもないが、ラウラの最後の言葉を木々のざわめきが掻き消したのだ。