使い魔
リンネが魔法の基礎を覚えて数日が経った。
当初ラウラはリンネの成長速度に舌を巻き、使い手の幼さによるマナの暴走によって起こる魔法の暴発を危惧したが、それも取り越し苦労だったようだ。
リンネの魔法への理解と親和性はここ数日の魔法の行使で確たるものだとラウラは確信する。
「少し早いが」と、その日の午後の訓練中、ラウラはリンネに一冊の本を見せながら言った。
「リンネ、使い魔と契約してみようか」
「使い魔、と言うと先生がたまに呼び出すカラスとか猫とかですか?」
「そう、あの子達は魔法使いにしか呼び出せない。
今のリンネならそれが可能かもと思ってね、まあ、個人的な興味もあるんだ。
魔法を覚えて数日の子供に使い魔との契約が出来るのかどうかのね」
ラウラの言葉がリンネにとっては嬉しかった。
それはつまり自分に期待していると言うことだ。
生きる希望を与えてくれた恩師が、母だと思えば良いと言ってくれた命の恩人が、自分に期待してくれている。
その事実がリンネに即答させた。
「やります、やらせてください」
「ん、でだ。
もし契約できたらその時は最低でも3年ここで本格的に修行してもらいたいんだ。
勝手ではあるが、私の願いを聞いてくれないか?」
「3年ですか……先生の願いって言うのは」
「それは今日、使い魔との契約が成功したら教えるわ、夕食でも食べながらね」
「わかりました」
リンネの答えに微笑み、ポンと頭に手をのせるラウラ。
「じゃあ始めようか」
リンネにいつもの広場の端に行くよう指示し、ラウラはどこから出したのか、杖を広場の中央付近の地面に刺す。
すると光が杖を中心に螺旋に広がり、円と文字を形作っていく。
魔方陣が杖を中心に作られていた。
「リンネ、ちょっと痛いがこれで少し指を切りな」
そう言ってリンネの足元に向かって投げられたのは小さなナイフ。
指示に従い指先を少し切るリンネには迷う様子もない。
指先から血がにじみ、地面に1滴血の滴が落ちた。
「さあ契約を開始しよう」
青白かった魔方陣の光が薄い紫に変わり、光が増す。
ラウラはリンネに見せた本、魔導書を開きそれを杖の上に浮かせてみせた。
「我ら魔を司る者達の友よ、血を捧げし者の呼び掛けに答よ、かの者の名はリンネ。
ソナタの新しき主である」
光が増す。
昼間だと言うのに目をあけていられないほどだ。
「使い魔の召喚というのはこんなに大掛かりな物だったろうか」リンネがそう思ったのはいくつか読んだ魔導書の知識と食い違うからだ。
そして、そんなことを考えているうちにいっそう光は強くなり、ついにリンネは耐えることが出来なくなり目を瞑ってしまうのだった。