リンネとラウラⅢ
「字の読み書きが出来るのは良かった、大分時間が省ける」
そう言って笑ったラウラは食器を片付けたテーブルの上に、今度は奥の部屋から埃にまみれた分厚い本を数冊、持ってきて広げた。
「う~ん、たまには掃除しないとダメかねえ」
そんなことを言いながらテーブルの上の本を一冊手に取り息を吹きかける。
「さて、まずは当然基礎からだ、正しい知識を身に付けないと魔法、魔術、魔導は使えない、使ってはいけないんだ」
「はい」
ラウラの言葉に背筋を伸ばし、握った手を大腿部の上に置き、かしこまって短く返事を返したリンネにラウラは微笑んだ。
そして、初日の授業が始まった。
ラウラは持っていた本をリンネが読みやすいように置き、本に書かれた内容を注釈を交えながら言葉を繋いでいく。
リンネはその言葉を聞き逃すまいと集中している。
実家は町唯一の古本屋で、リンネ自身、本が好きだ。
知的好奇心も相まってリンネは初めて見聞きする言の葉の羅列に心踊ったのだった。
「良い集中力だ、君はもしかすると魔導の道に向いているかもしれないねえ」
「そう、なんでしょうか」
「そうさ、集中力ってのは魔術、魔法、魔導、全てにおいて欠かせない物なんだから」
この日、太陽が傾き、空が紅く染まるまでリンネは本を読んだ。
ラウラが「おっとこれはいけない」と夕食の準備に取りかかってもそれに気付かないほど本にかじりついた。
旅に出てから久しく読む分厚い本、それもこれはいわゆる魔導書、その一冊目。
それをまるでご馳走でも堪能するかのように、文字1つ1つを目に、そして脳へと運んだのだ。