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婚約者について相談されたので、彼女の好きなところを話しました

作者: 肺魚
掲載日:2026/09/26

「あのぅ、リトワ様ぁ……。あなたの婚約者のケリーさんのことでぇ、ちょっと相談があってぇ」


 婚約者のケリーとの待ち合わせ場所である、校内の喫茶室へ向かっていたら、裏庭で突然知らない女生徒に話しかけられた。

 長い金髪に碧眼の、少し小柄な女生徒だ。声が妙に甘い。


「知らない人から名前で呼ばれるのは好ましくないな。僕のことは、ドーンカソ侯爵令息と呼んでほしい。それで、君は?」


 僕が胡乱げに訊ねると、急に長い髪の毛先を指先でクルクルいじりながら、上目遣いで見つめてくる。

 ただでさえ身長が低いのに、わざわざ俯いてギョロ目で見上げてくるなんて……普通に真っ直ぐ見れば良いのに。


「あっ、私、一学年下のヨーコ・レンボウって言います! リトワ様……じゃなくてドーンカソ侯爵令息のことぉ、ずぅっと前から素敵だなぁって思っていましたぁ!」


 また名前で呼ぼうとするので思わず睨むと、すぐに言い直した。

 知らない顔だけど、その名前にはどことなく聞き覚えがある。どこで聞いたんだっけ。


「そう、それはどうもありがとう。それで、ケリーのことについて、いったいどんな相談が?」


 僕が少しイライラしながら言うと、彼女は我が意を得たりというような表情で語り始める。


「あの〜う、ケリーさんってぇ、ちょっと気が強いところがあってぇ、殿方にも普通に意見を言ったりするじゃないですかぁ〜」


 舌足らずで語尾を伸ばす喋り方は気に入らないけれど、大好きなケリーのことを褒められて、僕は思わず強く頷いた。


「そうなんだよ! 僕にも変に媚びなくて、対等に話ができるんだ!」


「えっ、でも髪色もブルネットだしぃ、目の色も暗い緑でぇ……なんか暗い印象ですよねぇ?」


「僕の髪色の明るい茶色や、瞳の色の淡い青灰色が、メリハリ効いて映えるよね! だから、いつもドレスの贈り甲斐があるんだよな」


「さらさらストレートの私と違ってぇ、癖っ毛だしぃ」


「そうそう! 指を絡めるとくるんってして、可愛いんだ」


「声も少し低くてぇ、たまに掠れているしぃ」


「落ち着いていて耳に心地良いよね。たまに掠れるところがちょっとセクシーだし。それに……僕は実は、女性の高い声があんまり得意ではないんだ」


「……女性にしてはぁ、背が高いですしぃ」


 僕がウキウキとそう答えると、レンボウ嬢の声が少し低くなる。僕が高い声が苦手と言ったから、低くしたのかな。

 正直、キンキンしていて聞くに耐えなかったから助かる。


「そうなんだよ! だからタイトなドレスがよく似合うし、ダンスの時にちょうど良い高さなんだ。目が合いやすいのも嬉しいよね」


「いつも、本ばかり読んでいらして〜」


「そう、乱読家らしくてね。だからか、とても博識なんだよ」


「しかも、馬に乗るそうじゃないですか!」


「一緒に遠駆けできて楽しいよね。彼女、僕の愛馬とも仲が良いんだ」


 やたらと瞬きの多いギョロ目が、急に半眼になった。あんなふうに無理に目を大きく見開いていたら、それは目も乾くし疲れるよね。


「もっと女性らしくして欲しいとか、思わないんですかぁ? あんまり髪型にも手を入れていませんしぃ」


「充分、女性らしいと思っているよ? それに、今の髪型はシンプルだけど、よく似合ってると思うな」


「もっと華やかな色のドレスを着たりとか! 凝ったお化粧をしたりとか!」


 両手を拳にして力説してくる。

 顔が真っ赤だ。熱でもあるのかな。風邪をうつされたら嫌だなぁ。


「僕の好みで、よく僕の髪色の茶色や、瞳の色の青灰のドレスを着てもらっているんだ。それに、僕が薄化粧のほうが好みなんで、そうしてもらっているよ」


「殿方に頼らないし、可愛げがないし!」


 眉間にすごい皺が寄っている。なんか怒ってる?


「自立心があって立派だよね。でも、ああ見えて、二人きりの時には僕には甘えてくれたりするんだ。そこが可愛らしくてね」


「ちょっとしたマナー違反を、すぐに注意してくるし……」


「祖父母に子供の頃から礼儀正しく育てられたって言っていたな。侯爵家に嫁ぐのに不足がないと、母も満足しているよ」


「……」


 あれ、黙ってしまった。


「ねぇ、他には? もっと彼女の良いところを聞きたいな」


「……もう良いです!」


 僕がそう促すと、レンボウ嬢は寄ってきた時同様、急に身を翻して校舎のほうへ駆けて行ってしまった。


「えっ、もっと彼女の良いところを話したかったのに……」


 裏庭には、僕一人がポツンと残された。

 それにしても、急に話しかけてきたくせに挨拶もなしに立ち去るなんて、ずいぶんと礼儀のなっていない娘だな。



「ごめん、ケリー。待った?」


 喫茶室に着いて、僕はすぐにケリーの座っている席の向かいに腰を下ろした。

 給仕を呼んで、残り少なくなっている彼女のコーヒのおかわりと、自分用に紅茶を頼む。


「そうですね。少しだけ。でも、本を読んでいたので気になりませんでしたわ。……何か、ありましたの?」


 心配げに見つめてくる視線が嬉しい。クールな彼女がこんなふうに心配を見せてくれるのは、ごく親しい相手にだけだ。


「ここにくる途中、一学年下だという、金髪碧眼の小柄な女生徒に声をかけられてね。ヨーコ・レンボウ嬢って言ったかな。たくさん君の話をしたよ。彼女、君のこと、すごく褒めてた」


 僕がそう言うと、彼女は少し驚いたように目を見開いた。


「それって……最近、婚約者がいても気にせずに、高位貴族の令息にやたらと親しく話しかけて来るっていう、あの、ヨーコ・レンボウ男爵令嬢の話です?」


 そう言えば、前にクラスの男子生徒たちと話していて、そんな噂を聞いたことがあったなと、今さら思う。

 だからなんとなく、名前に聞き覚えがあったのか。


「そうそう、その彼女! 君のことで相談があるって言われて話を聞いたんだけど、ずっと君のこと褒めて来るから、結局なんの相談だか分からなかったな」


「褒めて……? どういったところを?」


「君の背が高いとか、声が低いとか、気が強いとか、男性にも意見をはっきり言うとか、ブルネットだとか、馬に乗るとか……」


 笑顔で僕が言い連ねると、彼女は途端に苦笑する。


「ああ〜、なるほど。それ、褒めてないですね」


「えっ?」


 なんだか納得した様子で彼女が深く頷くのに、思わず首を傾げた。


「いいえ、なんでもありませんわ。あなたが私のことをとっても好きでいてくれて、本当に嬉しいです。私も、そういうあなたのことが大好きですよ」


 突然の告白に顔が火照ってしまう。

 普段あんまり甘い言葉を言わないくせに、こうしてたまに突然言ってくるのがズルい。


「なんだよ、急に……。照れるなぁ」


 僕が赤くなった頬を咄嗟に両手で覆うと、ケリーは楽しそうに微笑んだ。

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

よろしければ、ブックマークや★評価などで応援していただけると幸いです。

また、次の作品でお会いできますように。

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― 新着の感想 ―
婚約者との仲も未来の義母との関係も、どちらも良好で良き良きですね(*´ω`*) 頬を両手で覆うとか、照れ方可愛いな侯爵令息君w 横恋慕ちゃんはもうギョロ目で無節操に高位貴族の令息を狙ってるのが学年関係…
最愛の婚約者の事は全て賞賛に聞こえるポジティブ鈍感令息。微笑ましいですね( ´艸`) そもそも人の好みは千差万別であるとヨーコちゃんはお勉強すべきですね(笑) でも、手当たり次第に声をかけるとなると、…
これは良い未来の夫。 ヨウコちゃんは悪口で付け入る隙を狙ってたんだろうけど、婚約者や恋人の悪口にのる男なんてろくでもない男だと気付けないといつか男関係で破滅しそう。
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