表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルト  作者: 暁月翔婭
PR
1/1

序章:紫眸と泡沫の夜

「つまらんな。」


誰もいないはずの玉座の間に声が響く。


時刻は深夜。皆が寝静まった後、眼が冴え眠れず城内を散歩していた時だった。普段は警備兵が立っているはずの玉座の間の扉が開いていた。侵入者かと中の様子を確認しようと隙間から恐る恐る覗くと、玉座に座る人影と大型の獣の影が見えた。その影が月の光に照らされ露になる。そのヒトは玉座が劣って見えるほどのオーラを放ち、脚を組み片肘をつきながら側にいる大型の獣を撫でていた。


「グルルル…」


獣は嬉しそうに喉を鳴らしていた。獣は白黄銅色(レグホーン)の毛色でそのヒトの何倍もの大きさで椅子の側に伏せていた。目を凝らしてみると、その獣は顔が3つあった。撫でられている頭は獅子だが、胴には山羊の顔、尾には蛇という何とも奇妙な姿だった。その姿から魔獣かと疑った。魔獣は負のエネルギーの塊である瘴気からうまれてくるため基本的に不可思議な存在だが、そのほとんどが黒く禍々しいオーラを放っている。しかし、あの獣は神々しいのである。


_まさか……いや、そんなはずは……だとしたらなぜここに……_


頭の中で思考がぐるぐると回っていると、そのヒトは僕が隠れている扉をみつめて言った。


「ルーヴェ。」


その声を聴いた途端に獣が反応し威嚇するように唸り声をあげた。


「殺すな、連れて来い。」


そのヒトが言い放った途端、僕の目の前に獣が現れた。一回の瞬きの時間の一瞬の出来事だった。僕は驚いて声を上げ後ろに尻をついていた。扉の隙間から獣の金色の瞳が僕を睨みつけていた。獣は器用に扉を開け、僕の脚に尻尾を巻き付け引き摺り出した。あまりの出来事に頭の処理が追い付かず、深夜だというのも忘れ大きな声で叫んでいた。


「え!?え、ちょっと、ちょっと待ってくれ!!」


獣は指示された通りに僕をそのヒトの前に放り投げた後、獣はそのヒトの側に戻った。そのヒトは獣を褒めるようにまた撫でていた。近くで見て改めて思うが、やはりこの獣の姿形は今まで見たことがない。獣の珍しさに見入っていると、ふと寒気が走った。先ほどまで獣に向けていた視線が僕に移ったのだ。一瞬にして緊張が全身を駆け巡り、呼吸を忘れてしまう。視線だけで射抜かれ死を錯覚させる。視線を合わせてはならないとすぐに下を向いた。自分の心臓の音が頭の中に響いて冷汗が止まらない。僕の本能が警鐘を鳴らし続けている。


「貴様、ヒュペリオンの血が混ざっているな。」

「え?」


突然のことで思わず驚きが漏れてしまった。確かにこの国の建国者はガイツ帝国の皇族ヒュペリオンの傍系であった。だがそれも何千年と昔の話である。


「名を名乗ることを許す」

「は、はい!ぼ、私はコンラッド・レオン・フローディアと申します。この国、フロイデ王国の第二王子で御座います。」

「フロイデ王国……そうか、国を創ったか。愉快な奴よ。」


僕は訳が分からず、ただ話しかけられるのを待っていた。


「退屈しのぎに下界に降りてきたが、どうやら楽しめそうだ。ルーヴェ、お前もそう思おう?」

我主(わがあるじ)の仰る通りで御座います。」

「愚問だったな。」


驚いたことにルーヴェという獣は言葉を発した。魔獣ならば話す事は疎か意思の疎通など常人にはできない。なぜなら通常、人間と出会った瞬間に獲物と見定め襲ってくるからである。魔獣は自身が消費するエネルギーを補充するために生物の生気を摂取しようとする。しかし、例外もある。魔族または魔人族とも呼ばれている種族である。彼らの中には魔獣を使役できる者がいると聞く。実際に見たことがない為、本から得た知識でしかないが魔族特有の魔力と魔獣の負のエネルギーが似たような性質を持っているからだとか。それ故に大半の人族は魔族を忌み嫌うものが多い。要はルーヴェは魔獣とは別の存在である。そしてルーヴェの主であるこのヒトも恐らく魔族ではない。つまり、僕の推測の推測通りならばこのヒト達は…


「貴様、先程からルーヴェが気になり仕方ないのだろう?面を上げよ。ルーヴェ。」

「御意。」

「は、はい!」


座りなおしたルーヴェが僕を見下ろす。とても不快そうな目で。


「我をそこらの魔獣風情と同じにするでないぞ。無知蒙昧たる人間よ。我名(わがな)はルーヴェ。我主に御使いする六神獣(シヴィーヌ)が一体、キマイラの長、ルーヴェである。」

「キマイラ!?」


まさか僕の推測の推測が当たってしまうとは……つまり、このヒト達は…いや、この御二方は我らの神である創造主様と神獣様ということになる……


僕は顔面蒼白になりながら姿勢を正して、地面にめり込む勢いで頭を下げた。


「も、申し訳ございませんでした!!まさか、創造主様と神獣様、御自らいらっしゃるとは思わず、大変失礼致しました。」

「やっと理解したか、愚かな人間よ。」

「良い、ルーヴェ。愉快な奴だ、今は踊らせておけ。」

「っ!出過ぎた真似を致しました。」


僕が王子として生まれたこの国、フロイデ王国は”ハイリヒ教”を国教としている。ハイリヒ教はこの世界を創った【創造主】を神と崇めている宗教である。『創造主はこの世界の全てを創った始祖にして、この世の全ての絶対真理である。』という教えに基づき世界中に教会があり信者は人族だけではない。創造主について分かっていることは、1,世界を創ったのが数十億年前であり、創造主はそれよりも長く存在している。2,創造主に仕える存在の七神従(セルトゥール)と六神獣がいる。3,彼らは常に空を移動し続けている天空島(イレスティア)に住んでいる。4,彼らは下界を見守り、罪には罰を、功には祝福を与えている。これらは長い年月をかけてハイリヒ教徒たちが集めた情報を基に判明し、自ずと受け継がれてきた。


パチンッ___


突然の破裂音に反射的に上を向いてしまった……紫色の瞳と目が合った。世界には自然に持つことができない色がある。それが紫である。この色を瞳に持つ者は滅多におらず、いたとしても色が濃く黒や紺と間違えてしまうほどだ。しかし、今みた紫は、光の加減で透明にも見えるほど薄く、美しい。更に創造主しか持たぬ白金(プラチナ)の長髪が靡いていた。この世界の美しいとされる景色や芸術、生物全てが霞んでしまう程の美貌に見惚れてしまった。


__ハッ!


目を覚ますと目の前は見慣れた天井で、自分のベットの上だった。


「あれ……僕は一体……」


頭が追い付かず、ぼうっとしていると部屋の扉がノックされた。


「おはようございます、コンラッド殿下。起床のお時間で御座います。」

「あ、あぁ。入っていいぞ。」

「失礼致します。」

「なあ、クロード……昨日、僕は……」

「どうなさったのですか?殿下、どこか具合が悪いのですか?侍医をお呼びしますか?」

「あ、いや……なんでもない。身支度を頼む。」

「はい、畏まりました。」


あの出来事を思い出そうとすると靄がかかったように何も思い出せなかった。しかし、身支度を終える頃には何を考えていたのかも忘れてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ