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第6話:『伝統の壁と、黄金の炭水化物』

 王宮の厨房は、一触即発の熱気に包まれていた。


「ならぬ! 断じて許さぬぞ! このような卑しき泥土の産物を殿下の御前に出すなど、王宮医官の名にかけて私が阻止する!」


 レイの前に立ちはだかったのは、金縁の眼鏡を神経質そうに指で押し上げた男――宮廷魔道医のゼノムだった。彼の後ろには、腕組みをして不快感を示す料理長と、困惑した顔の料理人たちが控えている。


 レイの手元にあるのは、調理台に置かれた数個の「バルバロの実(芋)」。そして、それをすり潰すための無骨な器具だ。


「これは『マナの火種』です。医官殿、殿下の脳と筋肉を動かすには、今の肉中心の食事では燃料が決定的に足りない。この芋に含まれる糖質こそが、暴走を止める唯一の解決策なんです」


「黙れ、学園を追放された落ちこぼれが! 殿下の不調は精神の揺らぎ……聖なる祈祷と、最高級の魔肉バーによる『浄化』こそが必要なのだ。泥臭い芋を食えば魔法が強くなるなど、魔道学千年の歴史に対する冒涜だ!」


 レイは冷めた目で、ゼノムが手にしている「乾燥魔肉バー」を見た。靴の踵のように硬く、消化に数時間を要する代物。高出力魔法を放ち、今まさにエネルギー枯渇(ガス欠)を起こそうとしている細胞が求めているのは、そんな「重石」ではない。


(理屈じゃない。こいつらは自分たちが信じてきた『権威』を守りたいだけだ。だが、体は嘘をつかない)


 レイが反論しようとしたその時、厨房の重厚な扉が地鳴りのような音を立てて開いた。


「やかましいぞ、ゼノム。私の食事を決めるのは、私だ」


 現れたのは、トレーニング用の軽装に身を包んだラティシマだった。二メートルを超えるその巨躯が放つの威圧感に、ゼノムが小さく震える。


「し、しかし殿下! この平民は医学の基礎も知らず、殿下に家畜の餌を食わせようと……!」


「ゼノム。貴様の『高価な薬』で私の暴走が止まったことが一度でもあったか? 貴様が『精神の乱れ』と切り捨てていた私の苦しみを、この男は『腹が減っているだけだ』と一笑に付した。私は、自分の腹の虫を信じることにしたのだ」


 ラティシマはレイの隣に立ち、調理台の上の泥臭い芋をじっと見つめた。その瞳には、誰の言いなりにもならない王族としての鋭い意志が宿っている。


「レイ。作れ。……伝統だの格式だのは、もう聞き飽きた。私は今、猛烈に腹が減っている。貴様の言う『火種』とやらを、私に注いでみせろ。その結果を見てから、私はこの男を信じるか、それとも処刑するかを決める」


「……承知しました、殿下。最高効率のガソリンをお見せしましょう」


 レイは迷いなく芋を捌き始めた。皮を剥き、蒸し上げ、マナの吸収を助ける微量の塩とスパイスを加える。

 伝統派が見守る中、王宮の厨房に、甘く香ばしい「科学いも」の匂いが立ち込め始めた。

【今回のマッスル知識】

■低血糖とブドウ糖の即効性

王女が「暴走」していたのは、魔法という高負荷な活動に対して、脳と筋肉へのエネルギー供給が途絶えていたからです。

* 糖質制限の罠: ゼノムたちが推奨する「魔肉(タンパク質)」は筋肉の材料にはなりますが、即効性のエネルギーにはなりません。燃料がない状態でアクセルを踏み込めば、エンジン(肉体)が悲鳴を上げるのは当然です。

* バルバロの実(芋): 現代で言えばマルトデキストリンに近い多糖類。これをピューレ状にすることで消化の負担を最小限にし、爆速で血中にマナ(エネルギー)を送り込むのがレイの狙いです。

■作者より:読者の皆様へ(指摘・考察大歓迎!)

ここまでお読みいただきありがとうございます!

本作は「異世界ファンタジー×現代科学」の融合に挑戦していますが、設定やロジックに「穴」がないか、作者も常に筋肉を震わせながら考えています。

そこで、読者の皆様にお願いがあります!

**「その理屈はおかしい」「魔法と筋肉の相関性に矛盾があるのでは?」**といった、鋭いツッコミや設定への指摘を大募集しています。

* 「そんなに糖質を摂ったら逆にインスリンショックが起きるのでは?」

* 「魔力測定器が握力計なら、背筋力はどう測るんだ?」

などなど、皆様のマッスル・インテリジェンスによる厳しい「アラ探し」が、この物語をより強く、太くする「超回復」の糧になります。皆様の熱いコメント(指摘)、お待ちしております!


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