第4話:『最高の燃料』
王宮の厨房。そこに出されたのは、王家が誇る最高級の滋養食材、**『バルバロの実』**だった。
「……これが、殿下の活力を支える至宝です」
料理長が差し出した紫色の芋を、俺は恭しく受け取り、その端を少しだけ口に含んだ。
(……この、舌にまとわりつくような独特の粘性。そして、噛むほどに一気に広がる暴力的な甘み。なるほど……現代でいう『高GIデンプン』の塊か。これなら使える)
「料理長、不躾なお願いとは存じますが……これを蒸して皮を剥き、乳と混ぜて滑らかなピューレにして頂けないでしょうか」
「なっ、味付けもせずにそんな離乳食のようなものを殿下に出せというのか!? 殿下にはこの最高級の赤身肉こそが相応しい!」
料理長が指さすのは、脂の乗った見事な霜降り肉だ。俺はあえて丁寧に、だが断固として首を振った。
「恐れながら、今の殿下の体は『火事』の後のようなものです。そこに重い薪(肉)をくべても、今は燃やす力が残っていません。まずはすぐに消える、効率の良い燃料が必要なのです。……どうか、私の勘を信じてはいただけませんか」
その丁寧だが確信に満ちた言葉に、料理長は毒気を抜かれたように頷いた。
数分後。ラティシマが、器に入れられた「無味乾燥な泥」のようなものを一口、口にした。
「…………っ!?」
次の瞬間、彼女の目が見開かれた。
噛む必要すらない。喉を通った瞬間にエネルギーへと変わり、指先の末端までジワリと力が伝播していく感覚。
これまで食べていた豪華な肉料理は、消化のために大量のエネルギーを消費させ、体に「重だるさ」を残していた。だが、これは違う。
「……お腹の底が、静かだ。……いつも、魔法を使うたびに感じていたあの焼け付く不快感が……引いていく」
「……良かったです。殿下の体は、ただ純粋な『エネルギー』を求めていただけなのですから」
ラティシマは、行儀を忘れたかのように夢中でピューレを啜った。彼女の頬にようやく赤みが戻り、手の震えが完全に止まった。
「…………ふぅ。落ち着いたぞ」
器を置き、ラティシマが俺を真っ直ぐに見据えた。その瞳には鋭い知性が戻っている。
「それにしても貴様、急に殊勝な態度になったな? 先ほど試験会場では、私に向かって『黙って見てろ』と吠え、挙句に私の口の中に妙な結晶をねじ込んだ不遜な男はどこへ行った」
周囲の騎士たちがピリついた。俺は落ち着いて一歩下がり、深く頭を下げた。
「……失礼いたしました。あの時は殿下の御命が最優先の、いわば緊急時。一刻を争う現場で礼節を重んじる余り、殿下を失うわけには参りませんでした」
俺の答えに、ラティシマは一瞬呆気に取られたような顔をしたが、やがて愉快そうに鼻を鳴らした。
「ふん。現場の判断、というわけか。……気に入ったぞ、平民。貴様を私の側に置く。その不思議な『知恵』、私に貸せ」
王女の視線には、もはや蔑みはない。あるのは、自分の体の救世主に対する深い信頼だった。




