表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された騎士団団長の花屋日誌  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/19

新しい仲間

【ある日の午前】


 いつものように店を開けて、花の水やりをしていると、扉が勢いよく開いた。


「団長ー!!」


 その声に、俺は手を止めた。


 店に飛び込んできたのは、見覚えのある顔。

 アレン。元第一騎士団の情報収集担当だった男だ。


「アレン……お前、どうした」

「団長! いや、ガレスさん! 雇ってください!」


 アレンは、満面の笑みで言った。


「……何を言ってる」

「花屋の店員として、雇ってください! 騎士団、合わないんでやめてきました!」


 俺は、しばらく黙ってアレンを見た。


 軽い口調。明るい笑顔。

 だが、その目は——いつも通り、鋭い。


「騎士団を、辞めた?」

「はい! もう正式に辞表出してきました!」


 アレンは、胸を張って言った。


「俺、ずっと思ってたんですよ。騎士団、なんか合わないなーって」

「……お前、情報収集で優秀だっただろう」

「そうなんですけどねー。でも、あの堅苦しい雰囲気、どうも好きになれなくて」


 アレンは、あっけらかんと笑った。


「それに、新しい団長、全然ダメじゃないですか。あんな人の下で働くの、無理無理」

「……」

「だから、思ったんです。俺、団長についていこうって」


 アレンは、真剣な顔で俺を見た。


「ガレスさん、俺、花屋のことは全然わかりませんけど、働かせてください。給料安くてもいいです」

「……なぜだ」


 俺は、静かに聞いた。


「なぜ、俺についてくる」

「だって、俺が信頼してるのは騎士団じゃなくて、ガレスさんですから」


 アレンは、あっさりと言った。


「組織より、人です。俺、そういうタイプなんで」


 俺は、アレンをじっと見た。


 この男は——軽く見えるが、頭が切れる。

 そして、今、何か隠している。


 騎士団を辞めた理由。

 わざわざ俺のところに来た理由。

 優秀なコイツは引く手が数多だったと容易に予想がつく。


 恐らく、王太子の息がかかっている。

 俺の様子を見張るために、送り込まれたのだろう。


 だが——


「……好きにしろ」


 俺は、短く答えた。


「え、マジですか!?」


 アレンの顔が、ぱっと明るくなった。


「やったー! ありがとうございます、団長……じゃなくて、店長!」

「店長とも呼ぶな。ガレスでいい」

「了解です、ガレスさん!」


 アレンは、嬉しそうに店の中を見回した。


「じゃあ早速、何すればいいですか?」

「とりあえず、水やりを手伝え」

「了解!」


 アレンは、さっそく水差しを持って動き始めた。


 俺は、その背中を見ながら思った。


 こいつは、王太子の命で来たのだろう。

 だが、同時に——本心でもあるのかもしれない。


 まあ、いい。

 俺に隠すことなど、何もない。


 好きに見張らせればいい。


◆◆◆


【昼過ぎ】


 アレンは、予想以上に働き者だった。


 水やり、花の手入れ、店の掃除。

 指示したことを、テキパキとこなしていく。


 そして——


「いらっしゃいませー!」


 客が来ると、アレンは明るく声をかけた。


「お花、お探しですか? 今日はこの黄色いバラがおすすめですよー!」

「あら、可愛い……」

「花言葉は『友情』『平和』です! 贈り物にぴったりですよ!」


 アレンの軽快なトークに、客は笑顔で花を買っていった。


「……お前、商売向いてるな」


 俺が言うと、アレンはにっこり笑った。


「情報収集の仕事してたんで、人と話すの得意なんですよ」

「そうか」


 確かに、アレンの接客は自然で、押し付けがましくない。

 客も、心地よさそうに話している。


「あ、ガレスさん。この花、名前なんでしたっけ?」

「カーネーション。花言葉は『無垢で深い愛』」

「了解です! 覚えます!」


 アレンは、メモを取り始めた。


 真面目に働いている。

 少なくとも、表面上は。


◆◆◆


【夕方】


 夕方、エレナが店を訪れた。


「こんにちは、ガレスさん」

「ああ、いらっしゃい」


 すると、アレンが目を輝かせた。


「おお! お客さんですか! いらっしゃいませー!」

「あ、はい……」


 エレナは、少し驚いた様子でアレンを見た。


「ガレスさん、この方は……?」

「今日から働いてもらうことになった。アレンだ」

「アレンです! よろしくお願いします!」


 アレンは、爽やかに笑った。


「えっと……図書館司書のエレナです」

「図書館司書! すごいですね! 本、めっちゃ読まれるんですか?」

「ええ、まあ……専門書が多いですけど」

「かっこいい! 俺、本読むの苦手なんですよねー」


 アレンは、人懐っこく話しかけた。

 エレナは、少し戸惑いながらも、優しく微笑んでいた。


「エレナさんは、いつも来てくれる常連客だ」


 俺が言うと、アレンは「おお!」と声を上げた。


「じゃあ、これからよろしくお願いします!」

「こちらこそ」


 エレナは、いつものように花を一輪買って帰っていった。


 扉が閉まると、アレンがニヤニヤしながら言った。


「ガレスさん、あの人、めっちゃ良い人じゃないですか」

「……そうだな」

「常連なんですよね? 結構仲良いんですか?」

「普通だ」

「へー」


 アレンは、何か思うところがあるような顔をしていた。


 だが、それ以上は何も言わなかった。


◆◆◆


【店を閉めた後】


 一日の仕事が終わり、店を閉める。


 アレンは、最後の片付けをしながら言った。


「ガレスさん、今日はありがとうございました。明日も来ていいですか?」

「ああ、頼む」

「了解です!」


 アレンは、満足そうに笑った。


「じゃあ、お疲れ様でしたー!」


 彼が店を出ようとしたとき、俺は静かに言った。


「アレン」

「はい?」

「殿下に、よろしく伝えておけ」


 その瞬間、アレンの動きが止まった。


 彼は、ゆっくりと振り返った。


「……バレてましたか」

「最初から」


 俺は、淡々と答えた。


「お前が騎士団を辞めて、わざわざ俺のところに来る理由なんて、一つしかない」

「……さすがですね」


 アレンは、苦笑した。


「殿下から、頼まれたんです。ガレスさんの様子を、定期的に報告してくれって」

「そうだろうな」

「でも——」


 アレンは、真剣な顔で俺を見た。


「でも、俺がここに来たのは、本心でもあるんです」

「……」

「俺、本当にガレスさんのこと、尊敬してるんで。だから、そばにいたかった」


 アレンの目は、嘘をついていないように見えた。


「殿下への報告も、ガレスさんが元気にやってるって、良いことしか伝えませんから」

「好きにしろ」


 俺は、肩をすくめた。


「俺に隠すことなど、何もない。好きに見て、好きに報告しろ」

「……ありがとうございます」


 アレンは、深く頭を下げた。


「じゃあ、明日も頑張ります」

「ああ、頼むぞ」


 アレンは、笑顔で店を出ていった。


 俺は、一人残った店で、最後の片付けをした。


 王太子の息がかかった男を、店に置く。

 普通なら、警戒すべきだろう。


 だが、俺には関係ない。


 俺は、ただ花を売っている。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 見たいなら、見せてやればいい。

 報告したいなら、報告すればいい。


 俺の生活に、やましいことは何もないのだから。


◆◆◆


【日誌】


 今日、アレンという元部下が、店で働き始めた。


 王太子の命で、俺を監視するために来たのだろう。

 だが、俺はそれを承知で受け入れた。


 アレンは、良く働く。

 客との接し方も上手い。


 そして——本心でも、俺についてきたいと思ってくれているようだ。


 複雑な男だが、悪い奴ではない。

 これから、この店は少し賑やかになるだろう。


 それも、悪くない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ