表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された騎士団団長の花屋日誌  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

謝罪の花

【一ヶ月目】


 花屋を始めて一ヶ月が経った。


 店は、確実に街に根付き始めている。

 常連客も増え、朝から夕方まで、途切れることなく人が訪れるようになった。


 そんなある日の午後、一人の若い男が店に飛び込んできた。


「すみません!」


 息を切らした様子で、彼は俺を見た。


「花を……花を、売ってください!」

「落ち着け」


 俺は、静かに言った。


「何があった」

「その……恋人と、喧嘩をしてしまって」


 若者は、困った顔で頭を掻いた。


「俺が悪かったんです。約束を忘れて、彼女を怒らせてしまって……謝りたいんですけど、どうすればいいか……」


 彼は、必死な様子だった。


「それで、花を贈ろうと思ったのか」

「はい! 花なら、気持ちが伝わるかなって……」


 俺は、少し考えた。


「お前の名前は」

「トーマスです」

「トーマス、彼女に何と言って謝りたい」


 トーマスは、真剣な顔で答えた。


「本当に、ごめんなさいって。もう二度と同じことはしないって。そして……これからも、ずっと一緒にいたいって」


 俺は、頷いた。


「わかった。なら、この花だ」


 俺は、店の奥から白いカサブランカを取り出した。


「カサブランカ。花言葉は『純潔』『高貴』『祝福』。そして……『威厳』」

「威厳……?」


 トーマスは、首を傾げた。


「謝罪に威厳って、合わないんじゃ……」

「いや、合っている」


 俺は、花を見せながら説明した。


「威厳とは、自分の過ちを認め、真摯に向き合う強さのことだ。お前が本気で謝るなら、この花がふさわしい」

「……そうなんですか」


 トーマスは、真剣な顔でカサブランカを見つめた。


「それと、もう一つ」


 俺は、青い花――デルフィニウムを手に取った。


「デルフィニウム。花言葉は『清明』『あなたは幸福をふりまく』。そして……『誠実』」

「誠実……」

「謝罪には、誠実さが必要だ。この花と一緒に贈れば、お前の気持ちが伝わるだろう」


 トーマスは、深く頷いた。


「ありがとうございます! じゃあ、その二つをください!」

「待て」


 俺は、もう一輪、花を取り出した。


 赤いチューリップ。


「これも、持っていけ」

「チューリップ……これは?」

「花言葉は『愛の告白』。そして、赤いチューリップは『真実の愛』を意味する」


 俺は、三つの花を丁寧に束ねた。


「カサブランカで誠意を示し、デルフィニウムで誠実さを伝え、チューリップで愛を誓う。これなら、彼女にも伝わるはずだ」

「……ありがとうございます」


 トーマスは、涙ぐみながら花束を受け取った。


「絶対に、仲直りします」

「ああ。だが、忘れるな」


 俺は、彼の目を見た。


「花は、気持ちを伝える手段だ。だが、本当に大切なのは、お前自身の言葉と行動だ」

「……はい」

「ちゃんと、自分の言葉で謝れ」

「はい! 必ず!」


 トーマスは、花束を大切に抱えて店を出ていった。


 俺は、彼の背中を見送った。

 若者らしい、真っ直ぐな姿だった。


 きっと、大丈夫だろう。


◆◆◆


【数日後】


 数日後、トーマスが再び店を訪れた。


 今度は、一人の女性と一緒だった。


「ガレスさん!」


 トーマスは、満面の笑みで店に入ってきた。


「仲直りできました! 彼女、花を見て泣いて……それで、俺の話もちゃんと聞いてくれて……」

「そうか。良かったな」

「本当に、ありがとうございました!」


 彼の隣にいる女性も、恥ずかしそうに頭を下げた。


「あの、ありがとうございました。あの花束、本当に綺麗でした」

「いや、礼には及ばない」


 俺は、二人を見た。

 仲の良さそうな、若いカップルだ。


「これからも、仲良くな」

「はい!」


 二人は、嬉しそうに花を一輪ずつ買って帰っていった。


 店に、また静けさが戻る。


 花は、人の気持ちを伝える。それを、改めて実感した。

 謝罪も、愛も、感謝も。花を通じて、人は想いを届ける。


 俺は、その手助けをしているだけだ。


 だが、それで良い。

 花と共に生きる、この人生で。


◆◆◆


【夕暮れ】


 夕方、店の片付けをしていると、エレナが訪れた。


「こんにちは、ガレスさん」

「ああ、いらっしゃい」


 エレナは、いつものように本を抱えていた。


「今日は、どんな花を?」

「実は……相談があって」


 彼女は、少し恥ずかしそうに言った。


「友人に、お見舞いの花を贈りたいんです。どんな花がいいでしょうか」

「お見舞いか」


 俺は、少し考えた。


「なら、ガーベラがいいだろう」


 俺は、オレンジ色のガーベラを手に取った。


「ガーベラの花言葉は『希望』『前向き』。オレンジ色は『冒険心』『我慢強さ』を意味する」

「希望と前向き……」

「病気の人には、前を向く力が必要だ。この花なら、励ましになるだろう」

「ありがとうございます。これにします」


 エレナは、嬉しそうにガーベラを受け取った。


「ガレスさんは、本当に花のことを知ってますね」

「客の相談に乗るうちに、覚えていった」

「素敵です」


 エレナは、優しく微笑んだ。


「花を通じて、人を助けてるんですね」

「……そんな大したことじゃない」

「いいえ。とても、大切なことだと思います」


 彼女の言葉に、俺は少しだけ心が温かくなった。


「また、来ます」

「ああ」


 エレナは、ガーベラを大切に抱えて帰っていった。


 夕日が、店を優しく照らしている。


 今日も、色々な人が訪れた。

 そして、花を通じて、想いが届けられた。


 俺は、剣を置いた。

 そして、花を手に取った。


 この選択は、正しかった。

 そう、思えるようになってきた。


◆◆◆


【日誌】


 花屋を始めて一ヶ月。


 今日、若い恋人が花で仲直りをした。

 俺が選んだ花が、二人の気持ちを繋いだ。


 花は、人の想いを伝える。

 謝罪も、愛も、励ましも。


 俺は、その手助けをしている。

 それだけだが、それで十分だ。


 騎士として、俺は剣で人を守った。

 今は、花で人を支えている。


 形は違うが、本質は同じなのかもしれない。


 エレナも、また訪れた。

 彼女は、いつも優しい言葉をくれる。


 「花を通じて、人を助けてる」


 そう言われて、少しだけ嬉しかった。


 ――俺は、花と共に生きている。

 この小さな花屋で、静かに。


 それが、俺の選んだ道だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ