想いを伝える日
【約束の日】
その日、俺は朝から緊張していた。
「ガレスさん、落ち着いてくださいよ」
アレンが、笑いながら言った。
「……落ち着いている」
「全然落ち着いてないじゃないですか。さっきから同じ花の水やりを三回もしてますよ」
「……そうか」
俺は、苦笑した。
夕方、エレナと会う約束をしている。
場所は——俺の故郷。
母の墓の近くの、花に囲まれた丘。
「ガレスさん、これ」
アレンが、赤いバラを差し出した。
「昨日、選んでたやつですよね。綺麗に包んでおきました」
「……ありがとう」
俺は、赤いバラを受け取った。
花言葉は『愛』『あなたを愛しています』。
この花と共に、想いを伝える。
◆◆◆
【故郷へ】
午後、俺は花屋の前でエレナを待っていた。
約束の時間ちょうどに、エレナが現れた。
彼女は、白いワンピースを着ていた。
「お待たせしました、ガレスさん」
「いや、今来たところだ」
俺は、用意していた馬車を指差した。
「少し遠いが、行きたい場所がある」
「はい」
エレナは、微笑んで頷いた。
二人は、馬車に乗り込んだ。
王都から一時間ほどの、小さな村。
俺が生まれ育った場所。
母が眠る場所。
馬車の中、エレナは窓の外を見ていた。
「ガレスさんの故郷なんですね」
「ああ」
俺は、静かに答えた。
「母が、眠っている場所だ」
エレナは、優しい目で俺を見た。
「……会いたいです。お母様に」
「ああ」
俺は、頷いた。
「紹介したい」
◆◆◆
【母の墓】
村に着くと、俺とエレナは母の墓を訪れた。
「母さん」
俺は、墓前に花を供えた。
エレナも、持ってきた白い花を供えた。
「紹介する。エレナだ」
俺は、静かに言った。
「大切な人だ」
エレナは、深く頭を下げた。
「初めまして。エレナと申します」
「……」
「ガレスさんを、いつも見守っていてくださって、ありがとうございます」
エレナの言葉に、風が優しく吹いた。
「今日、この方に想いを伝える」
俺は、母の墓に手を合わせた。
「見守っていてくれ」
風が、また優しく吹いた。
まるで、母が応えてくれたように。
◆◆◆
【花の丘】
母の墓から少し歩いた丘へ、二人で向かった。
そこは、色とりどりの花が咲く場所だった。
母が、生前よく手入れをしていた場所。
今は、村人たちが大切に守っている。
勿忘草、ラベンダー、白いスミレ。
そして——母が最も愛した、白い芍薬。
「綺麗……」
エレナが、周りの花を見渡した。
「ここは……」
「母が、愛した場所だ」
俺は、静かに言った。
夕日が、ゆっくりと沈み始める。
花に囲まれた丘。
母の想い出が詰まった場所。
ここで——
俺は、想いを伝える。
◆◆◆
【告白】
俺は、エレナの前に立った。
心臓が、大きく跳ねる。
「エレナさん」
「はい」
「……話したいことがある」
俺は、赤いバラを差し出した。
「これを、受け取ってほしい」
エレナは、驚いたように赤いバラを見た。
「赤いバラ……」
「花言葉は『愛』『あなたを愛しています』」
俺は、真っ直ぐにエレナを見た。
「エレナさん、俺は——」
深く息を吸う。
そして——
「あなたが、好きだ」
エレナの目が、大きく見開かれた。
「初めて店に来た時から、ずっと——」
俺は、続けた。
「あなたと話す時間が、楽しかった」
「あなたの笑顔を見ると、心が温かくなった」
「あなたがいない日は、寂しかった」
俺の言葉は、淡々としていた。
だが、真っ直ぐだった。
「戦場に行く時、あなたがくれた勿忘草が、俺を支えた」
「帰ってきた時、あなたが待っていてくれて、嬉しかった」
俺は、膝をついた。
騎士が王に忠誠を誓うように。
「エレナさん、俺はあなたに誓う」
俺は、彼女を見上げた。
「あなたを守る」
「あなたと共にいる」
「あなたを、幸せにする」
夕日が、二人を照らしていた。
「だから——」
俺は、赤いバラを差し出した。
「俺と、一緒にいてほしい」
静寂。
風だけが、優しく吹いていた。
エレナは——
涙を流していた。
「……ガレスさん」
エレナは、涙を拭いた。
「私も、ずっと——」
彼女は、懐から一輪の花を取り出した。
白い芍薬。
「この花を、渡したかったんです」
エレナは、微笑んだ。
「花言葉は『恥じらい』『はにかみ』。そして——『幸せな結婚』」
「……!」
「私、ガレスさんのことが好きです」
エレナは、真っ直ぐに俺を見た。
「初めて会った時から、ずっと」
「エレナさん……」
「ガレスさんの優しさが、好きです」
「花を愛する心が、好きです」
「淡々としているけど、誰よりも人を想う姿が、好きです」
エレナは、白い芍薬を俺に差し出した。
「だから、私からも誓います」
彼女の目は、涙で濡れていたが——強かった。
「ガレスさんを支えます」
「ガレスさんと共にいます」
「ガレスさんと、幸せになります」
そして——
彼女は、微笑んだ。
「一緒にいてください、ガレスさん」
俺は、立ち上がった。
そして——
エレナを、抱きしめた。
「……ありがとう」
俺の声は、震えていた。
「ありがとう、エレナ」
エレナも、俺を抱きしめ返した。
「こちらこそ、ありがとうございます」
二人は、しばらくそのまま抱き合っていた。
夕日が、二人を優しく包んでいた。
花に囲まれた丘で。
母が愛した場所で。
俺たちは、想いを伝え合った。
◆◆◆
しばらくして、二人は並んで座った。
夕日を見ながら。
「ガレスさん」
「ん?」
「これから、どうします?」
エレナが、少し恥ずかしそうに聞いた。
「……結婚したい」
俺は、素直に答えた。
「そして、一緒に花屋を営みたい」
「……!」
「お前が望むなら、だが」
エレナは、嬉しそうに微笑んだ。
「はい。喜んで」
彼女は、俺の手を握った。
「一緒に、花屋を」
「一緒に、人生を」
俺も、彼女の手を握り返した。
「ああ」
二人は、夕日を見つめた。
赤いバラと白い芍薬。
愛と幸せな結婚。
二つの花が、二人の未来を祝福していた。
◆◆◆
【帰り道】
村を出る前に、もう一度母の墓に手を合わせた。
エレナも、隣で。
「母さん、俺は幸せになる」
俺は、静かに言った。
「この人と」
エレナは、俺の手を握った。
「お母様、見守っていてください」
エレナが、優しく言った。
「私たち、二人で頑張ります」
風が、優しく吹いた。
母の祝福のように。
「行こうか」
俺は、エレナの手を握り返した。
「はい」
二人は、手を繋いで王都へ向かった。
新しい未来へ。
共に歩む人生へ。
◆◆◆
【日誌】
今日、エレナに想いを伝えた。
母が愛した、花の丘で。
俺の想い。
エレナの想い。
二つの想いが、一つになった。
エレナは、白い芍薬をくれた。
『幸せな結婚』
その花言葉の通り——
俺たちは、幸せになる。
一緒に。
これから、二人で花屋を営む。
共に笑い、共に生きる。
それが、俺たちの未来だ。
母さん、見守っていてください。
俺は、幸せになります。この人と。




