想いを伝えるために
【花屋再開】
戦いから三日後、花屋『ノーブル・ブルーム』を再開した。
店の花たちは、アレンがきちんと手入れをしてくれていた。
「おかえりなさい、ガレスさん」
アレンが、嬉しそうに言った。
「ただいま」
俺は、店の花を見回した。
変わらない、静かな空間。
これが、俺の居場所だ。
「お客さん、結構来てましたよ。『団長が帰ってきたら、また来る』って」
アレンが、報告してくれた。
「そうか。ありがとう」
「それと……」
アレンは、ニヤニヤしながら言った。
「エレナさん、毎日来てましたよ」
「……そうか」
俺の顔が、少し熱くなった。
◆◆◆
【決意】
その日の夕方、エレナが店を訪れた。
「ガレスさん、再開したんですね」
「ああ。また、よろしく頼む」
俺は、微笑んだ。
エレナも、嬉しそうに微笑み返した。
「あの……エレナさん」
俺は、少し緊張しながら言った。
「近いうちに、話したいことがある」
「……話?」
「ああ。二人で、ゆっくり話せる時間が欲しい」
エレナは、少し頬を染めた。
「……わかりました」
「三日後、夕方、時間を作ってもらえるか?」
「はい」
エレナは、静かに頷いた。
「待ってます」
彼女は、そう言って店を出ていった。
俺は、彼女の後ろ姿を見送った。
——三日後。
その時、俺は想いを伝える。
だが——
どう伝えればいいのか。
俺は、花の扱い方は知っている。
だが、恋愛のことは、わからない。
◆◆◆
【相談:アレン】
「アレン」
俺は、店を閉めた後、アレンに声をかけた。
「はい?」
「……相談がある」
俺は、少し躊躇した。
「実は……エレナさんに、想いを伝えようと思っている」
アレンの顔が、ぱっと明るくなった。
「やっと! やっとですか!!」
「……やっと?」
「いやだって、見てる方がもどかしかったんですよ! お互い好き同士なのに!」
アレンは、興奮気味に言った。
「で、相談って?」
「……どう伝えればいいか、わからない」
俺は、正直に言った。
「花は選べる。だが、言葉が……」
アレンは、少し考えた。
「うーん……ガレスさんらしく、シンプルに伝えればいいんじゃないですか?」
「シンプルに?」
「ええ。『好きです』『一緒にいたい』って、素直に」
アレンは、真剣な顔で言った。
「ガレスさんの言葉は、いつも淡々としてるけど、誠実です。だから、そのままでいいと思いますよ」
「……そうか」
俺は、少し安心した。
「それと——」
アレンは、ニヤリと笑った。
「花も渡すんですよね? どんな花にします?」
「それは……もう決めている」
俺は、店の奥を見た。
「あの花だ」
◆◆◆
【相談:エドワード】
翌日、騎士団の訓練場を訪れた。
エドワード、ルーカス、アランが、訓練をしていた。
「団長!」
エドワードが、驚いて駆け寄ってきた。
「どうされたんですか?」
「……相談がある」
俺は、三人を見た。
「実は——」
俺は、事情を話した。
三人は、顔を見合わせた。
そして——
「やっとですか!」
三人、声を揃えた。
「……お前たちもか」
俺は、苦笑した。
「だって、見てればわかりますよ!」
ルーカスが、笑いながら言った。
「エレナさん、団長のこと大好きじゃないですか」
「そ、そうか……?」
「そうですよ! 団長が戦場に行く時、泣いてたし」
アランが、言った。
「それで、相談って?」
「……告白の仕方が、わからない」
俺が言うと、三人は真剣な顔になった。
「うーん……」
エドワードが、考え込んだ。
「団長らしく、誠実に伝えればいいと思います」
「誠実に……」
「ええ。団長の言葉は、いつも真っ直ぐです。だから、そのままでいいんじゃないですか」
エドワードの言葉は、アレンと同じだった。
「それと——」
ルーカスが、言った。
「場所も大事ですよ。ロマンチックな場所で!」
「ロマンチック……?」
「例えば、夕暮れの公園とか、花が咲いてる庭園とか!」
アランが、具体例を挙げた。
「……なるほど」
俺は、頷いた。
「参考になった。ありがとう」
「頑張ってください、団長!」
三人は、笑顔で俺を送り出した。
◆◆◆
【相談:トーマス】
その帰り道、街でトーマスに出会った。
あの時、恋人と仲直りした若者だ。
「ガレスさん!」
トーマスは、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「魔物退治、お疲れ様でした!」
「ああ、ありがとう」
「あの……実は、婚約したんです!」
トーマスは、誇らしげに言った。
「そうか。おめでとう」
「ガレスさんのおかげです! あの時、花で仲直りできて……」
トーマスは、深く頭を下げた。
「……トーマス」
俺は、少し躊躇した。
「実は、相談がある」
「え? 俺に、ですか?」
「ああ」
俺は、事情を話した。
トーマスは、目を輝かせた。
「ガレスさんも、恋人を!?」
「……まだ、恋人ではない。これから、告白する」
「おお! いいじゃないですか!」
トーマスは、興奮気味に言った。
「で、どうすればいいか、ですよね」
「ああ」
「うーん……」
トーマスは、少し考えた。
「俺の時は、ガレスさんが選んでくれた花と、自分の言葉で伝えました」
「……」
「花だけでも伝わるけど、やっぱり自分の言葉が一番大事だって、ガレスさんが教えてくれたじゃないですか」
トーマスは、笑った。
「だから、ガレスさんも、自分の言葉で伝えてください」
「……そうだな」
俺は、頷いた。
「ありがとう、トーマス」
「いえいえ! うまくいくこと、祈ってます!」
トーマスは、手を振って去っていった。
◆◆◆
【その夜】
店に戻り、俺は一人で考えた。
アレン、エドワードたち、トーマス。
みんなが言ったこと。
——自分の言葉で、誠実に、シンプルに。
俺らしく。
そして、花を添えて。
場所も、考えなければ。
ロマンチックな場所……
花が咲いている場所……
——そうだ。
俺は、ある場所を思いついた。
あそこなら、きっと——
エレナも、喜んでくれるだろう。
◆◆◆
【日誌】
今日、色々な人に相談した。
告白の仕方を。
みんな、同じことを言った。
自分の言葉で、誠実に、シンプルに。
俺らしく、伝えろと。
そうか。
俺は、俺のままでいい。
淡々と、だが真っ直ぐに。
想いを伝える。
三日後——
俺は、エレナに告白する。
この花屋で出会い、共に時間を過ごしてきた彼女に。
俺の想いを、伝える。




