再びの戦場
【戦場到着】
西の森に到着した時、俺が見たのは——地獄だった。
魔物の群れが、森から溢れ出している。
騎士たちは、バラバラに戦っている。
統率が取れていない。
地面には、傷ついた騎士たちが倒れている。
「これは……」
エドワードが、絶句した。
「酷すぎる……」
俺は、状況を冷静に見た。
騎士団は、三つの部隊に分かれていた。
だが、連携が取れていない。
指揮官がいない。
いや——指揮官が逃げたのだ。
「全軍に伝えろ」
俺は、エドワードに命じた。
「ガレス・ブレイドが到着した。これより、俺が全軍の指揮を執る」
「はい!」
エドワードは、すぐに伝令を走らせた。
◆◆◆
俺は、馬に乗り、戦場を駆けた。
高台からの指揮ではない。
最前線で、騎士たちと共に戦う。
「第一部隊! 左翼に展開! 魔物の進路を塞げ!」
俺の声が、戦場に響いた。
同時に、俺は剣を抜き、目の前の魔物を斬り伏せる。
狼型の魔物が三体、飛びかかってきた。
俺は、馬上から身を乗り出し、横薙ぎに剣を振るう。
一閃。
三体すべての首が、宙を舞った。
「第二部隊! 右翼から挟撃! 逃げ道を断て!」
指示を出しながら、俺は次の魔物に向かう。
熊型の魔物が、巨大な爪を振り下ろしてきた。
俺は、馬を跳躍させ、魔物の頭上を飛び越える。
空中で体を捻り、剣を振り下ろした。
魔物の背中から首筋を、一刀両断。
着地と同時に、次の指示。
「第三部隊! 中央で防御陣形! 負傷者を後方に!」
騎士たちは、俺の動きを見ていた。
的確な指示。圧倒的な剣技。
そして——常に最前線にいる背中。
「団長についていけ!」
エドワードの声が響いた。
「あの背中を追いかけろ! そうすれば、俺たちは勝てる!」
騎士たちの目が、変わった。
迷いが消え、力が漲る。
彼らは、俺の背中を見て、前に進み始めた。
◆◆◆
俺は、馬を降りた。
密集した魔物の群れの中に、飛び込む。
「団長!?」
ルーカスの驚きの声。
だが、俺は構わず突進した。
猪型の魔物が、突進してくる。
俺は、地面を蹴り、低い姿勢で突進の下に潜り込んだ。
腹を斬り裂く。
魔物が、倒れる。
次の瞬間、左右から狼型の魔物が挟撃してきた。
俺は、剣を回転させ、両方同時に迎撃する。
右の狼の顎を斬り上げ、左の狼の首を斬り落とす。
一瞬の攻防。
二体が、同時に地面に倒れた。
「すげえ……」
若い騎士が、呟いた。
「団長、化け物だ……」
だが、その声には恐怖ではなく——尊敬があった。
「行くぞ! 団長に続け!」
騎士たちが、俺の後に続いた。
俺は、さらに奥へ進む。
魔物の群れを、文字通り斬り開いていく。
剣が、風を切る。
一撃、また一撃。
無駄のない動き。
戦場で培った技術が、体に染み付いている。
◆◆◆
「左翼、魔物の数が多すぎます!」
ルーカスの報告が飛んでくる。
「わかっている!」
俺は、即座に判断した。
「第三部隊、左翼に回れ! 俺もそちらに向かう!」
俺は、馬に飛び乗り、左翼へ疾走した。
そこでは、若い騎士たちが必死に魔物を食い止めていた。
だが、押されている。
「持ちこたえろ! 援軍だ!」
俺の声に、騎士たちが顔を上げた。
「団長!」
俺は、馬上から飛び降り、魔物の群れに突っ込んだ。
剣を横に薙ぐ。
三体の魔物が吹き飛ぶ。
次の瞬間、縦に斬り下ろす。
巨大な熊型魔物が、真っ二つになった。
「この人の背中を見ろ!」
年配の騎士が、若い騎士たちに叫んだ。
「俺たちは、この背中を追いかけてきた! この背中の後ろなら、絶対に負けない!」
若い騎士たちの目に、光が戻った。
「おおおお!」
彼らは、俺の後ろから前に出た。
迷いのない動き。
力強い剣さばき。
俺の背中が、彼らを導いていた。
◆◆◆
俺が前線で戦い、同時に指示を出す。
騎士たちは、その指示に従いながら、俺の動きを見ている。
「右から来るぞ! 陣形を変えろ!」
俺の声と同時に、俺自身が右に移動する。
騎士たちも、すぐに動いた。
魔物の群れが突進してくる。
俺が最初の一体を斬り、その隙間を騎士たちが突く。
完璧な連携。
「そうだ! その調子だ!」
俺は、次々と魔物を倒しながら、騎士たちを鼓舞する。
「お前たちは強い! 俺が保証する!」
騎士たちの動きが、さらに鋭くなった。
かつての信頼。かつての絆。
それが、今、完全に蘇っていた。
「押し返せ! 魔物を、森に追い返すぞ!」
俺は、さらに前に出た。
剣を振るい続ける。
一体、また一体。
魔物が倒れていく。
騎士たちは、その背中を追いかけた。
必死に、食らいついた。
そして——
戦況が、完全に変わった。
◆◆◆
その時、森の奥から、巨大な咆哮が響いた。
地面が、揺れる。
木々が、倒れる。
そして——
巨大な魔物が、姿を現した。
竜型の魔物。
体長十メートルを超える、巨体。
スタンピードを引き起こした、首魁だ。
「あれは……!」
騎士たちが、恐怖に怯んだ。
竜型魔物は、騎士たちに向かって突進してくる。
その巨体が、すべてを押し潰そうとする。
「散開!」
俺は、叫んだ。
騎士たちは、すぐに散った。
だが——
竜型魔物は、そのまま突進し続ける。
その先には——街がある。
「……行かせるか」
俺は、竜型魔物の前に立ちはだかった。
「団長!!」
エドワードたちの叫び声。
だが、俺は動かなかった。
竜型魔物が、俺に向かってくる。
巨大な爪を振り上げ、俺を押し潰そうとする。
俺は、地面を蹴った。
爪の一撃を、紙一重で回避。
同時に、竜型魔物の腕に飛び乗る。
「はっ!」
腕を駆け上がり、肩へ。
竜型魔物が、首を振って俺を振り落とそうとする。
だが、俺は剣を魔物の鱗に突き刺し、体を固定した。
そして——
首筋へ、飛び移る。
竜型魔物が、咆哮を上げた。
だが、もう遅い。
俺は、剣を両手で握り、全力で振り下ろした。
「はああああっ!!」
剣が、竜型魔物の首を——
深々と斬り込んだ。
一撃では、斬り切れない。
だが——
俺は、剣を引き抜き、もう一度振り下ろす。
二撃目。
三撃目。
そして——
四撃目で、ついに首を斬り落とした。
竜型魔物の巨体が、地面に崩れ落ちる。
俺は、落下する前に地面に飛び降りた。
着地と同時に、剣を鞘に収める。
静寂。
そして——
「うおおおおおお!!」
騎士たちの歓声が、戦場に響いた。
「勝った!」
「団長が倒した!」
「勝利だ!!」
騎士たちは、剣を掲げて叫んだ。
俺は、静かに剣を鞘に収めた。
体は、疲れていた。
だが——
やり遂げた。
魔物のスタンピードを、止めた。
「団長!」
エドワードたちが、駆け寄ってきた。
「すごいです! さすがです!」
「……お前たちも、よく戦った」
俺は、彼らに微笑んだ。
「これで、終わりだ」
騎士たちは、涙を流しながら笑っていた。
俺は、胸のポケットに手を当てた。
勿忘草が、まだそこにある。
——約束を、守れた。
必ず、帰ると。
俺は、空を見上げた。
青い空。
平和な空。
これを、守ることができた。
◆◆◆
【その後】
戦いが終わり、負傷者の手当てが始まった。
幸い、死者は少なかった。
ガレスが到着する前に倒れた騎士が数名。
それ以上の犠牲を、出さずに済んだ。
「団長、報告します」
エドワードが、言った。
「魔物は、すべて討伐、または森の奥に撤退しました」
「そうか」
「負傷者は、後方で手当て中です。重傷者は、王都に搬送します」
「わかった」
俺は、頷いた。
「お前たちは、よくやった」
「いえ、団長がいてくれたおかげです」
エドワードは、深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
他の騎士たちも、一斉に頭を下げた。
俺は、彼らを見た。
真っ直ぐな目。
信頼に満ちた顔。
——これが、騎士団だ。
俺が、かつて守ってきたもの。
だが——
俺には、もう別の場所がある。
「……俺は、戻る」
俺は、静かに言った。
「花屋に」
騎士たちは、少し寂しそうな顔をした。
だが、誰も引き止めなかった。
彼らは、わかっていた。
俺の選んだ道を。
「お疲れ様でした、団長」
エドワードが、敬礼した。
「いつでも、待ってます」
俺は、彼らに敬礼を返した。
そして——
王都に向かう馬車に乗り込んだ。
花屋に。
エレナのもとに。




