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追放された騎士団団長の花屋日誌  作者:


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12/20

危機

【ある日の朝】


 その日は、いつもと違う朝だった。

 街が、ざわついていた。

 通りを行く人々の表情は、不安に満ちている。


「ガレスさん、なんか街の様子がおかしくないですか?」


 アレンが、心配そうに言った。


「ああ……何かあったのかもしれない」


 俺も、違和感を覚えていた。


 そのとき——

 店の扉が、勢いよく開いた。


「ガレス!」


 その声に、俺は顔を上げた。

 王太子リオネル殿下だった。

 だが、いつものお忍びではない。

 正装に身を包み、剣を腰に佩いている。


「殿下……どうされました」


 俺は、驚きを隠せなかった。


「大変なことになった」


 殿下は、息を切らしながら言った。


「西の森で、魔物のスタンピードが発生した」


 ——魔物のスタンピード。


 魔物が異常発生し、群れをなして人里に襲いかかる現象。

 数年に一度起こる、大災害だ。


「騎士団は?」

「全部隊を出している。だが……間に合わない」


 殿下は、苦渋の表情で言った。


「魔物の数が多すぎる。このままでは、街に到達してしまう」


 俺は、黙って殿下の話を聞いた。


「そして……問題はそれだけではない」


 殿下は、悔しそうに拳を握った。


「ヴィクターが、指揮を放棄した」

「……何?」

「魔物の群れを見て、恐怖に怯えた。そして……逃げた」


 殿下の声には、怒りが滲んでいた。


「騎士団長が逃げたことで、指揮系統が崩壊した。各部隊はバラバラに動いている」

「……」

「民間人の避難も間に合っていない。このままでは、大惨事になる」


 殿下は、俺を見た。


「ガレス、頼む。戻ってきてくれ」


◆◆◆


「殿下」


 俺は、静かに言った。


「俺は、もう騎士ではありません」

「わかっている。だが——」

「俺は、今、花屋です」


 俺は、店の花を見た。


「花を育て、花を売る。それが、俺の選んだ道です」


 殿下は、苦しそうな顔をした。


「……そうか」


 彼は、諦めたように肩を落とした。


 だが——

 俺は、続けた。


「それに、殿下」

「……なんだ」

「ふんぞり返っている貴族様が、なんとかしてくれるんじゃないですか?」


 俺の言葉に、殿下は目を見開いた。


「俺を追放したのは、貴族の権力でしょう。なら、その権力で魔物も倒せばいい」


 俺の声は、静かだが、皮肉に満ちていた。


「自分たちが招いた事態です。自業自得でしょう」

「ガレス……」


 殿下は、何も言えなかった。

 なぜなら、それが真実だからだ。


 貴族たちが、俺を追放した。

 そして、無能なヴィクターを騎士団長に据えた。

 その結果が、今の事態だ。


「すまない……本当に、すまない……」


 殿下は、深く頭を下げた。

 その姿を見て、俺は少しだけ心が動いた。


 だが——

 まだ、動くわけにはいかない。


「殿下」


 俺は、静かに言った。


「ただし——」


 殿下は、顔を上げた。


「もし、国王陛下からの正式な命令であれば」


 俺は、殿下の目を見た。


「話は、別です」


 殿下は、ハッとした表情をした。


「父上からの……命令……」

「俺は、王族に忠誠を誓っています。王の命であれば、俺は応えます」


 俺の言葉に、殿下は理解した。


「……そうか」


 彼は、静かに微笑んだ。


「貴族の圧力ではなく、王の権威で、か」

「ええ」


 俺は、頷いた。


「王族の決定には、貴族も従わざるを得ない。王の命で俺が動けば、貴族たちも文句は言えないでしょう」

「そして、王族の権威を示すことにもなる……」


 殿下は、深く頷いた。


「わかった。すぐに父上に伝える」


 殿下は、立ち上がった。


「ガレス、待っていてくれ。必ず、父上を連れてくる」

「お待ちしております」


 殿下は、急いで店を出ていった。


◆◆◆


【その後】


 殿下が去った後、アレンが言った。


「ガレスさん……戻るんですか?」

「……王の命令があれば、な」


 俺は、静かに答えた。


「でも、本当はもう戻りたくないんじゃ……」

「アレン」


 俺は、彼を見た。


「俺は、騎士団を辞めたことを後悔していない」

「……」

「だが、民を守るのは、騎士の務めだ」


 俺は、窓の外を見た。


「魔物が街に来れば、多くの人が死ぬ。それを、見過ごすわけにはいかない」

「……はい」


 アレンは、静かに頷いた。


「じゃあ、俺も準備します」

「お前は、店を守れ」

「え?」

「誰かが、店を守らなければならない」


 俺は、アレンの肩に手を置いた。


「それに、殿下への報告も必要だろう」

「……わかりました」


 アレンは、少し寂しそうに笑った。


「でも、必ず帰ってきてくださいね」

「ああ」


 俺は、頷いた。


◆◆◆


【日誌】


 今日、殿下が来た。

 魔物のスタンピードが発生し、騎士団が苦戦している。

 ヴィクターは、恐怖で逃げた。

 殿下は、俺に戻ってきてほしいと頼んだ。


 だが、俺は断った。

 俺は、もう花屋だ。


 だが——

 王の命であれば、話は別だ。


 俺は、王族に忠誠を誓っている。

 そして、民を守るのは、騎士の務めだ。

 明日、陛下が来るだろう。


 その時——

 俺は、再び剣を取る。

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