花まつりの日
【準備の日】
「ガレスさん、花まつり、楽しみですね!」
アレンが、嬉しそうに言った。
王都では、年に一度、春の訪れを祝う『花まつり』が開催される。
街中に花の屋台が並び、人々が花を買い、花冠を作り、花で街を彩る日だ。
「ああ。準備は順調か」
「バッチリです! 花冠用の花も、花輪用の材料も揃ってます!」
アレンは、店の裏に積まれた花材を指差した。
「お、これは立派ですね」
店に入ってきたのは、エレナだった。
「エレナさん、いらっしゃい」
「ガレスさん、あの……もし良かったら、お手伝いしてもいいですか?」
エレナは、少し遠慮がちに言った。
「花まつり、私も参加したくて……」
「もちろんだ。助かる」
俺は、微笑んだ。
「やったー! エレナさんも来てくれるんですね!」
アレンが、嬉しそうに言った。
「じゃあ、明日は三人で頑張りましょう!」
◆◆◆
【花まつり当日】
花まつりの朝は、早かった。
街の大通りに、花の屋台が次々と並んでいく。
色とりどりの花が、通りを彩る。
「ガレスさん、屋台、完成しました!」
アレンが、誇らしげに言った。
俺たちの屋台には、『ノーブル・ブルーム』の看板が掲げられ、花冠作りと花輪販売の札が立っている。
「綺麗ですね……」
エレナが、感心したように言った。
「よし、開店だ」
俺が言うと同時に、まつりが始まった。
◆◆◆
【賑わう屋台】
「いらっしゃいませー!」
アレンの明るい声が響く。
「花冠、作りますよー! お好きな花を選んでください!」
子供たちが、わらわらと集まってきた。
「おじさん、これとこれで作って!」
「おう、任せろ」
俺は、子供たちが選んだ花で、器用に花冠を作った。
騎士時代、傷の手当てで培った手先の器用さが、こんなところで役に立つとは。
「わあ、すごい!」
子供たちは、喜んで花冠を被った。
「エレナさんも、花冠作れるんですか?」
アレンが聞くと、エレナは少し照れくさそうに頷いた。
「はい、少しだけ……本で読んで、練習しました」
「さすがですね! じゃあ、お願いします!」
エレナも、客の対応を始めた。
彼女の丁寧な手つきで作られた花冠は、とても繊細で美しかった。
「まあ、素敵……」
女性客が、感動している。
「ありがとうございます」
エレナは、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、俺は少しだけ心が温かくなった。
◆◆◆
【昼過ぎ】
昼過ぎ、屋台は大盛況だった。
花冠を作り、花輪を売り、客と話す。
忙しいが、楽しい時間だった。
「ガレスさん、これ、どうやって結びます?」
エレナが、花輪の紐で困っていた。
「ああ、こうするんだ」
俺は、彼女の隣に立って、紐の結び方を教えた。
近くで見るエレナは、少し頬を染めていた。
「こう、して……こうだ」
「あ、なるほど……」
彼女の手が、俺の手に触れた。
一瞬だけ、だが——温かかった。
「ありがとうございます」
エレナは、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
俺も、何故か少しだけ照れくさい気持ちになった。
「ガレスさーん、こっちもお願いしまーす!」
アレンの声で、俺は我に返った。
だが、心の中に残る温かさは、消えなかった。
◆◆◆
【午後・王太子の訪問】
午後、一人の男が屋台に近づいてきた。
質素な服を着ているが——
「……殿下」
アレンが、小声で言った。
王太子リオネル殿下だった。
「やあ、ガレス」
殿下は、笑顔で言った。
「賑わっているな」
「殿下、お忍びですか」
「ああ。まつりを楽しみたくてな」
殿下は、屋台の花を見た。
「花冠、一つ作ってくれるか?」
「もちろんです」
俺は、殿下のために花冠を作った。
青い花と白い花を組み合わせた、シンプルだが気品のあるもの。
「さすがだな、ガレス」
殿下は、満足そうに花冠を受け取った。
「お前は、本当に幸せそうだ」
「……はい」
俺は、素直に答えた。
「それを見られて、私も安心した」
殿下は、優しく微笑んだ。
「また来る。その時は、もっとゆっくり話そう」
「お待ちしております」
殿下は、花冠を持って去っていった。
「……殿下、本当に良い人ですね」
エレナが、しみじみと言った。
「ああ」
俺も、心からそう思った。
◆◆◆
【夕暮れ】
夕暮れ時、まつりは終わりに近づいていた。
屋台の花は、ほとんど売り切れた。
「いやー、大成功でしたね!」
アレンが、嬉しそうに言った。
「ああ、おかげさまでな」
「俺、ちょっと他の屋台見てきますね! 片付けは後でやります!」
アレンは、そう言って駆けていった。
残されたのは、俺とエレナだけ。
「……賑やかでしたね」
エレナが、優しく微笑んだ。
「ああ。疲れただろう」
「いえ、とても楽しかったです」
彼女は、夕日に照らされた街を見た。
「花まつり、初めて参加しましたけど……こんなに素敵なものだったんですね」
「そうか」
「ガレスさんと一緒に、花を扱えて……嬉しかったです」
彼女の言葉に、俺の心が少しだけ揺れた。
「……俺も、楽しかった」
俺は、素直に言った。
「エレナさんがいてくれて、助かった」
「本当ですか?」
「ああ」
俺は、彼女を見た。
夕日に照らされたエレナは、とても綺麗だった。
彼女も、俺を見ていた。
静かな時間が流れる。
その時——
「ガレスさーん! エレナさーん! 見てくださいー!」
アレンが、何かを持って走ってきた。
「花火、もうすぐ上がりますよー!」
俺たちは、アレンに引っ張られて、花火が見える場所に移動した。
そして——
空に、大きな花火が打ち上がった。
「綺麗……」
エレナが、感動したように呟いた。
俺も、花火を見上げた。
空に、次々と花火が打ち上がる。
色とりどりの光が、夜空を彩る。
◆◆◆
【夜・片付け】
花火が終わり、片付けを始めた。
「今日は、本当にありがとうございました」
エレナが、深く頭を下げた。
「いや、こちらこそ」
俺は、彼女に微笑んだ。
「また、手伝ってくれるか?」
「はい! 喜んで!」
彼女は、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「はい。おやすみなさい、ガレスさん」
エレナは、手を振って帰っていった。
俺は、彼女の後ろ姿を見送った。
◆◆◆
【日誌】
今日は、花まつりだった。
屋台を出し、花冠を作り、花輪を売った。
エレナが手伝ってくれて、とても助かった。
いや——助かった、だけじゃない。
彼女と一緒にいる時間が、楽しかった。
夕暮れ、二人きりになった時。
花火を見た時。
俺は、彼女を意識していた。
——好きなのかもしれない。
まだ、確信はない。
だが、この気持ちは——確かに、ある。




