〜第七章〜牡馬との対決…?
■ トリプルティアラを制した3歳夏
ダークファントムは、アメリカ競馬の中心にいた
コーチングクラブオークスを10馬身差で制し、
ダークファントムは3歳牝馬路線の最終頂点に立った。
砂上の女王。
三冠牝馬。
小さな身体で歴史を塗り替えた存在。
3歳夏から秋へ移るにつれ、
その名は牝馬の枠を超え、
競馬界の“象徴”として語られるようになった。
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■ 自然と生まれた次のテーマ──
「同世代最強の牡馬と戦わせろ」
ちょうどその頃、
牡馬クラシック路線は混戦の様相を呈していた。
ケンタッキーダービーを制したのは
プラウディ(Proudly) だが、
以降の三冠戦線は乱戦の連続で、
世間では「今年の牡馬路線は低調」と評価されていた。
一方でダークファントムは圧巻の三冠制覇。
「今年は牝馬の方が強いのでは?」
「ダークファントムが牡馬のトップだろう」
「プラウディ vs ダークファントムを見たい!」
そんな声が高まっていった。
そして──
3歳最終盤にふさわしい決戦として浮上した舞台があった。
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■ カルフォルニアS(G1)
3歳砂の最強馬決定戦
プラウディとダークファントムが揃う
西海岸の名物3歳G1である
カルフォルニアS(G1)。
ここにプラウディ、
そしてダークファントムが登録したことで、
競馬界は一気に沸騰した。
「三冠牝馬 vs ダービー馬」
「同世代最強決定戦だ!」
「今年唯一の“王者対決”になる!」
前売りオッズは象徴的だった。
ダークファントム 1番人気 1.8倍
プラウディ 4倍前後
その他の牡馬勢 5倍〜10倍台
牡馬を抑えての断然人気。
専門家もこう語った。
「今年の牡馬なら、ファントムが勝っていい」
「ダービー馬より上と見られている三冠牝馬など、歴史上ほぼ存在しない」
ダークファントムは、
3歳の“最終章”で
同世代の頂点を証明しようとしていた。
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■ しかし──決戦1週間前、異変は唐突に訪れた
決戦の7日前、
軽いキャンターを終えたダークファントムを見た厩務員が
歩様のわずかな乱れに気づいた。
「……ちょっと硬いな。」
すぐに獣医師が診察を行い、
オルブライト調教師へ厳しい現実を告げた。
「脚部不安が見られます。この状態ではレースは危険です。」
軽度であっても、
G1で全力疾走すれば悪化する可能性が高い。
オルブライトは苦しげに首を振り、
静かに判断を下した。
「回避だ。
3歳最後の戦いだろうと関係ない。
この馬を壊すわけにはいかない。」
その一言で、
“砂上の女王 vs ケンタッキーダービー馬”
という歴史的対決が消えた。
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■ 落胆の波と、揺るがぬ評価
出走回避のニュースは
瞬く間に全米へ広がり、
競馬界を落胆の色に染めた。
「一番見たいレースだったのに……」
「ファントムなら勝てたはずだ」
「プラウディとの対決は幻になってしまった」
しかし、興味深いことに──
ダークファントムへの評価は一切下がらなかった。
むしろ、
「出ていれば勝っただろう」
という声が増えた。
三冠の圧倒的内容。
牡馬路線の低調さ。
ダークファントムの強さ。
すべてが競馬界に
“ダークファントムが最強である”
という認識をより強めていった。
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■ 年度表彰──
堂々たる最優秀3歳牝馬
ダークファントムは
そのシーズンの年度表彰において
最優秀3歳牝馬 を文句なしで受賞した。
票数はほぼ満票。
彼女の3歳シーズンは、
まさに“完全無欠”といってよかった。
表彰式でオルブライトは言った。
「まだ終わりじゃありません。
ファントムの未来はこれからです。」
この言葉が、その場の誰にも違和感を与えなかった。
むしろ全員が同じ未来を信じていた。
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■ しかし、この時──
この後にダークファントムへ襲いかかる厳しい戦いを
誰ひとりとして想像していなかった。




