〜第三章〜怪物かもしれない
■ 3歳春──320kgのまま、それでも放たれ始めた“異質な輝き”
1968年。
ダークファントムは3歳を迎えた。
しかし馬体は依然として 320kg台。
普通なら「成長不足」と扱われるが、その小ささはデメリットではなかった。
調教での走りは軽く、息が乱れない。
砂の重さをものともせず、むしろ地面を“滑る”ように進む。
調教師オルブライトは、その姿を見て静かに言った。
「この馬はこのままでいい。
この軽さが、砂の上で最大の武器になる。」
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■ 3歳初戦:牝馬オープン特別(ダート1400m)
前走ガーデニアS(G1)での4着は大健闘だったが、
大衆の反応は冷淡だった。
「展開が良かっただけ」
「大穴馬がちょっと頑張っただけ」
「ここで負ければ前走はフロック」
単勝は 10倍前後。
強くなっていることを、まだ誰も信じていなかった。
● レース
スタート直後、ダークファントムは自然と前へ出た。
押す必要がなく、軽い脚取りのままハナへ。
3コーナーでも余裕を失わず、
4コーナーでは鞍上の腕がまったく動いていない。
直線、軽く促されただけで伸びた。
4馬身差の勝利。
だが大衆はまだ懐疑的だった。
「オープン特別なら勝てるさ。
重賞は厳しいだろう。」
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■ ラトロワンヌS(G2・ダート1800m)
次走は
ラトロワンヌS(G2・1800m)。
オープン特別より斤量が増え、
距離もいきなり1800mへ延びる。
ファンの評価は厳しかった。
「320kgでG2の斤量はつらい」
「1800は長い」
「スピードの馬だから距離が持たない」
単勝は6〜9倍。
挑戦者という扱いだった。
● レース
序盤から速い流れになった。
普通なら前にいる馬ほど苦しくなる展開だ。
しかしダークファントムは沈まないどころか、
砂を掴んで軽やかに前進していく。
3コーナーでは、手応えに余裕さえ感じられた。
4コーナーで先頭へ、まだ鞍上は追っていない。
直線で軽く仕掛けると、一瞬で差が開いた。
7馬身差の圧勝。
距離も斤量も、ただの数字にすぎなかった。
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■ オークストライアル(G2・ダート1700m)
ラトロワンヌSの内容は衝撃的だった。
新聞やファンの声には、これまでにない変化が現れ始めた。
「このダークファントム……怪物なのかもしれない。」
そんな声が自然と広がり、
単勝は 1.5倍の断然人気 となった。
その結果、ライバル陣営の意識が変わった。
“前で潰すしかない”と考えた馬が多く、
序盤から異常なハイペースになった。
● レース
超ハイペースは、ダークファントムを追った馬ほど苦しくなる流れだった。
3コーナーを迎える頃には、強豪数頭が早くも手応えを失っていく。
しかしダークファントムだけは違った。
4コーナーで手綱を絞られることなく、スムーズに先頭へ。
直線では軽く促されただけで大きく伸びた。
8馬身差の圧勝。
この日の走りは、明確だった。
ダークファントムは、ただの小柄な馬ではなく、
本物の強さを備えた存在になっていた。
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■ ケンタッキーオークス(G1・ダート1800m)
そして迎えたクラシック本番、
ケンタッキーオークス(G1)。
前走のハイペース戦で、ダークファントムに潰しに行った馬たちは痛感していた。
「この馬に仕掛けすぎると、自分の方が潰れる。」
その“悟り”はレース運びに影響した。
この日は、誰も無茶な逃げを打たなかった。
自然とダークファントムに道が開け、
単勝は 1.2倍 の大本命となった。
● レース
スタート直後。
ダークファントムは軽く行き脚をつけ、自然に先頭へ。
3コーナーでもリズムは乱れず、
4コーナーにかけても手応えは変わらない。
直線、鞍上が軽く仕掛けると脚が伸びた。
後続はどれだけ追っても差が縮まらない。
6馬身差の完勝。
競り合う必要すらない、圧倒的な内容だった。
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■ トリプルティアラの大本命へ
オークスの勝利により、
ダークファントムは遂にアメリカ砂上の主役として名前を刻んだ。
かつて「ポニーみたいだ」と笑われた小柄な馬は、
今や“三冠の中心”として全ファンの期待を背負う存在となった。




