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死なれたら戻る  作者: 黒森 冬炎


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12/21

11 犯罪グループ

挿絵(By みてみん)





 怪我人と回帰前の襲撃者については似顔絵が手に入った。議会の承認を待つまでの間、三人は顔見知りを中心に聞き取りを行った。雑談を建前にした先行調査である。その傍ら、荷物や暗殺者の移動ルートを予想した。予想には、王国地図のほか、奇書館(レアリティハウス)に保管されている資料も参考になった。


「密売屋逃走経路地図、暗殺団御用達武器製造者勢力図?変なもんがあるね」

「その地図は2枚とも、常に最新情報に描き変わっているんですよ」

「へえー!」


 紳士の資料自慢に、エリンが素直に感嘆の声を上げた。


「凄いだろ?エリン。ここには古今東西の奇書珍書が納められているからな。何でもあるぜ」

「クレイグ!小僧!勝手に持ちだすんじゃあないよ?」

「婆さん、いい加減にしろよ?人を泥棒みたいに言いやがって」


 館主の老婆は相変わらずである。クレイグもここに来ると、若い頃の天衣無縫ぶりに戻る。禁帯出資料をしばしば勝手に館外閲覧しているのだから、怒られて当然だ。ただ、奇書館の書籍や巻物は、館内に留まる魔法がかけられている。クレイグはその権限を一時的に書き換えてしまう実力があるのだ。


「クレイグは冗談みたいな才能をもっと他のことに使ったらいいんだよ」

「なんだ婆さん、スカウトか?」

「ふんっ!誰が!」

「クレイグさんには向かない仕事だと思いますが」

「先生も、婆さんと仲良いだけのことありますよね」


 魔法使い3人が仲良くいがみ合っている間に、エリンが地図を閲覧しようと手を伸ばした。奇書館の紳士がすかさずとめる。


「エリンさん、それは魔法地図ですから不用意に開かないほうがいいですよ」

「最悪地図に閉じ込められちまうな」


 クレイグも注意する。


「えっ、危なかった。そういうのがあるってこと、先に教えてよ」

「クレイグが悪い」

「婆あ、手前ぇ」

「年長者を敬わないなんて、とんでもない小僧っ子だよ」

「年長者らしく敬われるように振る舞えばいいだろ」


 レアリティハウスの中では赤毛の若者姿になって、クレイグは溌剌としている。



 ともあれ、三人は、様々な情報を集めた。再調査の承認が降りる前に、件の違法武器に関わる人や荷物の通り道と取引場所を一応は割り出した。近衛騎士団がついてまわっているので、国王の動きは掴まれている。だが、近衛騎士団長は融通の効く男だ。基本は見て見ぬふりをしつつ、さりげなく手を貸してくれることもあった。


 割り出した場所には、エリンが作った記録装置を設置した。これは明白な違法行為なのだが、傍目には何をしているのか分からないので、摘発できない。


「置いた場所の様子が城で観られるし、あとでも記録が観られるよ」


 説明しながら、エリンは机の上に小石のような装置を載せた。


「えっ?」

「おや?どこへ行ったのだ?」

「はははっ、ふたりとも間抜けだねぇ」


 起動前は小石にしか見えない。起動すると、目眩しが発動して一般人には見つけられなくなる。一種の光学迷彩機能が付いているのだ。


 回帰のことは言えないし、リーフィー王国では魔法の存在は御伽話だと思われている。国王自ら再調査に乗り出す案が議会の承認を得る為には、新証拠が必須である。


「会議してる間に調査が完了しそうだね」

「国の承認が必要なのは、摘発だけに思えてきたな」


 賞金稼ぎ出身のエリンと放浪剣士出身で魔法使いのクレイグ。2人とも国や法に縛られる生き方はしてこなかった。


「建前というものがあるのだ」


 リチャードは渋い顔をする。


「真面目だなぁ、陛下は」

「公務以外ではリッチーだ。気をつけろ」

「いやさあ。しょっちゅう視察に出てるんだから、みんな顔知ってるよね?隠す意味あんのかい?」

「建前、建前だと言っておろう?」

「駄駄捏ねてる子供みたいだねぇ」

「エリンこそ、反抗期の子供みたいだぞ」


 クレイグが思わず笑うと、ふたりも釣られて笑った。



 捜査は順調だった。エリンの道具は極めて優秀である。一箇所で有益な情報を得て、別の証拠に至る。糸口を的確に掴む手腕は、3人ともにあった。まず辿り着いたのは、武器商人である。


「密談相手は客だね」

「外国人のようだな」

「陛下、この男は軍人って雰囲気でございますね?それも傭兵や一般兵士じゃありませんね」

「かなり位が高そうだな」


 リーフィー王国の武器商人が、隣国シュロスアードラーのクーデターに協力していたのである。見返りに、隣国内の武器専売権を得る約束をしていたのだ。


 武器の材料も判明した。シュロスアードラーは岩山に囲まれた城塞都市国家である。城外の岩山には採石場や鉱山を擁する村が点在していた。襲撃に使われた矢の素材は、そうした村で発見された良質な鉄鋼石だ。その村は、数ある鉱山村落の中でも採掘と金属加工業に秀でており、元々大きな利益を上げていた。国の軍部とも繋がりが強い。村長の友人に魔法使いがいて、その紹介で魔法鋳造技術者が抱き込まれたようだ。



 暗器の製作に特化している職人と、取引先の暗殺者組織、そこが関わる武器商人。その複合グループが、リチャードが回帰することになった事件の犯人だ。


「その上にいるクーデターグループは無視していい」


 リチャードは現実的だった。内政干渉になってしまえば、戦争の口実にされる可能性がある。あくまでも暗殺未遂として処理したいのだ。


「けど、クーデターと陛下暗殺と、なんの関係があるんだろ?」

「いやいや、そんなのないだろ?」

「え?」


 エリンは首を傾げた。


「職人が実験する時に、取引のある暗殺団を使ったんだろ」


 箱やそれなりの量がある弓矢を人知れず設置し、乱射後は通行人に扮して素早く回収する。素人には不可能だ。統率が取れた組織の犯行である。


「実験」


 エリンが蒼褪めた。クレイグは意外そうにエリンを見る。


「エリンも諸国を渡り歩いた賞金稼ぎなら、倫理観がぶっ壊れてる奴等なんざ、珍しくもなかろうて?」

「そこまでの奴にはお目にかかったことがないよ」

「余もエリンは追い剥ぎ専門と聞いている」


 リチャードがからかいを含んだ口調で言った。


「それじゃまるで、あたしが追い剥ぎしてたみたいじゃないか!」

「違うのか?」


 リチャードがくくくと忍び笑いを漏らす。


「追い剥ぎを追い剥ぐ少女エリン・ソウ、だったかな?」

「クレイグ卿まで!」

「ぷっ、いや、事実であろう?」

「そうだけどさぁ」

「豪快で良いではないか。くくくっ」


 倫理観が壊れている武器開発者が実験の為、無差別に矢の連射装置で殺戮した。それが今回の事件のいきさつのようだ。国王暗殺の予行演習という線は消えた。狙ったほどの成果が得られていない為、次はもっと人通りの多いところが狙われるとも考えられる。



 ようやく承認がおり、非公式では手が届かなかった調査も行った。保管されていた三本の矢をクレイグ卿が確認した。睨んだ通りの結果が出た。その後はまず、前科者の名簿と今回の容疑者との照らし合わせである。


「暗殺団のなかに、ヒルトップ一族と関わりがあった奴がいるな」


 言いながら、リチャードの表情が強張った。ヒルトップはリチャードの母方である。つまり、リチャード1世王が10歳だった時に叛逆事件を起こした、祖父の一族だ。


「回帰前、余に矢や金属の礫を投げた男は、一族が国外追放される前に分家の私設護衛騎士団を退職している」

「その後どういった経緯で暗殺団に加入したのかは分かりませんね」

「少し調べてみないと、今後またヒルトップの残党に悩まされることになるやも知れぬ」

「奴等、まだ諦めてないのかい」


 エリンが呆れる。


「100年前から付け狙い続けて来た奴等もいるようだが?」

「もう諦めたんだからいいだろ!」

「ぷははははっ」

「ちっ。根に持つんじゃないよ。器の小さい王様だねぇ」

「あはは、まあ、こっちも100年間末裔を探してたみたいだからな。おあいこか」

「図々しいな。加害者のくせしやがって」


 エリンはため息を吐く。クレイグ卿も軽く笑い声を立てていた。



 3人が記録装置をチェックしていると、武器商人が、所属している商団の代表者と会談する姿が映し出された。


「陛下、この商団長、別の国とも武器取引きしてるんだね」


 資料を捲って、エリンが述べた。


「ああ、そりゃ元々が武器商人だからな」

「ん?他の国の連中も来た」


 会談には、リーフィー王国を取り囲むいくつかの国と地域の人々が現れた。中には要人もいた。


「森林資源は我々が」

「森は間に合ってるから、穀倉地帯をいただこう」

「統治は国内でていっぱいだ。その代わり元リーフィー王国地域の織物は、我が国の繊維業組合の管轄としてほしい」

「しかし商団長、一向に実行の日が決まらないようだな?」


 外国人のひとりが不満を漏らした。


「焦ることはございませんよ。老いぼれの休日は判っておりますからね。それに合わせて準備を」

「なに?近衛騎士団にも我らの手のものが居るのか?」

「いえ、残念ながら。ですが、見張りは抜かりなく行っとるもんで」


 商団長が自慢そうにニヤリとした。



 要人たちが厚かましい相談をしている。エリンは呆気に取られ、クレイグ卿は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「何が元リーフィー王国地域だ。もう占領した気でおるのか」

「陛下、シュロスアードラーもクーデター後は、リーフィー王国占領を企む連合軍に加わるようですな?」

「こうなると、クーデターを放置するわけにはいかぬな」


 その場に参加していない国々は、中立と思われる。敵対国とリーフィー王国に挟まれた国や地域は、いざ侵略が始まれば静観を決め込むだろう。シュロスアードラーの現政権は、唯一の友好国となる可能性が見えてきた。


 製品の威力を誇示したい製作者と商人、自分の手腕を印象付けたい暗殺者とその配下、内乱を誘発して漁父の利を得たい周辺諸国、玉座を狙うヒルトップ一族の残党、それらが手を組んでいる。


「大事になりすぎて、あたしにはもう、何が何だかわかんないよ」

「泣き言いうな、エリン」


 リチャードが慰める。


「泣き言?まあそうだね。ともかくあたしゃお手上げってことさ」

「案外簡単に済むかも知れないぞ?確かな証拠があるからな。商団長と関係者は叛逆罪だ。国家転覆罪でも良い。これを機にヒルトップ公の真実も発表するか。母君は今回、全く関わっていないから、縁責を問う必要がないだろう」

「お待ちください。陛下。そこまで過激な真実は、国を混乱に陥れます」


 老騎士が諌めた。


「しかし、叛逆罪ならやつらを一網打尽にできるぞ?密輸程度では罪が軽すぎるから、すぐまた暗殺をしかけて来ようぞ」


 リチャードは不満そうである。


お読みくださりありがとうございます

この下に挿絵がございます









奇書館での三人

挿絵(By みてみん)

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