海岸線2 浦神早楽
俺は雲内省馬。
グナイ・セイマって読めない人は十中八九、ほぼすべてかも知れない。
夏休み三日目。それで、夏休みの宿題も入れてバイトの住み込みも家事も手伝いながらもあくせく働いていたのだ。
毎日が地獄だー。
特に夏休み二日目では、夜半過ぎにコノ家の次女部屋にゴキブリ出てきたと俺の借りてる部屋に飛び移っては俺の借りてるベッド半分を占拠しだした。
おいおい。ゴキブリ一匹でココに来んなよな。夏なんだから暑苦しいだろうに。
現在に戻り朝方起床。俺は本業始まる前の荷卸補助に自転車を借りては急ごうとした。
そのはずが……。
「ギャー!!」
大声ではなくココロの声が叫んだ。
起きて早々、義妹の乳房部分を鷲掴んでたら、あわてるのは自然だったから。
「ムニャ〜。なんか痛いよ〜」
寝言かよ?
「ン!? にゃにゃにゃー!! にゃんであたしの胸を揉んでんのよ、この変態!!」
あっという間に俺の左側の顔はボクサー並みの男らしい顔になっていた。
食卓に着くと、三人とも俺の姿を直視しては、ニラんだ。
「変態少年。おはようございます!!」
もう……このウチ出てって良いですか?
自転車で行った現場で手伝いした俺。
トラック運転手が聞いてきた。
「セイマ君、今日の朝はなんかボクサー並みに男前だね。なんか訓練でもした?」
「してませんし。た、ただ転んだんですよ。ドジなんでねぇ」
こんな言い訳しか出来なかった俺だった。
征呉町。そこはこの喜志ヶ町の隣り町。そこが出身の女子高生がジョギングコースとして、俺の仕事現場のある公道を利用して疾走してきたんだ。
その折返し地から戻り、帰路を通って荷卸補助中の俺を通過していく際、俺はその子を見やった。
「アレッ? たしか昨日のお客様?」
思わず声にした俺だった。聞こえたよな。なんでまた大きく声にしたのか、仕事に集中してないからだろうなぁ。
「えっ……ああ、先日のバイトさんでしたね。おはようございます」
「おはよう……ございます」
「お仕事中なのね。お疲れ様です」
「あはぁ……ど、どうも〜」
ジョギング中のスポーツウェアの姿が妙にイヤらしい。それゆえに出るトコロは谷間が覗けるほどに出てる。腰つきも丸くくびれていてグラマラス。むちむちした太ももに膝から足首まで細長くて綺麗だ。
「補助ご苦労様」
「中島のオジサンも知ってたんですか?」
「ん? あ、ああ、さっきの? 隣り町在住の女子高生だよ。早楽チャンと言ってね」
「サラ? へぇ、あの子サラっていうんだ」
「知ってるというより、親御さんに問題あることであの子の家はちょっと問題あるんだよ。借金抱えてるようだね。あっ、そのことは早楽チャンには内緒にね」
「あ、はい。分かりました」
サラ……あの子の家庭、ヤバいんだ。借金大きそうだな。でも俺には関係のないことか。
開店前の準備完了で、いったん白峰のウチに帰った俺だった。
「ああ、涼みたい。その前に風呂風呂〜」
俺はバイト初日のように朝風呂しようと浴室に向かった。
「さーて、水浴びの時間だ……………って、なんでそこにスズがぁ!!」
「ハトちゃんに飽きたらず、この男はぁ〜……はぁ〜〜〜……キャーーーッ!!」
つーか、自分の部屋に着替えの服を置いといて入浴するんじゃねえよ。誰が入ったのか分っかんないだろうがぁ〜。
まー、俺はここ二日間8時45分から9時30分までで補助してたから、その短縮で9時10分まで終わらせた訳だし、それで朝風呂をするのが他にいたとか知らないし。なんなら、入浴時間とか教えとけって感じだったよ。そこまで怒るかね、普通。
「いつまで、ソマツなの垂らしとく気よ。わたしの癒やしの時間をください。今すぐ、秒で!! さぁ!!」
「いやぁ、朝の浴槽は気持ちが良いねー」
「昔とはもう違うのよ、お互いにね。発育後の体は大人並みなんだから、少しは警戒しろ、この変態!!」
浴槽に浸かった俺の顔面すべては、変顔以前に原型が分からぬように変化していったのは言うまでもない。
「スズ。アナタね、いくらなんでもスズの部屋に着替えの服置きっぱなしはダメでしょう? セイマ君がおかしくなるわよ、全く」
「あんなの、もうウチに泊まらせないでよ、わたしの体はね、好きな殿方に一番に見せたくなるものなの。分かって、ママ!!」
「ダメだ。この子、かなり重症だわ……」
俺が無神経だったんだと後から分かった。
原型が分からないくらいの変顔以上の顔が元通りにしたのは営業が終わった時だった。
バックヤード作業は今回は休みにした。なにせよ、雲内省馬ってキャラが分からないまま仕事場に行けないから。
さぁて、腹は括った。後は実行あるのみ。
「白峰の皆さん、短い間でしたが、お世話になりました。俺はここにはいない方が良いです。ここ三日間ありがとうございました」
「そ、そんな……セイマ君……」
これで良いんだ。ここの姉妹たちにハレンチなことをしでかしたんじゃ、出ていくしかない。それしかないんだ。
俺にはそれしかできない。
ああ、罪深きこの俺よ。自宅に戻って自分磨きをせねば!!
と悔い改めながらトボトボ歩く俺を遮るかのように正面を貫こうとしだした影にぶつかったのだった。
「あ、あのう……どちらまで? アナタはさっきの? よく店員さんと会うね。わたし、浦神早楽っていうの。えっ? もしかしてもうバイトを辞められるのですか? 人には事情ありますからね。今まで、お疲れ様です。それではいつかまた会える事を祈るね」
「あっあと、いつかって……俺は、この店が好きになったきっかけは……君が……君が来るって知ったから、それで……俺は雲内省馬。こんなときに……わるい」
「ウウン。全然悪くないわ。わたしは浦神早楽。なんか短い間でしたね?」
ベタ過ぎた別れのような劇なのに、ここで自宅へ巻き戻るのはおかしいと感じた俺。
そうだよ。何も戻るって選択肢はないよな。ウラガミ・サラって子がこの付近には住んでるんだ。選択肢はない。
馬鹿な奴だよ、俺って。
「ただいま!!」
「えっ、セイちゃん、早!! どしたん? 秒で戻るってどゆこと?」
そりゃスズがおどろくのは仕方ないよな。
俺は恋してしまったんだよ。
あの……サラって子を。
だから、もう一度やり直ししてみようって思ってみたのさ。