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第一話.一通の封筒

この作品はネトコン12、一次選考通過作品をリメイクしたものです。

「お爺さん、見て! ぼく、きいろいジュース三本も、持ってるよ!」


 私は右手に一本、左手に一本、さらに胸で抱えるようにもう一本――明らかに身の丈に合わない量のジュースを抱えながら、誇らしげな顔でお爺さんの前に立つ。

 

「おーおー、そりゃあすごいのう。賢治は力持ちじゃのぉ」

 

「そうだよ、ぼく、すごいんだよ……あっ、あっ! 落ちる、落ちるよぉー、あぁー!」

 

〈ガチャン! ガランガラン……ガタガタガタ……パタッ〉

 

 物が落ちた音が耳に響いた瞬間、引き戻されるように、視界が一気に切り替わった。

 

 ――夢だったのか。


 目を開けると、カーテン越しに外の光が朝の訪れを静かに知らせていた。

 今の音は……ドアポストに違いないな。どうせまたガムテープが剥がれたのだろう。

 きちんと修理すれば済む話なのに、面倒で後回しにして、ガムテープを貼り付けるだけで終わらせていた。

 そんな雑さが、今の自分を表している。

 

 ――あとで貼り直せばいいや。

 

 もう一度目を閉じるが、意識だけが変に冴えてきて、もう眠気は戻ってこない。

休日の朝としては最悪の目覚め方だ。

 

 食品工場で働く私は四十八歳。

 実力もなく転職を繰り返した結果、管理職にもなれず、現場作業で疲労とストレスを積み重ね、生きる気力を見出せない日々を過ごしていた。

 体を横に向けると腰に鈍い痛みが走る。

 

 ――なんだよ……昼まで起きずに寝ていたかったのに。

 

 ぼんやりとスマホに目をやると午前十一時二十分と微妙な時間。

つけっぱなしのクーラーのせいか、喉のイガイガが気になり、もう眠れそうもなかった。

 仕方なく布団をはねのけ、水を飲むついでに玄関へ向かうと、案の定、郵便物が散らばっている。

 一つ一つ拾い集めて、ふと、ドアポストの内側を見て驚いた。

 いつからか分からないが、ガムテープの剥がれ残しに、封筒が貼り付いていたのだ。

 

「嘘だろ……で、誰から……ええっ!?」


 驚いたのには訳がある。差出人名が、先月亡くなった母からなのだ。

 思わずその場で封を切って中を見ると、たった一枚の用紙にはこう書かれていた。


『二〇二四年、八月某日、三十三回忌』

 その下に、弱々しい筆跡で綴られた言葉。

『後悔なきよう』


 消印は三ヶ月も前――母が入院し始めた時期だ。


 私は事故現場を目撃したように立ち(すく)んだーーまさか、自分の身体より、私とお爺さんのすれ違いを気にしていた……?。

 

 長年、心の奥に沈めていた気持ちが蘇る――子どもの頃、あんなに大好きだったのに、愛情が憎しみや悲しみに変わってしまったお爺さん。


 時が経てば、記憶と共にどこか遠くへ流されていくものだと放っておいていた。

 それを察して、母は自分が生きているうちに、私たちの関係を修復させたかったのだろう。

 

 暫く呆けていたみたいだ――ベッドの上では一二時に合わせていたスマホのアラームが鳴り続けていた。

 

 その音は「どうするの? 今からでも間に合うのよ」と、母に背中を押されているように聞こえ、私は服を着替えると意を決し、外に出て車のエンジンをかけた。

 

「ガソリンは充分ある。……行くか」


 自分でも驚いている。思い立ったらすぐ動く性格じゃない。それなのに、車で二時間かかる生まれ故郷へとタイヤは回り始めた。

 途中、SAで昼食をとりながら進み、高速道路を降りて一般道へ入る。

 気温表示板は三十四度と指し示していた――道の上に陽炎ができていたのは、この暑さのせいだろう。


 都市計画が進んだと聞いていたのに、目的の場所に近づくほど、当時の記憶と殆ど変わらない田舎道が続いている。

 車窓を流れる風景に、幼い日の記憶が重なり合い、私はまるでタイムマシンで過去へ戻るような気持ちになる。


「もう、四十年以上も経つのか――」

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