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ep.3 桃の港


飯は抜くな、睡眠を惜しむな、体は資本である。

これが王宮で学んだ八割である。

あんなに快調になれる基本的欲求という魔法を使わない方が不便っていうもの。今までの私はきっとどうかしていた。と思っていた。


今朝までは。




王宮をでたのが昨日の夕日が沈みかけるくらいの時間。善は急げという事で飛び出してきたわたしですが。



……夜通し歩きました、あまりにも快調すぎて。言い訳はよしましょう。イケると思っちゃったんですねぇ。

昨日あんだけ眠ったし、血糖値スパイクでお昼寝まで贅沢にかましちゃって、足りてる足りてる!とおもってドロップを舐め舐め歩いてまいりました。


もうピュルに言えないこと出来ちゃったよ……ゴメン、墓場まで持っていこう……。

しかし眠っていないだけで食事はとりましたとも!おにぎりは魅力的すぎた!昨日よりしょっぱめの塩にぎり。血糖値スパイクしちゃうから時間で分けて少しずつ。いっそあの時スパイクして眠ってしまった方が良かったのではとまで思うけれど来てしまったものは仕方がない。


何を後悔しているのかと申しますと、睡眠を取らなかったことはそう。今からでも取りたいところではあるが、大量発生、もう始まってるんです。ピュルのくれたLioLフォン、長いからスマホなんですけど、マップ機能がついていて現在地が確認できる仕様だった。とても便利。

それによるとまだまだ、あと4、5kmぐらい桃の港まではあるにもかかわらずもう魔物が湧き出ているんです。


今のわたしは昨日の睡眠食事ブーストMAXの快調だったわたしより若干劣る可能性アリ……。大馬鹿者ですごめんなさい。

溢れ出るゴブリン、恐ろしいもんですね。もう終わりないくらいに湧き出てる。初日のタケノコ原っぱにいた魔物は規定量があったっぽいけれど今日のゴブリンは無限湧きですね。間違いない。どこかにあるダンジョンの最奥部にあるコア、魔物が湧き出るシステムの心臓を破壊しなくちゃこの大量発生は恐らく止まらない。

一旦無視して港へいこう、もう潮の香りはしてきている。





そうしてしばらくして桃の港到着、したはいいのだけれど。町に人は見当たらない。ちゃんと避難していることを信じてゴブリンを薙ぎ倒しながら進んでいく。がらんどうの空き家が並ぶ桃の港、果たしてリアンさんはいるのだろうか。

多分ここで人を大声で探すと要救助者に見えそうなので足であちこち巡って探すことにして少しウロウロ。

湧き続けるゴブリンを叩いていると100回(到達できなかった)の素振りが役に立っていると感じる。ていうかもう100体以上は倒してるから昨日よりも振れてると言ってもいい。昨日のお稽古は無駄じゃなかったんだと心の中で手を合わせる。

はぁ〜もうピュルに頭は上がらないなぁ。そんなことを考えながらゴブリンをバッタバッタ。

そんな時、何やら爆発音。結構近いな、

何かが連続的に爆ぜている。音を頼りに進んだ先は広場。爆発は、小型の大砲のようなものみたいだ。

誰かがゴブリンに向かって打ち込んでいる。いーなぁそれ!爽快感ありそう!

思わず興味で愛刀を振り回しながら近づく明らかに不審者のわたしだったけれど大砲を肩に担ぐ女の子は上手い具合に援護しつつ道を作ってくれる。

爆煙の中を進むの気持ちよすぎだろぉ!!!!


「援護ありがとう!大丈夫っ!?一応助けに来たつもりなんだけど!」

「すっごい助かる!マジで減らないからさ一旦広場の外まで追い出したいんだけど手伝って欲しい!」

「お任せあれ!」


追い出すのが目的ということでパワーは使うけど切るよりも押すのをメインにゴブリンたちを後退させていく。愛刀ちゃんには悪いけど剣で通せんぼしてから足で蹴り出すパワースタイル。

がら空きになる左右には砲弾が打ち込まれてわたしに近づけるゴブリンはいない。


「うまいね!」

「ありがとっ、広場を追い出したら津波用だけど防波堤があるからそれでブロックする!」

そこまでよろしくと言われて頷く。この世界にはそんな便利なものがあるんだなぁと感心もそこそこに押し出す作業に集中する。

「広場の東から防波堤上げてくから漏れたやつは処理頼んでいい?!」

「承知!」


言うのが早いかゴゴゴゴ、と岩の壁がのし上がってくる音。押し出していくゴブリンが壁の向こうに消えていく。漏れたのは倒してまた押して、倒しての作業。繰り返して高かったおひさまが傾くくらいの時間にようやくら港に入る道は防波堤で完全に封鎖された。


「っはー!これで、ひと段落?」

まだゴブリンの鳴き声は聞こえてるものの一旦入ってくる気配はなくなった。もうヘトヘトである。時刻は今午後4時50分。いまだ睡眠にありつけていないという事実。まあ忙しかったのはそうなんですけどバカタレぇい、昨日の学びはどこやったんだいっての。

さっきは爆煙で見えなかったけれどここまで共闘した大砲の子は綺麗な桃色の髪をした女の子だった。


「マジで助っ人助かったよ、ありがとね。あたし咲良。あんたは?」

「わたし陽鞠。そういやこの町の人達は?避難してるの?」

「うん、広場の奥はまだ無傷の家屋が残ってるとこあるからみんなそこに。」

「さっすが!咲良ちゃんはみんなを守ってたんだね!」

「不可抗力だけどね。」


不可抗力?となったが一度避難民がいるという所へ向かうことになった。歩く道すがら、咲良の言葉はなくて何となく嫌な予感がする。

無傷だと言っていた家屋の並ぶ通りはまだどこかに日常が転がっているみたいだったけれど圧倒的に人がいない。

避難区域なら人が歩いていてもいいのに。なんて考えているとどうやら到着したらしい。


「ここは?」

「みんながいるところ。」


やけに静かな、前の世界で言う公民館のような建物。咲良に着いて扉を入ると並んでいたのはベッドや布団、老若男女問わず床に伏せるのは病人のようで。

「なに、これ」

「ゴブリンが撒き散らした病原菌でみんなやられた。魔病っていうらしい。」

魔病。ゴブリンに限らず魔物が振りまく魔素に感染して起こる感染症。普通に生きてたらかかるような病気ではないけれどこの大量発生で魔素を大量に吸ってしまったのだろう。普通の医者では治せないこの感染症にかかってしまったのはだいぶ痛い。これにみんなやられて戦える人がおらず、咲良ちゃんはあそこで一人戦っていたとのことだった。


「治せるのはヒーラー職持ちの医者か冒険者……ここには居ない、って事だよね」

「そう。……町のドクターではどうしようも無かった」

「よし。探しに行こう。でもその前にこの大量発生をどうにかしなきゃ。咲良ちゃん、まだ戦える?」

「正直戦えない。弾使いすぎちゃった。」


正直なレスポンス。ふむ。銃使いは弾問題もあるから大変だ。弾はすぐ調達出来るのかを聞けば一晩あれば作ると返ってきた。作んの!?と思ったけれどわたしも体力は限界だし一度睡眠と食事を経験してから足りなくなると不調が顕著なのが気になる。


「なら出発は明日の朝、咲良ちゃんも作るのはいいけどしっかり寝て、万全で出発しよう。」

「分かった、…あ、えと、なんかサラッと着いてきてくれるカンジになってるけど、いいの?」

「え。マズい?」

「いや、助かるけど。へんなの。」


変なのと言われたのは心外だが、これで共闘は約束されたようなもの。とりあえず今日は休まなくちゃ。ピースさんが入れてくれた栄養食を咲良と分け合い食べて眠ることに。咲良ちゃんは弾作りに取り掛かっていた。



目が覚めると咲良はちゃんと眠ってるみたいだった。一度腹を満たして眠ると不思議と起きたときには無性にお腹が空く。また栄養食を食べてスマホをチェック。掲示板にはまた各地での魔物情報が上がっていた。話題になってるのはすすきの里と呼ばれる地区が黄の区と緑の区に割れて抗争寸前であるとの記事。

これも大変そうだ。ああまずい。スマホを見ていると時間が溶ける。時刻はもう9時を回る頃だし咲良ちゃんを起こしてもいいかも。


「咲良ちゃん、咲良ちゃん、起きて。朝だよ」

「ん、……ごめ、寝すぎた?」

「ううん、早めに起こしたから。準備しよう」


咲良はまだ寝ぼけているのか目を擦りながら物騒な弾たちをカバンに詰めていく。案外コンパクトに纏まったカバンを背負うと行けう、と回ってない舌で言ってくれた。

突っ込むのも野暮かと思ってカロリーバーと水を咲良ちゃんに渡す。もそもそ齧ってる間に目も覚めてきたみたいで荷物を担ぐ。

わたしも荷物を持って後に続くと来た道とは違うルートを歩き出した。


「こっち?」

「防波堤が立ってる時の抜け道。ま、ゲームん時の知識だけど確かだから着いてきて。」


ここで気になることが一点。ちょ!ちょっと待った!ゲームっつった!?

 

「まっ!!て!!!ゲームって言ったいま!」

「あ、しまった。失言。あんたにとっては現実なのにね」

「違う違う!そっちじゃない!わたしも転生者!多分咲良ちゃんと同じ世界から来てる!」


ぎょっとこっちを見る咲良ちゃん。目を見開きすぎて零れちゃいそうな顔で少し考えてとびっきりの笑顔を向けてくれた。


「マジぃ!?仲間じゃん!じゃああんたもライオレランカーってこと!?助かるぅ!!」

「まぁ多分ギリギリだけどね!わたしは10位!改めてよろしくだよ!」

「こちらこそ!」

道理でレアリティ高そうな武器だとおもった!とわたしの白米霏霏を褒めてくれる咲良ちゃんに気分が良くなってつい愛刀自慢をしてしまう。去年のイベントで作った話を楽しそうに聞いてくれる咲良ちゃんはいい人だ。咲良ちゃんは素材を集めて銃を作るのにハマっていたらしく、愛銃はロケットランチャーなのだと教えてくれた。

「あたしのこれ、名前は更地(さらち)。威力A+の今できる最高傑作!」

「A+!やり込んだねぇ!更地って物騒すぎるでしょ、面白すぎる!」


話し相手がいると道中もこんなに楽しい。あっという間に抜けた抜け道を超えると昨日ぶり、一帯に湧いたゴブリンがこちらを向いた。

「いくよ、」

「りょーかいっ」

咲良の合図でロケットランチャーをぶっ放つ。爆撃に肖って走り出すと咲良ちゃんも分かってくれたみたいでわたしがなぎ倒す道に沿って走ってくれる。


「っやあ!」

「陽鞠!そこ右!」

「はい!!」


港からゴブリンを追い出していた数時間の間に何となくだけど連携は取れるようになってきていて短い言葉でも意図が伝わる。


「あっちから湧いてる!」

「おっけ!どデカいのぶっ放つから耳塞いで!」


ドゴォオオオオッッッ!!!!!


「ひゅう!やるう!」

「油断しない!まだまだいるよ!」


そうして協力して進んでいくこと少し、何やら叫び声がして顔を見合せた。誰か襲われてるのだろうかと慌てて走り出したわたしたちだったけれど直後に見えたゴブリンの雨に立ち止まった。


「なにあれ」

「しらない」


ドゴっいう轟音でゴブリンが空へ放られている。なんてど派手な。人がいる、と気になって近づくとゴブリンが円になって囲み、誰かを狙っている所だった。


「うわああああああ!来るなぁ!!!!!もう嫌だぁああああああああ!!!!!!」


片手剣を振り回しゴブリンを一掃しながら泣き叫び逃げ回るアンバランスな青髪の男、女……まぁ、人。

絶叫して逃げ回っている様子的には助けてあげた方がいいのだろうがパワーで切伏せる戦闘力では圧倒的にわたしたちより上。入ったら足でまといになるかなぁ、とふたりでコソコソ話しているとわたしたちに気づいた青髪の子が迫真の表情でこちらに助けを求めた。

「見てないでだずげでよぉおおおおおおおお!!!!!」



あ、助けいるんですね。


とりあえず言われるがまま助太刀に入ると青髪の子は胸なでおろして咲良に隠れた。いや君の戦闘力が要るんですけどぉ!?


「アンタも戦えアホンダラ!」


隠れた次の瞬間には咲良に蹴り出されて青髪の子参戦。結局3人で戦うことに。明らかに西からなだれ込んできてるゴブリンを辿ってダンジョンを目指す。

どこいくの、まさかアレじゃないよねと青髪の子はビビりまくっているけど旅は道連れと言うし、今は一旦スルー。


「ごめん!一旦ゴブリンから逃げよう!」

「走って!!」

「や、まって!おいてかないで!いや置いてって!ゴブリンもヤダけどダンジョンもヤダぁあああああ!!!!」


見えたダンジョンの外壁からは次々とゴブリンが生まれているのが見えた。

「飛び込むよ!アンタたち!」

「はいよ!」

「わあああああああああああ!!!」


青髪の腕を両側からホールドしてダンジョンに飛び込む。ダンジョンの中は魔物の湧き方がかわるので一旦ゴブリンからは逃げられる。それを狙っての作戦だ。


入口が塞がり、一旦安全になったのを確認して青髪の子の腕を離した。

「どぉして僕までぇ!!」

「ゴメンゴメン、」

「成り行き。助けてあげたでしょ」

「助けてくれたのはオレンジの子でしょ!」


オレンジの子、と言われて振り返った。わたしの髪の色だ。そういやまだ名前も名乗ってなかったねとナヨナヨしてる青髪の子に不機嫌そうにしてる咲良ちゃんをまあまあと落ち着かせて一旦イルミをかけて辺りを照らす。

「巻き込んだのはゴメン、わたし陽鞠。君の力凄いから手伝って欲しくて引っ張っちゃった。強引でごめん。ま、もう行くしかないんだけど、さ」

ハハ、と笑ってみたが青髪の子はガックリ膝を折ったまま。

「あたしは咲良、よろしく。アンタは?」


「んもぉお、僕は碧。もう後戻りできないしいくけどさぁ!置いてかないでよ?!」

「着いてきてくれるなら置いてかないよ。」


強いはずなのにこんなに弱気で、なんだかちぐはぐな子だ。べそべその顔でわがった、と頷いてくれた碧をパーティーに加えた3人でダンジョン攻略が始まった。

イルミが使えるわたしが先頭、咲良が横にいて碧が私の後ろにピッタリくっついている。正直歩きづらい。


ここはマンイーターという食人植物のダンジョンみたいで大剣が相性抜群。わたしの後ろでガクガクしてる碧の力を借りなくても進んでいける。


「陽鞠、上にもいる」

「あ、ほんとだ。」


単純パワーなら強いのだ。俊敏さを求められなくて振り下ろす力だけで勝てる相手なら今のわたしでもなんとかなる。

わたしが戦闘に出るから咲良の後ろに立ち位置を変えた碧に若干イライラしてるように見える咲良にどうどうと合図をしてさらに先へ。


「そういえばなんだけど、碧はあそこで何してたの?」

「え、あ、僕桃の港に手紙を届けに来たんだ。でも閉まってて。戻ろうとした時あそこでゴブリン襲われて困ってたんだよ」

「あ〜ゴメン閉めたのあたしたちだわ」


「まあ、あれだけゴブリンいたらそりゃ閉めるよね。人命優先人命優先。」


桃の港を閉めたことに何か言われるかと思ったけれどあっさり肯定されて少し罪悪感。案外ドライで合理的な人だ。


「まぁ、ね。これが終わったら桃の港へは案内するから、今は付き合って。」

「ううぅ、わかったよぉ、付き合う。」


とは言いつつも背中から出てこないのはご愛嬌。マンイーターをざくりざくりしながらまったり進んでいく。


「碧ももう少し戦闘してくれたら助かるんだけどなぁ」

「人命優先。僕は死ぬのが怖いんだ。」

「あたしたちの命で助かろうってか。はは!」


「そ、そこまでは言ってないってぇ!」


「せっかくレベル高そうな片手剣なのに勿体ないね」

「たまに使うもん!どうしようもなくなった時。」

「一番勇者っぽい装備なのにメンタルが一番勇者っぽくない……」


「うるさいもんねべろべろばー」


そんな話をしていたらいつの間にか後ろから出てきて並んでくれた碧にちょっぴり安心。ダンジョンに慣れてきたのかな。

ここのダンジョンは前に入ったのよりワンフロアで完結する小さいものみたいでもう最奥部が近いみたい。ゴーレムにまたビビり散らす碧が若干面白くなってきた。どこまでビビるのかなこの子。


「あ、宝箱。」

「ミミックじゃないのー?」

「ひい、陽鞠ちゃんたしかめてぇ!」


ミミックに4回ダマされたわたしにはわかる。明らかに宝箱だけど碧が面白いからわあっと声をだしたら案の定ビビり散らかしてて咲良ちゃんとお腹を抱えて笑った。

「っはは!アンタ最高。」

「碧ビビりすぎだよぉ!」

「ひどい!僕であそばないでぇ!!」


中身は小さな鍵だった。どっかで使うんだろうなぁと仕舞ってまた湧いたゴーレム叩いていくと壁の装飾が変わってきた。

「あら、近いね。」

「置いてかないでねふたりとも」

またわたしの背後に隠れた碧と隣の咲良ちゃんと一緒に歩いていると前方に1つ目の巨人がボス部屋を守っていた。


「あたしに任せて」

咲良がど愛銃更地を取り出して1つ目の巨人に放つ。碧はうぎゃあー!と情けない声を上げて仰け反った末に転んでしまったけど絶妙な狙いで目玉を狙えたのか一撃で巨人を倒せた。


「すごーい!一撃!」

「へへ!でしょ。更地の威力は伊達じゃないよ!」

「ねえ、僕の心配もしてぇっ」

「はいはい。手貸して」

「アンタは優しいねぇ」

碧に手を貸して起き上がらせるといよいよボス部屋。鍵で開けると固く閉じていた扉が開き始める。


中は殺風景な土の壁で装飾は一切ない。奥にはダンジョンコアコアが見えたがその前をキメラ軍団ががっちり塞いでいる。ざっと30はいるだろうか。


「碧、ここは君にも参戦してほしい感じなんだけど」

「え!?ぼくも!?」

「いつまでもお荷物やってんじゃないよ!ほら行きな!」

「えええ!そんなぁ!!」

「いくよ!」


有無を言わさない咲良の爆撃で先制したのを切っ掛けに戦闘が始まった。犬のキメラが突進して来るのをなぎ払う。振る力が弱くてダメージが浅い!

4発殴ってようやく1体倒せるくらいのダメージ量はだいぶ辛い。モタモタしてると回り込まれて状況は悪くなるばかり。そして数が多すぎる!少なくないダメージを受けながらも一体一体着実に仕留めていく。

咲良ちゃんは銃を変えてライフルも取り出し、チビチビダメージを与えてくるコウモリキメラをガンガン打ち落としてくれる。これは助かっちゃう!!


的確な援護に背中を押されている。更に勢いを増した咲良ちゃんの弾は囲んでいるキメラたちを確実に狙って撃ち抜いてくれるのをわたしの愛刀でトドメを刺す。なかなかいい連携。って、あれ、碧の姿が見えない。なにして、……って震えてるし!!!あっっぶないぞそこ!!!!


んもー!体力使いたくないのに!と頭の中でぼやきながらも助けに向かう。丁度突進しようとしてきていた牛キメラを寸前で止めて庇ったはいいが愛刀で折ってしまった角が飛んで二の腕を切ってしまった。

「った!」

「ひまり、ちゃん!?」


「伏せて!」


碧がガバッと頭を伏せたそこに大剣を走らせる。迫ってきていた牛キメラの突進を防いだ。牽制してくれる咲良ちゃんの弾に甘えて碧を背に隠す。

「陽鞠!大丈夫!?」

「なんとか!」

咲良ちゃんと連携しつつ碧を庇う。文句はあと。勝手に連れてきた私たちの責任だから守り切らなければ。


キメラの猛攻は止まらない。なのに左腕からの出血が止まらない。止血する時間もない。

匂いに敏感な動物キメラたちは濃い血の匂いに鼻息を荒くしている。

一斉に襲いかかってくるキメラたちを大剣と足で防ぎながら踏ん張る。左腕が不自由になった今ここで断ち切れるパワーは私には無い。


「ふん、んん、ぐ、」


右腕と添えるだけになってしまった左腕、そんなアンバランスな状態で愛刀の大剣を扱える訳もなく。すぐに追い込まれてしまった。

一旦撤退も視野に入れなければ。数の暴力に弱気になっていたとき、後から突進してきた牛キメラによって体勢を崩されてよろけたのわたしをまさかの碧が受け止めてくれた。瞬間真横にひと斬り、キメラたちの首をかき切って優しく立たせ直してくれた碧は静かにわたしの左腕に洋服の端切れを巻いてくれた。



「陽鞠ちゃん、ごめん。」

「あおい、?」

「ここはゲームの世界じゃない。戦わなきゃ死ぬ。都合よく助けて貰ってばかりじゃダメなんだ」


震える両足を拳で叩いて自分の両頬をバチンとはたき、気合を入れた碧をみて、なんだかもう大丈夫なのだと思った。


「今度は僕が陽鞠ちゃんを守るから」


そうしてへにょりと眉を下げた碧はその表情を鋭いものに変えた。出会って初めて見る碧のやる気の表情。心做しか怒っているようにも見える。


いいね、戦況が変わる。


「もう、スロースターターも程々にしてよね!」

「うん。今度は僕も行くよ、着いてきて!」


なんだか一気に頼もしくなった碧に続いて走る。気づいて援護に回ってくれたライフルの弾はわたしたちに道を作ってくれる。碧は控えめな装飾の青光りする片手剣を構えて眼前の敵をバッタバッタと切り倒していく。

「陽鞠ちゃん!背中!」

碧に言われて背中を合わせる。この感覚、いいねなんて呑気に考えながらも手は止めない。

碧の身体能力は高く、ちゃんと筋肉がついている人の戦い方。わたしはなぎ払うのが精一杯なのに碧はちゃんと切り伏せられる。パワーが違う。

そんな碧がリードしてくれる今はさっきよりも格段に有利に思える。

「突然頼もしいじゃんっ!カッコイイよ碧!」

「でしょ!もう怒ったもんね!陽鞠ちゃんにはもう指一本触れさせない。僕だってやる時はやるんだから!」


そう言ってわたしの方へ向かってきたイノシシキメラを切り伏せた。碧の参戦で数が格段に減った。残るは後ろで指示を出していた人狼だけ。

碧がきてからダメージを受けていないとはいえ前半戦のダメージが残っている。細かいとはいえ傷だらけだ。ラストスパートだと愛刀を構えたわたしを碧は片手で止めてきた。

不思議に思って見上げると優しい顔の碧がいて「あとは僕に任せて、休んでて」と。

何それ。かっこいい。制する手に従って下がるとどっとダメージが押し寄せてくるみたいでよろめいた。咲良ちゃんが後ろで支えてくれて立っていられるって感じ。目の前ではやる気になってくれた碧と人狼の一騎打ち。

構えて駆け出した碧の剣をギリギリで避ける人狼はフィジカルで勝負をしかけてきた。連続で突き出される拳を剣で防いで隙を狙っていく。

「やるねアイツ」

「うん、さっきとは別人みたい…」

飛んで回って少しずつ体力を削っていく碧。その剣は踊るように人狼の急所を狙っていて華麗だ。相手のフィジカル攻めに合わせて足技も組み込んだ動きで碧も攻める。何度目かの蹴りが人狼をよろめかせた。

「今だ!」

「いけ!!」

応援にも熱が入る。碧は一瞬こちらに目をやって口元だけ笑うと足の着地に合わせて横に切り裂いた。

碧はがくりと膝を着いて光になっていく人狼に一瞥もせず奥のコアを剣の峰で打って破壊した瞬間。


ゴゴゴゴ、

地面が動き出してダンジョンが閉じる。コアを破壊するやいなやこちらにかけて来た碧、別人モードは終わりで動き出したダンジョンに驚いて隠れに来たのかと思ったらわたしと咲良ちゃんを両腕に抱えて頭を守ってくれた。



地面の揺れが止んだ頃に私たちは解放された。あまりのキャラチェンに驚いたけどお礼を言おうと頭をあげるとまた碧は情けない顔に戻っていた。

「ごわがったぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

「アンタあそこまで頑張ってくれてそれぇ?」

「碧、ありがとう本当にカッコよかったよ!」

よしよしと慰めてあげると碧はここぞとばかりに縋りついてくる。頭を撫でてやりながら周りを見渡すとさっきまでゴブリンで埋まっていた広い平原は桃色の花が咲きみだれる綺麗な場所に変わっていた。

「碧のおかげだよ、ダンジョン攻略できたの」

「え〜ん僕こそずっと守ってくれてありがとぉ」

かばっと腕を広げた碧に倣って腕を広げてあげると熱烈なハグ。しかしそれは長くは続かなかった。咲良ちゃんが引っペがしたからだ。

「咲良ちゃん?」

わたしと碧がそろって咲良ちゃんを見上げると咲良は言いづらそうに頬をかきながらそこにいた。

「お前、ちゃんと強いんだから……自信持ちな。助けてくれてありがと、うって!だきつくな!キショい!!」

「キショくはないでしょ!訂正してさくちゃん!!」

「なにがさくちゃんだ!」

「あはは!恥ずかしがってる〜!」


最初は不安定だったこのメンバーも案外うまく回るようになってきた。よかった、なかよくなれそうだ。


「じゃ、碧。約束通り桃の港へ案内するよ。今はゴブリン騒ぎでちょっと病人だらけだけど驚かないでね。」

「頑張る。ありがとうさくちゃん」

「だからさくちゃんはヤメロ」

「やめないよ。可愛いじゃんさくちゃん。」


じゃれつく碧を躱す咲良ちゃん。仲良くなっちゃって。いいこといいこと。微笑ましいねぇと思って並んで歩いているとあれ、と咲良ちゃん。

「どうしたの?」

「抜け道の扉が開いてる……あたしちゃんと閉めたはずなのに。」

「誰か出入りしたってこと?急いで戻ろう。」


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