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ep.1 ようこそ、ライオレの世界へ!


魔物討伐から武器防具練成、収集をするも良し、まだ見ぬ地を冒険するも良し、思いつくことならなんでも出来る!ライオレ、10周年ありがとう〜っ!!!!大型アップデート記念、今なら特別イベント開催中〜!


Life Of Leaven (ライフオブレブン)!!




「ま、え、なんで、」




わたしはただ普通に、いつも通りログインしただけなのに。

さっきまでモニターで流れていたただの広告だったのに。

仕事ちょっと休憩しようとしたのがまずかった!?サボってるのがバレた!?だって今日はアプデ初日なんだもん!ちょっと味見してもいいと思うじゃん!ちょっとで済むとは思ってないけど!朝方コースだと思ったけど!!こんな事になるとは思ってないじゃん!!




まさかさ!!




ライオレの世界に来ちゃうとは思わないじゃ〜〜〜ん!!!






わたし、臼井陽鞠(うすいひまり)、24歳。

職業、イラストレーター。だった、さっきまでは。

今のわたしは剣闘士、陽鞠。

だ、だってぇ、ここライオレの世界なんだもん!最近ユーザーランキング10位に入って浮かれてた、オキニゲームの世界なんだもぉん!!!!!

ヤバい、締切間際の作品がひとーつ、ふたーつ、みーっつ、諸々現実に置き忘れてきてる!!担当さんから鬼電かかってくる!またライオレですかって催促される!!あれめっちゃ怖いから今に限っては帰りたいのですが!!


視界には細部まで綺麗なライオレの世界。変わったことといえばBGMが虫やら魔物やらなにやらの音になったこと。ひゅるると吹く風は焦りを冷ましてくれる。もしかしてこれがアプデなのかも?まだ今日は休憩とってなかったし、2時間くらいならゆっくりしてもいいかも。

前回セーブしていたのはタケノコ原っぱ。島の西側に位置するド広い平野。適度に魔物も湧くしレベル上げにもちょうどいい場所。

まずはっと、今の状況を把握するところからだよね。ゲーム画面じゃないから変わってるとこもあるかも。こういうの大事。メモっといて。

道具はカバンの中、斜めがけバッグの蓋をめくると電子リストが映った。手も透かすし本当に電子の画面だ。スクロールもできる。ここから探すのねりょーかい。

次にお金。この世界ではゴールドって言う。そんなに少なくはなかったはずだけど……とあった。袋にまとめているタイプね。あ、側面に額が記載されてる、3800万ゴールドっと……そんな額入っているようには見えない。まあいいや、質量保存の法則は無視っと。


これだけ分かればあとは何とかなるでしょ。

さてさて。次は待ちに待ったアプデミッション!!運営からのお知らせを持ってきてくれる笛をピューっと吹く。するとペリカンモチーフのペリカちゃんが手紙を持ってきてくれる。今日は二通。重厚なロウで封をされた封筒が1枚と巻物がひとつ。巻物はミッション内容だと相場は決まってるので手紙から開封。


ぺり、とロウを剥がすと「ようこそ、LiOLの世界へ」と目の前に映し出された親の顔より見たロゴ。スクロールしてみると中身はこうだった。


【ようこそLiOLの世界へ】

【剣闘士 陽鞠さま】

【ユーザーランキング10位おめでとうございます!】

【今回のアップデートに伴いまして上位ランキングの方を特別にLiOLの世界へご招待!】

【ミッションをクリアして更なる高みへ!】

【この国のどこかでお会い出来る日を心待ちにしております】



ん、、んんんん?

帰り方……もそうだけど、肝心なこと何も書いてなくね?しかもこの状況に置かれてるユーザーが複数人いるってコト?てことは全員仕事おじゃん確定?あーーーー終わった。サヨナラわたしの極楽在宅生活……。

……ハイ。クヨクヨしていても始まらないし、まだ帰れないと決まったわけじゃないし、ここは前向きに。そうそう、前向き前向き。とりあえずミッションよ。


巻物の封を開けてみるとミッションがずらり。しかし2つ目のミッション以降は???の連続で読めなくなっている。


MISSION1 タケノコ原っぱの魔物を10匹退治


へえ、案外優しいじゃん。でもリアルになったからには操作とかじゃないからね。肉体肉体。怪我にも気をつけなきゃいけないし、体力は無限じゃないんだから、慎重に。


タケノコ原っぱではヒュードラっていう蛇みたいな魔物がよく現れる。あとはスライム。レベル帯は50~60そこそこ。まずはここら辺で慣れておこうかな。

わたしの愛刀は白魔霏霏(はくまひひ)。パワー重視の両手剣で去年のイベントで貰った鉱石で作った特別製。レア度を表す星は6つと最高レベルの一品。この辺の敵ならほぼワンパンです。


そこからはサクサク倒してカウントを上げる作業。10匹はあっという間で次のミッションは30匹、それを越えたら50匹。

意外と重労働。でも経験値も入るしどうやら無限ポップじゃないっぽくて、どんどん原っぱが綺麗になっていく。50匹の次は原っぱの魔物を討伐せよ、とのこと。しばらく歩き回って魔物を探して倒して、を繰り返して夜も明ける頃、コンプリートの印が灯った。


まっさらになった原っぱでごろりと寝転び、時間溶けたなぁなんて考えていたら、こっちの世界に来る前に飲んでいたカフェインの錠剤が切れたみたいで眠くなってきた。


「ふあ、あ。カフェちゃん切れだぁ……」


カフェインの錠剤……カフェちゃんはこちらの世界には持ってこれなかったしいっそ眠ってしまおう。

少しだけ……ほんと、すこしだけ……







ざわざわ、がやがや。

なにやら騒がしい声で目が覚めた。視界は天然の空の色と草木の色、ライオレの世界に来た夢はまだ覚めそうにないらしい。音の出処を探すと何やら鎧の兵士がそこら中にいて、何やら邪魔そうな雰囲気……。


いや先客はわたしだし、と意を決して起き上がるとビクリと兵士さん。聞けば死んでると思われていたらしい。失礼な。


「草まみれですよ旅人さん。ほら、横向いて」

「あは、すみません。あ、あの、兵士さんですよね?みなさんはここで一体何を?」


「いやいや、こちらこそお昼寝の邪魔をしてしまいすみませんでした。実は我が国の王子であらせられるピュル王子がここらで見たきり行方不明なのです。」

「王子様が……?」


ピュル王子とはお忍びで城下を歩くのが好きな人で時々マップ上に現れてはレア食材や魔物のレア素材をくれる会えたらラッキーなキャラクター。リアルで会えるのかと思うとかなりゾクゾクする。期待半分、下心半分で手伝いを申し出るか悩んでいると部下であろう兵士さんがやってきて報告、と背筋を正した。


「王子の行方は未だ掴めておりません。が……」

「が?」

「近くにダンジョンが湧いておりまして……。そこに迷い込まれたのではと……」


「なんだと!」


それを聞いてチャンス!と思った。この広い原っぱでは王子みたいなレアキャラと簡単に会えるものでは無いがダンジョンとなれば最奥部までの道のりは限られている。困った、まずいぞと口々に言う兵士さんたち。チラチラとこっちを伺っているのはわかっているのだ!

「あのう、」

「な、なんでしょう」


「わたし、冒険者なんです。宜しければ捜索、お手伝い…しましょうか……?」

「な、なんですと!!」

想定の4倍の熱量に耳がキーンってなる。少し赤みが増した凛々しいお顔立ちは嬉々としていて助かった!と言っているようで。下心を読まれて断られること前提で差し出していた手はガッシリ握り返された。はひ、温かい。


「ありがとうございます!親切な冒険者様!しかし、ダンジョンは西の海岸沿いに湧き出ておりますゆえ、ここからでは少しお時間がかかってしまいます。良ければそちらまでお送り致します。」

「いいんですか!ならお言葉に甘えて!」


付き添ってくれるのは先程草を払ってくれた兵士長、ピースさんと報告に来ていたキャロルさん。このゲーム、なぜだか地名は和風、名前は洋風になっていて面白い。まあ私のハンドルネームは和風というか名前そのままなのだけれども。


「わたしは陽鞠、剣闘士をしています。」

「お背中の剣、立派ですものね。剣闘士様なのも納得です。レベルもかなり洗練されていらっしゃるみたいで。」

「そうですか?まあ10年ほどやり込んでますからね」


ゲームをですが、とはつけ加えず話を続ける。キャロルさんの話だと近くに馬車が来ているらしい。

「お、見えましたね」

「わあ!すごく立派なお馬さん!綺麗だねぇ!」

「はは、それは良かったです。ささ、乗り込んでいただいて。到着は昼頃になりますのでそれまでお休み下さい」

「え、そんなに遠いんですか?まだ朝日が登ったばかりなのに。」

「実はダンジョンが湧いた影響で地形がうねってしまっていて馬車では道が限定されてしまうんですよ。安全にお送りしますのでどうかゆっくり過ごされてください。」


随分と遠回りをするらしい。ダンジョンが原因で地形がうねったり地割れを起こすことは珍しいことじゃないとゲームでは言うけれど実際見てみるとなかなか激しい地面になっている。ストーリー上の都合とかかと思った……。ここは言う通り送ってもらおう。


「ありがとうございます、少し休ませてもらいますね。」


馬車は案外眠れるほどのスペースがあって、カタカタ揺れる振動が気持ちいい。ふと我に返って、こんな寄り道をしていていいのかと思ってミッション表をみると魔物討伐までのミッションがクリア表示になっている下に西のダンジョンを見つける、と書かれていた。

これもミッションのうちなのか、と安心したあと、少し荷物整理。薬草はたんまりあって、魔力回復のポーションもあって、今必要なものは欠けてないみたいだった。時間にして3時間ほど寝れたし眠気は取れた。本来ならこのまま仕事しちゃおっていうテンションなんだけどいかんせんここはゲームの世界。仕事なんてない。つい暇でうとうとしてしまって、うとうとして、うと、うと、






「……さん、ひまりさん、」

「……ぁぃ」

名前を呼ばれて薄目を開けるとピースさんだった。困った顔で肩をゆさゆさ揺らしている。はっ、


「っぎゃ!!すみません寝こけてました!!」


飛び起きるとピースさんはくすくす笑っていいんですよと言ってくれた。

「お休みいただけたみたいで良かったです。お休みのところ申し訳ないのですが一応到着しましたとだけお伝えにまいりました。」

そうだ、今朝王子を探すっていう話で……!

頭の中を記憶が巡るのを待ってから気持ちを引き締める。なんてったってリアルだと初ダンジョン。レベル帯不明、セーブ不可、命はひとつ。兵士さんは見たところレベル45がせいぜい。安全のため外にいて欲しい。ここはわたしの出番なわけ。


「知らせてくれてありがとうございます、すぐに支度して出発します。」

「有難いのですが、もう少し休まれてからでも……」

「いえ、王子の安否が心配なので、」


本心、半分下心半分、連れてきてくれたのにのうのうと寝こけてられるかがひと欠片。複雑な心持ちだが言葉に嘘は無い。ピースさんは本当にピュル王子を心配しているのだろう、両手でわたしの手を取って何度もありがとうと言ってくれた。

こうしちゃおれぬ。身支度だ。ゲーム内でも髪は女の命、丁寧に解して気合を入れるべく高めのポニーテールに。戦場に化粧は不要だし、あとは着の身着のまま戦闘着だから問題なしっと。

バッグと愛刀を背中に下げて馬車から降りると噂にでもなっていたのか小さく歓声が湧いた。


「陽鞠さん、王子のことよろしくお願いします。」

「はい、隅まで探してまいります!では!」


いってきまーす!と手を振るとみなさん敬礼でお見送りしてくれた。

このゲームのダンジョンは入る人は拒まないが出るものは拒む。まだ数歩しか足を踏み入れていないにもかかわらず、入口は生きた土のようにどろどろ塞がってしまった。

ダンジョンは真っ暗。一応こういう時のためにプチ魔法は覚えていたりする。まだリアルでやった事ないけれど。


「イルミ」


足元がじんわり橙色に灯る。手を伸ばしたもう少し先くらいまでは見えるようになった。魔力の減少はあんまり感じないけれど、消費量はそこまででもないはずだ。

ごつごつした岩肌に長年生えていたようなコケ、じめじめしていていかにもなダンジョンを進んでいく。

わたしの攻略方法はしらみ潰し派。とにかくある分かれ道全部に足跡をつけて行く方式。猿でも出来ますね、ハイ。

でもそれゲームならではなんじゃとも思うけれど長年培ってきた方法だから信頼している。

Yの字の最初の分かれ道。わたしは右から行く派。順々に行けば迷わない。とおもう。


方向転換をして歩き出そうとした瞬間、岩陰から黒い影が飛び出してきた。

「っ!スケルトン!」

スケルトン、骸骨の魔物だ。カタカタカタと骨を鳴らしている姿はリアルで見るとかなり気持ち悪い。

「ケケケケ」

剣と盾を構え不気味に笑うスケルトン。B級ホラー並の地味な怖さ。でもわたし、レアキャラ探しに行かないといけないので!!

剣に手を構えて上からの大振り!

「っやあ!!!」

よろけた隙に横振り!!

「っりゃー!!」


勝った…!ぱらぱらと崩れていく体は跡形もなく消えてしまった。リアルの戦闘は案外一瞬だ。画面の転換もないし戦闘BGMもない。気を抜いたら死にかねない。そんな戦場にいるのである。

こんな思いをして得る経験値はゲームよりちょっぴりしょっぱく感じるけれど仕方がない。背に腹はかえられないというやつである。


それからも少なくない頻度でスケルトン、たまに首なしの騎士が湧く。ゲームでは飽きるほど見てきた面子であるがリアルで見ると怖すぎる。でもゲームがリアルになって、あのレアキャラに会えるとなると力も湧く。

わたしはおじキャラが好きだったりするから管轄外だけどピュル王子は名前通りピュアで可愛い王子様だからファンは多いのだ。会って生で見たことを現世に帰ったら自慢したい。頭おかしくなったかと思われるか。やめよ。


1本1本道を潰して行く作業は長い。話し相手でも来てもらえばよかったと思うけれど後の祭り。階段をふたつ下がったB3Fに来ると魔物のレベルが上がってきた気がした。

なんてったってゴーレムが出てくるのだ。ライオレのダンジョンは最奥部に近づくほど大型の魔物が出やすい。つまり着実にゴールに近づいているということだ。


「くらえぇ!!!!」


ゴーレムは光るひとつのブロックを狙うと倒しやすい。でもナマの肉体では跳躍力が圧倒的に落ちる(恐らく運動不足)のでこれは鍛錬が必要。とはいえ他のブロックでも今のレベル帯なら充分勝てるのでとにかくゴリ押し。武器が強くて良かった!!


宝箱に擬態したミミックにダマされること4回、遂に美味しくない薬草をハムハムする羽目に。良薬は口に苦しと言いますが、もう少し何とかなりませんでしたでしょうか……渋い顔は誰も見て笑ってはくれないのでそのまま進んでいると壁の様子が明らかに人工物の模様に変わった。


「む!来たなっ!」


苦い薬草を急いで飲み込んで水で口直し。隅々まで見てきたのもあるが、セオリー的には最奥部に居なきゃおかしいピュル王子。体力の温存もあって呼びかけては来なかったがそろそろいいだろう。返答があったら時間の短縮にもなりそうだし。


「ピュル王子ー!どこですかー!」


例によって右の道から潰していく。呼びかけながら歩いて何本目かの左の通路に差し掛かった時、僅かながら、でも確かに人の声がした。


「ー!誰かいるのか!」


「います!いますいます!!ピュル王子ー!」


何時間ぶりに人の声を聞いただろうか。ちょっと1人で寂しかったのもあって反応があったのが素直に嬉しかった。呼びかけ、応えてを繰り返して声のする方へ歩いていくと禍々しい、と言うに相応しい凝った装飾の大きな扉。


はは〜ん、ボス部屋におるな?


そういえば道中鍵なりを拾ってこなかったけど、と思ったが特に何も無く扉は押せば開いた。

立て付けの悪い石の擦れる音と共に開けていくボス部屋はルネサンスというか、それを真っ黒く塗りつぶしたというか。

なんとも豪華絢爛、だけど無彩色に統一された造りだった。


「助けに来てくれたのか!」

「ピュル王子!」


声のする方へ向くとなんとまあベタな、天井から吊るされた檻に入っているピュル王子。遠くてお姿はまだ拝見出来ていないけれどシチュがどこぞの毎作捕まってる桃の姫かって。

そんなことはいいのだ。今はボスに集中しなくちゃ。ここはリアル、味方はなし。


一発勝負。


ゾワゾワと上がってくるスモークに包まれて出てきたのはファイアドレイク。小型の炎ドラゴンである。大型よりもレベルは低いことが多いけれど俊敏に動き回るからわたしの両手剣とは相性サイアク!ピュル王子は天井近くにいるから余波は受けないとして、まず動きをとめたい。でも大振りの素人剣じゃあ掴みきれない。


「グラシーズ!!いけぇ!!」


一番初めに思いついたから放ったのだがこれは失敗。いわゆる太いつる草で縛る魔法だ。炎には流石に相性が悪く一瞬で燃え尽きてしまった。

あと、あと、あと、何覚えてたっけ!!ゲームだからって字面だけで放ってたからちゃんと魔法の名前覚えてないよ!!

相手炎だから、水とか、風とか、なんか、なんか……!


素早いファイアドレイクは長期戦で体力切れを狙っているのか細かく火の粉や切り傷でじわじわとダメージを削ってくる。小癪な。

ええい!思いつくだけやってやる!!


「ウォーター、カッター!!」


小ダメージ、流石に簡単な単語だと下位魔法すぎる!


「エアーシュート!!」


小ダメージ、ダメだ!もっと外国語授業ちゃんとしとけばよかった!!

えっと、えっと、えっと!

水で風でなんか強くて!威力高そうな言葉……!



台風(タイフーン)!!!!!」



今までとは違う、威力。振りかぶった愛刀の流れに乗って水と風が渦巻いてファイアドレイクの羽の自由を奪った。

チャンス!でも!ピンチ!!

魔力使いすぎるとこんなにカラダ重いの!!!?

体力よわよわ在宅イラストレーターの身体にこれはツラすぎる!体力ゲージも3分の2持っていかれてる!イエローゲージ!!ピュル王子も上から立てと叫んでいる。


「ふ、んばれぇ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」


台風に羽をもがれて落ちてくるファイアドレイクに最後の力を振り絞って走る。踏ん張りが効かない足を踏み込んで、火事場の馬鹿力で飛び上がる。


「うおあああああ!!!!!!!!」





脳天を一撃、会心だった。

代わりに着地はダメダメだったけど。べちゃ!っていったよべちゃ!って。はじゅかちい。ピュル王子がなんか言ってるけど顔あげられない……。


「おい!返事しろ!お前大丈夫か!おいってば!」

「だいじょぶ、れす……」


何とか返事をして顔を上げるとギミックが解けたのか天井から鎖が伸びて檻が降りてきた。

白く靡くピュル王子の髪がロウソクの灯りに透けてキラキラしているのが見えた。檻の網目から覗く心配そうな目は真っ青のサファイアみたいで。ピュル王子を推す人の気持ち……結構解った……なんて思っていると急に腰が抜けた。


愛刀ゴメン、と心の中で謝りながら杖にしてファイアドレイクが消えて、代わりに現れた檻の鍵を拾う。

老人の如く重い足取りだったがピュル王子は急かすことなく待っていてくれた。


「おまたせ、しました、王子」


ゼェゼェ呼吸が止まらず途切れ途切れになってしまいながらも鍵を開けると、本格的に座り込むわたしをピュル王子は支えてくれた。


「助かった。ありがとう。して、お前は大丈夫か」

「すみません、何分苦戦してしまいましたもので。」


細いように見えて意外と筋肉質な身体のピュル王子はわたしの腕を自身の首に巻き、あっさりと立ち上がらせてみせた。


「ダンジョンが消滅する、外に出るまで踏ん張れ」


壁が土に戻っていく。床が地に吸い込まれていく。大きな揺れにピュル王子にはほぼ全体重が掛かってしまっている中本来のタケノコ原っぱの草原がどこからか這い出してきて足元を覆った頃、満天の星空が私たちを照らしてくれた。


「そと、だぁ」

「ああ、外だ。頑張ったな。少し休め、見ていてやる」


優しく草原に寝かされ、アドレナリンどぱどぱだった頭が落ち着いて微睡みに落ちる。眠りに落ちるまでのほんの数秒、確かに頭を撫でられたような気がした。





「は!ねむってしまった!!」

「なんだ、意外と元気じゃないか」


心地よい温かさからぱちりと目が覚めた。

真っ先にフレームインしたのは綺麗なお洋服で上に首を回すとわたしを見下ろして朗らかに笑うピュル王子。

これはお、お、おひざ枕、でございましょうか……!?


「ご、ごごごごめんなさい!!!!!!!!!ピースさん!!ピースさぁん!!!不敬罪です!!!わたし、不敬罪ですぅ!!!!!」

「お、愉快だな。安心しろ不敬にはあたらん。俺がそうしたからな」


へ?


「見ていてやると言ったろ。俺は嘘は付かんからな。」


ははは、と控えめに笑うピュル王子の正面、姿勢を正した私たちの真向かいには口元を隠してはいるが堪えきれていないピース兵士長のお姿。


「わすれて、ください……!!!!」


「忘れはせんぞ、俺は恩を覚えておくタイプだからな!」

「ピュル王子っ……く、くふふ、ふ、」




いつの間にか同乗していた馬車は王宮に向かっているらしい。あのあと、草原で寝こけたわたしと離れずに居てくれたピュル王子をダンジョンが消えたと捜索してくれていた兵士さんたちがみつけてくれたとのことだった。

本当に、詰めが甘くてすみません。


ピースさんも、キャロルさんも、私たちの無事を喜んでくれて一安心。そんな中少し考え込むような仕草をしたピュル王子。なんだろうと言葉を待っていると。


「時にお前、陽鞠と言ったか?転生者だろう。」

「へ!?」


まさかのまさか、ピュル王子からの爆弾発言に固まってしまった。

それを知ってる、のは、なんで?


「王子、それをどこで、?」

「見ればわかる。高すぎるレベルに高レアリティ武器。それに能力が全く追いついていない。体術や型だけで言ったら素人以下だ。の割に知識があるようだが使いこなせていないところからするとまだ来て浅いようだな。」

「はぁ、全くその通りで。」


「陽鞠、お前死ぬぞ」


ピュル王子の顔つきが険しくなった。冗談ではないだろう。レベル的に言えば圧勝だったであろうファイアドレイクにこれ程までに苦戦してしまっていたのだから。


「ここはバーチャルではない。現実だ。病にはかかるし時に死ぬ。復活の呪文は無い訳では無いが大きな犠牲を払う。簡単では無いのだ。心せよ、レベルに胡座をかき鍛錬を怠ればなんでもない魔物で無様に散ることになるぞ」


「は、い……」


あの戦いを一番近くで見ていたいピュル王子だからこその言葉だ。なんで私が次元を超えてやってきたのか、それを転生だと言い切ったのかは分からないが、この世界で生きていくには真っ当な話だ。

確かにレベルに胡座をかいていた。今までのゲームでの積み重ねでチート出来ると思っていた。でも違うのだ。

それを正面から突きつけられた気がして気が落ち込む。俯きかけた顔がピュル王子の手のひらに落ちた。


「もむ、」

「とまあ、忠告だ。厳しいことを言ったな、すまん。話は変わってな。少し稽古をせんか?」


「けいこ?」


「俺も少しは剣の心得がある。少しばかりだが体術も心得ておるぞ。基礎だけでも学んでいかんか」

「ピュル王子、有難い申し出なんですけど、なんで?です?」


有り得ない話だ。一国の王子がたかが1冒険者のために稽古をつけてくれるなんて。

ピースさんもウンウン頷いているし、誰も咎める気配がないのが救いだけれども!

さっきのお言葉はわかってもこの申し出はわからない私にピュル王子はふっと笑った。


「簡単だ。」


「?」



「お前を死なせたくない」



「は、ひ、勿体ないお言葉……」


「畏まるな。不格好だったとはいえ陽鞠は命の恩人。現実的なことを言えばレベル帯だけで言えば我が兵士たちだけであればあそこまでたどり着くことさえできなかっただろう。見知らぬ地の見知らぬ王族、見知らぬ人間のために危険に飛び込める勇敢さ、豪胆さ。尊敬に値する。そんな人間をみすみす死なせにいかせたいと思うか?」


「え、あ、あ、ハイッ!あ、イイエッ!」

「馬鹿者。どっちだ。まあ少なくとも俺は死なせたくないからな、基礎を教えてやる。生かすも殺すもお前次第だ。やるなら死ぬ気で付いてくるんだな」



いつの間にか馬車は止まっていて、目的地に着いたようだった。行くぞ、そう言って背を向けたピュル王子を慌てて追いかける。が、突然立ち止まったので背中にぎゅむっと衝突してしまった。


「んぶ、」


「……あと、俺の事はピュルでいい。王子も敬称もいらん。」


「はて、それって、」



突然の呼び名の改めに頭がついて行かない。元の世界でもピュル王子はピュル王子だったのに、ここに来て呼び捨て!?

なんのご冗談かと思っていた、のに!



「俺もお前を陽鞠と呼ぶ。友人とはこうあるべきであろう」



卑怯だァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

そりゃオタクも夢女も二次創作もモリモリ生まれますよねぇ!!こんなにお優しく尊いお方なのですもの!!!!

今まで推してなくてごめんなさいピュル!!今から貴方は推し通り越してお友達です!!!!!!



「わ、わ、わかりましたピュル!待ってください!」

「敬語も要らん!」

「ハイッ!」

「ハイは敬語だ!」

「は、うん!」

「よし、来い!」



くすくす笑う兵士さんの中を2人で駆けだす。

ここに来て初めてのお友達と今からお稽古です!

 



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― 新着の感想 ―
ゲーム「Life Of Leaven」が現実世界と交差するという設定が新鮮で、陽鞠がゲーム内で直面するリアルな冒険とその中での成長が非常に楽しめました。 陽鞠のキャラクターが魅力的で、彼女のリアルな…
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