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04.胸を張って

 自分の命が誰のものかと問われれば、それは間違いなく自分のものだろう。誰だって自分の命を第一に優先して考える。

 自殺してしまう人にとってもそれは同じだと思う。自分の命に限界を感じて・・・あるいは終わりを望んで命を終わらせる。終わらせられる。”その命が自分のものであるから”。

 存在することも否定することも、全ては自分のものであると主張できるから実行できる。けど・・じゃあもし自分の命が自分のものでないとしたら?・・・そしたら自死なんて選べない。例え死んで終わらせたくても、決して終わらせることは許されない。

 ”だから私はそうあることにした”。

 この命に最早価値なんてなくて、人生に終わりを望んで本気で終わらせたくなったあの日、”私”は私として生きることを決めたーーーーーー。


 世界の何処かでは今も苦しんでいる人がいる。テレビの向こうで泣いている人がいる。誰にも知られないままに終わる人がいる。そんな貴方たちを私は救ってあげられない。ごめんなさい。ごめんなさい。

 「・・・・・ごめんなさい。」

 星の見えない暗い空に向かって囁いた。少しくらいは風に乗って世界の何処かに通じてくれればななんて思ったりしてーーーー。

 「謝ったって・・・結局それも自己満足だよ。」

 「言身ことみさん・・・・・・・・・。」

 そばに来た彼女を前にして、何も言葉を返せなかった。

 「・・・・貴方ならどうしたの?」

 やっと口にした言葉が少し強くでた。これじゃあ威圧的に聞こえてしまったかもしれない。

 「無視するよ。・・・無関心でいる。」

 私を捉える彼女の目は優しかった。

 「・・・それができれば・・私だってこんな苦しまずにいれたかな・・・。」

 弱音・・・でいいのか。心の奥底にあった言葉が自然と漏れてしまった。

 「無理じゃない?ミトちゃん、心の奥から憂いているんでしょ?」

 心の奥・・・。

 泣きたくないのに泣いてしまう。苦しみたくないのに苦しんでしまう。弱いくせに、強くあろうと無理をする。そのせいで涙すら落とすことができない。

 ああ・・私はなんで生まれてしまったのだろうか。

 「・・・言身さんは私とは違うの?」

 ✕✕✕欲しいという願いからその言葉を発した。彼女も私と同じなのだ。彼女も世界の全てを憂いている。なのに彼女は平然として・・・それもこれも無二の友のおかげ?

 「・・・私は壊れてるから。もうずっと前に。・・・・ミトちゃんも嫌なら壊れちゃえばいいんだよ。壊れちゃえば辛いや悲しいなんて感じなくなる。全部どうでもよくなってようやく自分の幸せを求められるようになるよ。・・・ね?」

 「・・・・・。」

 何も言葉が出なかった。

 ーーー殺人鬼の多くは生まれながらにしてなるわけじゃない。育った環境や価値観によって作られる。

 じゃあもし殺人鬼が記憶喪失になったら?その人は殺人鬼のまま?・・・私は違うと思う。記憶喪失になった時点でその人が何者であるかは完全に消え去って、その人は新たな別の人になると思う。

 そう。自分を作っているのは人格や意識であって脳みそそのものじゃない。だから記憶を失うか、あるいは壊れるかすればその時点で自分が持つ価値観や感情の変動は消え去って、新たな別の自分として今とは違った人生を謳歌できる。

 私も彼女もそう考えて、彼女はそうした。そうなった。そして今、私にもそうすべきだと説いた。 

 ・・・やっぱりできない。すべきじゃない。

 「私は・・・いいよ。」

 生き方は決まっている。どれだけ悩もうが苦労しようが、私の出す結論はただ一つだ。

 「そっか。わかった。」

 うつむいた彼女の表情は悲しそうだった。

 「・・・ごめんなさい。」

 背を向けた彼女は、何も言わずにテントへと戻っていったーーーーー。

 

 ーーーー・・・・なんで今更・・・。

 彼女と話したこと、みんなと過ごした日々を夢に見た。

 ・・・・ごめんなさい。

 きっと後悔している。間違いだってわかっている。だから夢に見た。

 「・・・・・・。」

 寝袋をそのままに外へ出た。

 朝日はまだ昇っていなくて、肌を軽く撫でる程度の風がとても冷たい。母国よりも暖かくてつい忘れていたけど、改めて今の季節が冬であると思い知らされた。

 一度上着を取りにテントに戻り、再び外に出る。するとさっきよりも少し明るくなっていた。日の出の時間だ。

 平らに均された西の地平線とはうってかわって、東の地平線には山々が見える。そのちょうど隙間が曙色に輝き始めて雲の下側が照らされる。そんな艶やかな景色を前に少し呆けた。意味もなく、ただ美しいと感じた。

 ・・・そうか。私はこの想いをみんなに届けたいんだ。みんなに抱いてほしいんだ。

 不思議とそう思い至った。何度だって見てきた景色のはずだけれど、今になってようやく分かった気がしたーーーーー。


 ーーーー悪魔たちがやって来る時間だ。

 奴らは昇る太陽に併せ動き始め、私たちが守るサミア大陸戦線へと向かい攻撃してくる。そして時間が経って夕焼け色が空を覆うと、奴らは巣へと帰っていく。

 人々は言う。「奴らの”侵略”を食い止めろ」と。

 実際のところ、何がしたくてこんな行動をしているのかはまるで知らない。正直な話、侵略という感じでもない気がする。ただ無邪気に遊んでいるように見えてしまう。侵略はその結果の偶然なのであって、そこに大きな意味はないように感じる。・・・これは私がフィリデイだから?それとも私の勝手な思い込み?

 「・・・ミト?」

 累飛るいとくんが私の名を呼ぶ。

 「大丈夫。私は大丈夫。」

 即答したが少し心配をかけてしまったみたいで、彼は顔を伏せ考え込んでしまった。

 「・・・大丈夫だよ本当に。」

 一言発し、必要のない思考は捨てるよう願った。

 「・・・わかった。」

 彼は頷き前を向いてくれた。納得はしていないみたいだけど受け入れてはくれたみたい。

 「みんな行くよ。」

 空を飛ぶ輸送ヘリの中、女子一同に手ぶりで合図を送る。

 女子一同が頷いた。

 フィリデイの戦闘は男女交互に行い、残りの片方は万が一に際しての支援を行う。その為、女子だけがヘリから飛び出した。

 用意は万全。今日もいつも通りにやるだけだ・・・。

 そう思って降下する。

 ・・・・・なにこれ・・・。

 ”わからない”が脳裏を過った。あるいは心臓を締め付けたとでも言うべきか。とても不吉な違和感に心を支配されていた。

 急いで周囲を見渡す。

 ・・・みんなは・・・特に変化無し。・・・私の勘違い?・・・・いや、備えておこう。

 「戦闘は引き撃ち気味に。前に出過ぎないで。頭は私の班で。他は後続に。」

 無線を通して変更を伝える。故障がない限りはこれで全員に伝達できる。

 着地と同時に各々が自身の立ち位置へと移動した。

 

 ーーーーフェアリエ。それは悪魔の化身。命星エルダを侵略せんと欲する外生命体。圧倒的な膂力と数と驚異的な再生能力を持って星の大地を突き進む、生物としてあまりに非合理的な生命体。

 そんなフェアリエと相対するための戦闘方式は至ってシンプル。まずは重機関銃や戦車砲を使っての一斉射。正面から突っ込んでくるフェアリエの土手っ腹に風穴を開けまくる。これにより先頭集団の進行を遅らせ団子状態にし、重機関銃や戦車砲がより多くのフェアリエに対し攻撃を行えるようにする。

 またこの時フェアリエは、団子状態・・・つまりは互いが互いを踏みつけてしまう程に過密になった状態であっても、欠損部分を再生しようとする。その結果引き起こされるのがフェアリエ同士の結合。過密状態で無理に再生しようとした結果、互い互いが繋がり合ってしまう。これにより歪な形状となったフェアリエは機動力を一気に奪われる。

 さらにこの間に後続のフェアリエたちが前面に押し寄せてくるが、この時結合し機動力が失われたフェアリエを踏みつけ切り裂き噛み千切りながら直進し続けるため、これによりフェアリエがフェアリエを殺す構図を確立することができる。

 フェアリエには驚異的な再生能力が宿っている。それは無からモノを生み出す御業に等しく、まさしく不死の存在に思えてしまう。しかしその実再生の為の体力には限りがあり、またフェアリエによるフェアリエへの攻撃には再生阻害が働くらしく、人の兵器に比べより効果的で効率的にフェアリエを駆逐できる。

 ある程度事が進むと、団子状態から抜き出たフェアリエが緩衝地帯・・・人間側の最前線から団子状態にあるフェアリエ側の先頭との間にある地点にフェアリエが溜まり始める。それが一定数を超えた時、緩衝地帯を超えて重機関銃やら戦車砲やらが配置された最前線にフェアリエが到達してしまう。これを阻止するために、ある程度の時間が経つ、あるいは緩衝地帯に一定のフェアリエが溜まると一斉射を取り止め、緩衝地帯にフィリデイを投下し、その場にいるフェアリエを殲滅する。

 殲滅がある程度進むとフィリデイに撤退指示が出され、輸送ヘリが近くに降りてくるので、フィリデイたちは輸送ヘリへと乗り込み緩衝地帯上空にて待機状態へと戻る。そしてフィリデイの撤退が完了されると再び一斉射が開始される。

 但し緩衝地帯へのフェアリエの流入が苛烈であった場合、フィリデイを殿として、戦線を一度後退し再度展開する必要性が生まれてくる。

 逆に戦線に襲撃してくるフェアリエの数が少なかった場合には前線を押し上げ、他に散っていたフェアリエを呼び寄せることもある。これにより各戦線におけるフェアリエの数をなるべく均等にし、局所的な戦線の崩壊を避けることができる。

 これらが対フェアリエ戦における基本戦術であり、そして戦線の押し引きを担っているのが第八防衛線統括本部ならびにサミア防衛線総司令部となる。

 

 ーーーー違和感。それを感じたら気をつけろ。

 かつてある人に、そんなことを言われた。

 ーーーーフィリデイは感受性が高くなっている。あるいはもしかすると、フェアリエの心すら読めるのかもしれない。だが・・・・。

 その時は意味がよくわからず、そもそも馬鹿げた話だとして特に注力して聞いていなかった。

 ーーーーフェアリエは紛うことなき悪魔の化身だ。人の身でその心に触れようなどと考えるな。

 ほんとうに意味がわからない。結局あの人は、何が言いたかったのだろうか。正直今となっても、狂ってしまったオカルト信仰人間程度にしか思っていない。だけどそれでも、今思い出したということはきっと重要なことなんだろうと・・・そう信じて改める。

 「みんな、何か変わったことはあった?」

 一撃目を終え輸送ヘリへと戻ったみんなに対し問うた。

 その言葉に各々が誰かと目を見合わせるが、みんな首を振るか傾げるかだけで明確に答えをくれる人は居なかった。

 「・・・・そっか。ならいつも通りで・・このあとも気を引き締めて・・・・何か気づいたことがあったらすぐに報告して。」

 「「「「了解。」」」」

 返事が重なったあと、みんなはそれぞれに談笑を始めた。

 「ミトちゃん。いい?」

 言身と昇子が美十の前に立つ。

 「どうしたの?」

 「さっき言ってたこと・・・今日、なんか変?」

 なんて言い表わせばいいのかと悩んでいる難しい顔をしながら聞かれた。が、その言葉のおかげで確信できた。

 「言身さんも?」

 「うん。なんか・・ザワザワするっていうか・・苦しいっていうか・・・。」

 ただの風邪のようにも思える何かを、彼女もこの戦場で確かに感じ取っていた。

 「私も同じ。今日はちょっとおかしいと思う。」

 胸に手を当て答えた。

 「なんの話?」

 「さあ?」

 隣でツミレと昇子が疑問符を浮かべていたが、そんな2人を余所に美十は話を進める。

 「取り敢えず分からない限りはどうすることもできないから、何かあったらアドリブでなんとか・・・一応気づいたことがあれば報告をお願い。」

 「うん、もちろん。・・・ミトちゃんも気をつけて。」

 「ええ。」

 そうして時間が過ぎて二撃目も終盤へと差し掛かってきた。

 「みんな行くよ!」

 手振りで合図を送り、飛び降りる。

 各々が配置につき、フェアリエを殲滅する。

 撤退命令が出されて、輸送ヘリへと戻っていく。

 

 「みんな行くよ!」


 「みんな行くよ!」


 「みんな行くよ!」

 

 ーーーー太陽がてっぺんを超えた。

 外気は充分に温められ、運動し続ける身体が熱を蓄え、冬とは思えないほどに汗をかいていた。

 「・・・ジジ・・・神子隊、本隊への後退命令が出された。」

 「了解、殿は任せてください。」

 「・・・ジジ・・・悪い。なるべく早く完了させる。」

 「お願いします。」

 ・・・そっか。・・・まあ、予想どうりではあるかな。

 数は多く、攻撃はより苛烈に。これ以上は厳しい戦いになりそうだった。だから正直嬉しい。

 とはいえ殿という役目はいつでも一番危険な役目だから、気を引き締め直さないと。

 「みんな聞いたよね?部隊後退の命令が出たから私たちが殿になるよ。準備して。もちろん男子も。」

 やることは対して変わらない。緩衝地帯に降りて入り込んだフェアリエを殲滅するだけ。ただ後退から部隊再展開完了までの時間が通常のインターバルと違い極端に長くなってしまう。それが結構危ない。単純な話、一斉射終了後に緩衝地帯へと侵入してくるフェアリエは時間と共に倍々で増えていくから。

 例えばとある戦域で実際に起きた例として、始めのうちは侵入してくるフェアリエ含め緩衝地帯に残るフェアリエを問題なく処理できていた。それがある程度続いて「もう少し粘れるか?」と欲張ったところ、一瞬にして大量のフェアリエが緩衝地帯へと流れ込んでしまった。その結果数人のフィリデイが囮になる事態に陥って、さらに機甲部隊の一斉射すらも間に合わずに最終的に部隊崩壊の結末を辿った。

 この事実を知っているからこそ普段から欲張り過ぎず、かと言って日和過ぎずのいい塩梅を探りながらで戦闘を進めていたわけだけど、殿となるとまた少し戦闘方式を変える必要が出てくる。なにせ達成すべき目的が違うから。

 普段はあくまでも緩衝地帯に残ったフェアリエの殲滅がメインで短時間で終わらせられる。だから侵入してくるフェアリエに関してはそこまで気にする必要がなく、またある程度終わった時点で撤退ができる。

 だけど殿の場合だと、部隊再展開までの時間と次撃開始の為の距離を確保しなければいけない。だから戦闘時間が伸びて、また次撃開始における最低限度以上の距離の確保のためにむやみやたらに退くこともできない。結果必然的に相対あいたいするフェアリエの数が増えてしまう。

 とはいえ一応、再展開場所からある程度の距離を離した地点まではフィリデイも退くことができるから無理をしすぎることはない。

 フィリデイとインシーニェ(フィリデイ専用武器)。この2つが揃えばフェアリエの再生を阻害し生物としての枠組みに押し込む事が出来るけど、だからといって無茶は禁物。私たちが一度に相手し安定して勝てるフェアリエの数は4体程度。それ以上だと少しの隙すら許されなくなってくる。だから絶対に無理はしない。しっかりと数を把握し距離を保つ。

 「・・・ジジ・・ちょっと数が多いね。」

 累飛くんの報告に唇をかむ。

 殿としての役目はすでに幾度か経験しているが、そのどれよりも今回はフェアリエの数が多い。

 私自身も気づいていたが、改めて認識させられ苦しくなる。

 また、それだけではない。朝からずっと感じていた不吉な違和感が明らかに増している。もう勘違いだの何だのは言ってられないほどに胸がざわめく。

 間違いなく今すぐに行動しなければいけない。でなければ最悪の事態が私たちを襲う・・・かもしれない。

 ・・・どうする?

 選択を迫られている。

 とりあえず指定された距離まではこのまま引き撃ちを続けるとして・・・それで間に合う?・・・・いや、いつものペースで考えるなら無理だ。再展開完了よりも先に私たちが限界距離へと到達してしまう。

 ならば無理をしてでも耐えるべきか?・・・それとも許容し大きく退いてしまうべきか?

 世界の為を思うなら耐えるべき。みんなのことを想うなら退いてしまうべき。しかしどちらにしても犠牲者が出る可能性が高い。

 ・・・私には・・・・。

 『無理はしなくていい。危険なら退け。今この場、そしてこの世界においてはお前たち”フィリデイ”の命こそがもっとも優先されるべき対象だ。』

 幾度となくそう言われた。合理的に見ても感情的に見てもその判断が最も正しい。フィリデイの存在こそが世界の命運を担っているのだから。

 けれどだからってその命の為に、貴方たちを犠牲にするわけには・・・。

 それでも決断は必要だった。だって私はリーダーだからーーーーー。

 「ミト・・・大丈夫。あたしらならやれるよ。」

 私の不安・・あるいは迷いを感じ取ったのか、ハッキリとした口調で・・そして力強い声色でツミレさんがそう言った。

 ならばもう、迷ってなどいられないだろう。

 美十は無線機を軽く叩く。

 「・・・ジジ・・みんなごめん。少し無理して。頑張るよ。」

 その言葉に、美十の迷いを知ろうはずもないみなが元気に言葉を返す。

 大丈夫、自分たちは問題ない・・・と。

 みなにとってこれほどの逆境は始めてだった。しかしそれでも誰一人として、この危機を乗り越えられないという感情は持ち合わせていなかった。みなこの部隊でなら、これ程の逆境も乗り越えられると確信していた。

 もちろん危険は承知。だから油断はしない。その上で、何も心配しない。

 確固たる希望を胸に、みなが一様にインシーニェを天高く振り上げた。あるいは偶然、重なっただけか・・・。


 ーーーー自信に満ちた心。それでいて冷静さを失っていない心。それは人の能力を最大限に発揮するための・・・いや、人の能力を何倍にも膨れ上げさせる為の必須項目だ。

 危機に直面した彼ら彼女らにはそれがあった。だから上手くいったのだろう。

 彼ら彼女らはその日、自らに訪れた危機を乗り越え、殿としての役目をまっとうした。皆が疲れ果て憔悴しょうすいする中、それでも彼ら彼女らは笑い合った。

 しかし満ち溢れた自信とそれを成し遂げた成功体験は少しずつ心を蝕んでいく。

 成長過程で添えられた毒に人は気づかない。失敗してようやくそれが毒であったと人は気づく。だからこそ傑物けつぶつたちは過去を学ぶ。学び繰り返さぬようつとめるのだ。

 しかし若人わこうどにそれがかなおうか。彼ら彼女らにはそれを学び努めるだけの時間が存在し得ないのだ。故にーーーー。

 

 戦線を下げることには成功した。私たちは誰一人欠けることなく役目を果たした。

 けど疲労は溜まる。・・・いつもよりも。

 なのに自信に満ちた心が麻痺を引き起こして疲労を忘れさせる。逆境を乗り越えた成功体験に心が酔いしれ意気高揚と浮き足立っている

 まだ今日が終わったわけではないのに、みんなの心には既にやり切った感が蔓延はびこっていた。もう負けないという油断が蔓延まんえんしていた。

 「気を引き締めてみんな!今日はまだ終わってないよ!」

 美十はみなに本気で注意を投げかけた。

 それを聞き、みなが気持ちを改める。しかしそれを完了できた者が何人いたか・・・。

 そうして美十は不安に心を支配される中、再度降下の指示を出した。

 「みんな行くよ!」

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