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(破棄)火玉  作者: 椿 木春
人魔大戦、初期前夜
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【A】僕らの命は使い捨ての道具

 シグミア大陸南西部に位置する国。ゼイムヒート王国。僕らはそこに住んでいた。だけど、灰色の化け物たちがすぐ近くまで迫ってきたことで、僕らも避難することになった。だけどお金がないから・・・飛行機に乗れなくて、電車にも乗れなくて、車はどこも渋滞続きで・・・僕たちは結局、歩いて避難し続けることになった。

 その道中でのこと・・・。

 遠くの方から声が聞こえてきた。それは軍隊のトラックから発せられている声だ。

 「中央広場にて、水と食料の配給を行っている。赤い旗が目印だ。順番を守り、列を乱さず、暴れるな。できないものは即座に殺す。中央広場にて、水と食料の配給を・・・ーーー」

 その文言を繰り返している。

 「アーマール。お母さんの手をしっかり握ってなさい。」

 「うん。」

 僕の返事を聞くとママは、高く掲げられた赤い旗の方向へと、人を押し退け足早に進んでいく。そして僕はママ手に引かれ続け、溢れそうな人ゴミによって作られた壁の中を、ただ力任せに進まされていった。

 中央広場は5つの道から入ることができるけど、その内の1つは軍が占領してる。だから、残り4つの道からしか入ることができない。そしてその4つの道には長い列ができていた。外はあんなにも人が暴れていたのに、中に入っていくにつれてみんなどんどんと大人しくなっていく。

 その理由はすぐに分かった。

 配給車の周囲5メートルくらい。そこには円を描くように鉄条網が張り巡らされていて、地面をよく見てみると辺り一帯が血の海になっていることに気づいた。つまりそういうことなんだと思う。

 順番守らない人たちが一度に押し寄せたことで誰かが踏み潰され、列を作るために兵士の人が銃で脅し、ルールを守れない人が撃ち殺された。

 実際にトラックから発せられている声からも、ルールを守らなければ殺すって聞こえてくるし。

 最初の方は地獄絵図だっただろうな・・・。

 それにしてもママすごいな。

 あんな無秩序な人混みを押しのけていって、安全な列にまでたどり着けるなんて・・・。

 ママがいてくれてよかった。

 あとはこのまま進んでいって・・・それで食料と水をもらって・・・また避難か・・・。

 避難避難・・・はぁ。

 この世界のどこに・・安全な場所があるっていうんだ。

 ・・・そういえばシャーディアが、噂程度の話だけど化け物たちは水を泳げないとか言ってたっけか。

 それが本当ならどこかの島に行くのがベスト。

 だけど島に渡るためには船か飛行機に乗らないと・・・。

 ・・・またお金が必要になるのかな。

 

 僕らの順番がやってきた。水と食料を渡されて、軍が占領していた道に誘導された。そこを抜けると、町の外まで出ることができた。

 するとここまで誘導してくれた兵士の人が・・・。

 「この辺りは特に、食料や水を奪いにくる輩が多くいる。更に、貴方達そのものを奪う外道もいるだろう。女性二人だけでは相当危険だ。できることならもう少し、信頼できる男手を増やしてほしい。」

 そう言ってきた。だけどママは・・・。

 「ありがとう。だけどそれはできないの。信頼していた男たちはみんな、徴兵されてしまったから。」と。

 僕にはわかる。ママが優しい声で、柔らかい表情で喋っていても・・・胸は苦しいと、パパやその仲間たちが心配だと、そう言いたそうなその雰囲気を、しっかりと感じ取れる。

 「そうか・・・すまない。・・・ならばこれを。」

 そう言って兵士の人が差し出したのは、一丁の拳銃と箱に詰められた144発の弾。

 「貴方達のような人には護身用に渡せと言われているんです。」

 「わかりました。ありがとう。」

 「危険が迫ったら迷わず撃ってください。今の荒れた世界、自分の身は自分で守るしかありませんから。」

 その言葉に、「そんなことはしません。」とも、「わかりました。」とも・・・ママが言うことはなく、ただ一礼だけして・・・僕たちはその場を後にした。

 ・・・その日以降ママは、必ずずっと・・・寝るときでさえ、肌身離さず拳銃を隠し持っていた。ママは分かっていたんだ。避難の旅路がどれほど危険なものなのかを。だから僕らの手は、いつも紐で繋がっていた。初めの内は分からなかったこれは、つまりそういうことだったんだ。


 「アーマール!起きてアーマール!・・・アーマール!!」

 「・・・あれ・・シャーディア?どうしてここに・・・・ってここどこ?」

 目を覚ました僕は、見知らぬテントの中にいた。上部分は濃い緑色、下には絨毯が敷かれていて、その周りはなぜか透明の幕で覆われているテントの中に。

 これスケスケじゃん。

 周りから見られ放題じゃん。

 「よかった・・・やっと目を覚ました・・・。」

 と、安堵の表情を見せるシャーディアに・・・。

 「あ、ごめん?おはよう?」

 僕は困惑しながら答えた・・・いや、聞いた?

 「うん。おはよ。」

 「でここは?」

 その問いに、シャーディアは首を傾げながら答える。

 「砂漠の中心?みたいな?」

 と。

 「みたい?どういうこと?」

 「足もと。見て。」

 そう言われて視線を落とすと・・・。

 「え?鎖?」

 足首に錠がついてて、そこから伸びる鎖が蜷局を巻いて外の方へ。追って出てみると、それは地中に埋まり固定されていた。

 「え・・・え?・・・ちょっと・・どういうこと?」

 まるで意味が分からなくて、不安になって、焦って、恐れて・・・。

 「・・・フンッ!!・・・ンンッ!」

 思いっきり引っ張ったけど、それは全然抜けない。

 「アーマール。」

 「シャーディアも手伝って!2人ならなんとか・・・。」

 「アーマール。無理だよ。私たちだけじゃ引き抜けない。」

 なぜか既に諦めがついているシャーディアが、続ける。

 「隣にいる大人、2人がかりでも無理だったそうだから。」

 だから・・・大人2人でも無理だったから・・シャーディアはもう諦めて・・・・・。

 「え、隣?人いるの?」

 「うん。そこの坂ちょっと上るよ。」

 そう言いながら、シャーディアはテクテクと進んで行く。

 「あ、待って。」

 手をジンジンと痛ませながら、僕はシャーディアを追っかけた。

 「ほら、南と北のほうにテント・・見えるでしょ。」

 「あ、ほんとだ。」

 そういや近場のことばっかで周囲一帯の確認してなかったな・・・。

 「それにしてもこの鎖、けっこ長いね。」

 10メートルくらい進んだのに、テントの中の鎖はまだ蜷局を巻いていた。

 「うん。多分30メートルくらいあるって言ってたよ。」

 30メートルって・・・思ったよりも長いな。

 ・・・なにか意味があるのかな。

 「あ、ちなみに隣のテントまでは50メートルくらいらしいよ。」

 「届かないじゃん?!」

 「うん。まあでも・・・一応声は届くから、話したいときは合図してって・・・そう言われたよ。」

 「そっか。」

 それならまぁ・・・いいのか?

 ・・・考えても仕方ないか。

 「とりあえずテント戻ろ。外はあっついあっつい・・・。」

 手で自分を仰ぎながら、シャーディアはテントへと戻っていった。

 僕も戻るか。

 ・・・テントに戻った僕は、南と北のテントにいる人達のことを聞いた。

 するとシャーディアは、ちょっと嬉しそうに笑いながら・・・。

 「南の方にいるのは、多文私たちと同じ中学生くらいの女の子2人組・・・だと思う。」

 「多分?だと思う?」

 「そう。言葉が違ったの。だから会話ができなかった。でも2人とも仲良くなれそうな明るい子だったよ。ジェスチャーでいっぱい話たし。」

 ジェスチャーって・・・やば。

 「めっちゃ楽しそ。」

 「うん。楽しかった。」

 後で行こ。

 「で、北の方は?」

 そう聞くと今度は、あの人達嫌いと言わんばかりの顔つきになって・・・。

 「女性のナビーラさんと男性のハイサムさん。2人とも21歳で結婚してるんだって。」

 「へぇ〜・・・。じゃあみんな知り合い同士で集められてるってこと?」

 「そういうわけでもないみたいだよ。」

 「あ、そう。」

 違ったんだ。

 「えっと・・・ナビーラさんの隣がまったく知らない人同士で捕まってるらしいよ。」

 捕まる・・・。

 それはもう少し整理してから聞けば良いか。

 今はそのこと、あんまり自覚したくないし・・・。

 それで・・・隣の隣にいる人たちが他人同士ってことで・・・あ。

 「てことはその先にもまだまだ人いるってこと?

 「みたいだよ。伝言ゲームみたいにテントの数を1足して横に伝えていったんだけど、そのとき私が聞いた数字は14だったから。」

 「14って・・・。結構たくさん・・・だよね?」

 「うん。1つのテントだけでもこれだけの水や食料があるのに、それが14以上も用意されてるわけだしね。」

 「水と食料って・・・そこの箱に入ってるやつ?」

 「そう。はい、これ。レーションってやつなのかな。食べてみて。」

 そう言われて渡されたのは、茶色い・・・細長い四角の・・・板?それをかじってみると、触った感触以上に柔らかかった。柔らかくて、しっとりしてて・・・麦とナッツと、後なんかいろいろな味が混じり合ってて・・・・。

 「不味くもなく、かといってめっちゃ美味しいわけでもなく・・・。まあなんていうか・・・なんと言えばいいのか・・・まるで言うことがないというか・・・。」

 「ちょっとだけ美味しい、味のついたう○ちみたいだよね。」

 ングッ・・・と、一瞬に吐き出しそうになった。

 「ちょッと!気持ち悪いこと言わないでよ!食ったことあんの?」

 「あるわけないよ。あんなクソ誰も食えないでしょ。」

 「じゃあ言わないでよ・・・。もうこれいい。仕舞っておくね。」

 「りょ〜かい。」

 「はぁあ・・・。」

 ・・・ちょっと待って。

 まさか食料これだけってわけないよね?!

 焦りが募り、急いで食料ボックスを開けた。すると中には・・・・。

 「よかったぁ〜。ちゃんと色々あるじゃん。」

 乾パンにビスケット、はちみつなんかが入ってあった。

 要は腐らない食べ物、腐りにくい食べ物が入ってるのか。

 だけどしっかりと栄養を摂るためにはレーションが必要っと・・・。

 食料ボックス内にあった紙の一部分には、そう書かれていた。

 ・・・あれはレーション・・・あれはレーション・・・あれはレーション。

 変なことは忘れろ・・・。

 忘れて・・・とりあえず他のやつも見ることにしよう。

 「・・・・・・・ん?なにこれ。」

 他のボックスも確認している途中、そこで細長いボックスを開けた時・・・・。

 「剣?」

 それは1メートルほどのもので・・・鍔から剣先と柄頭にかけて、雑草の根っこみたいな何かがこびりついていた。それはくすんだ銀色で、だけど触ってみるとブヨブヨとしていて・・・。

 ・・・気持ち悪いな。

 「アーマール〜。水取って〜。」

 「う〜ん。水ね水水・・・。」

 ゴロゴロと寝転びうちわで自分を仰ぎながら、それでも暑そうにグデェ〜っと溶けてしまっているシャーディアの顔に。

 「そい。」

 ぬるい水をぶっかけて"あげた"。

 「ぶへッ・・へぶッ・・・。ちょとととと・・・ストップ!」

 目を開けられなくて顔を振りながら両手も一緒に振り回しているシャーディアの滑稽さに笑って、水を止めて"あげた"。

 「冷えた?」

 「・・・酷い!ぬるい!冷えてなあ・・・くはないかも。ちょっと涼しい。ありがとう。」

 うちわで風を送ってあげると、シャーディアは嬉しそうに目を閉じた。

 ちょっと楽しんで、心が落ち着いてきた。だから思い起こす。何故今こうなっているのかを。

 

 避難中の旅路にて。僕はママと、土でできた路上を進んでいた。

 辺りに建てられている家はどれもボロボロで、この町に住んでる人たちは僕らよりもお金がないんだなって。それが伝わってきた。だからだろうか。ママはより一層警戒心を強めていたと思う。ちょっとした音にも反応して、空いた手は常に服の下にある拳銃を握っていて・・・。

 だけれど・・・・僕らは襲われた。

 相手は町の住民?それとも別の集団?わからない。わからないまま、拳銃の音が響き渡った。目の前で人が死んだ。遠くからなら何度か見たことがあったけど、こんな至近距離では始めてだった。体が仰け反って・・・血が飛び散って・・・。その人は倒れた。

 続く発砲音に、周りの集団が物陰へと移動しようとする。ママはそれを狙い続けていたけど、弾は当たらない。逆に発砲音のせいで聞こえなかった足音が真後ろから聞こえて、僕らは気絶させられた。

 そしてテントで目覚めた。

 ・・・ママがいない。

 初めはそのせいで取り乱しそうになったけど、シャーディアがそばにいてくれた。そのおかげで、僕は理性を保つことができた。そしてそれは今も同じ。不安で怖くて、泣きたくて叫びたくて。きっとシャーディアがいなかったら僕は発狂していたと思う。

 僕らは鎖で繋がれている。それは取れない。だけど行動できる範囲は半径30メートルほどと、結構広い。

 南と北には人がいて、更にその先にも人が居続けるらしい。

 テントの中には水、食料、寝袋、着替え、ランタン、薪、着火道具一式、そして剣と・・・それ以外のも含めて、まあなんていうか最低限必要なものだけが置かれている。

 そして一番の問題である剣は・・・説明書を読むことで理解できた。要はこれを使って灰の化け物を殺せと。強化剤と呼ばれる何かを打たれた僕らにならば、それが可能だと。そういうこと。

 なんかいつにもまして体が軽いと思っていたけど、それは気絶していた間に打たれた強化剤とやらの効果ってことか。

 なるほどこれでだいたい理解した。

 つまり僕らは、誘拐され兵器化された人間のモルモットらしい。

 ・・・うん。

 ふざけんな。

 死ね。

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