15.終末の光
【スタビリレ】・・・それはイコルを効率よく、かつ、安全に摂取するための安定剤だ。
既に3本目のイコル追加接種を終えた私たちにとっても、この安定剤は十全に効果を発揮してくれるらしい。
そんなわけで、安定剤と合わせ4本目のイコル追加接種を終えた803部隊は、ヤマト国内最初の04フィリデイとしての強さを見せつけながらも、続く04フィリデイたち同様に悪戦苦闘の日々の中で、確かな勝利を掴み続けていたーーーー。
「・・・嫌な予感がする。」
苛烈な戦闘の中で、言身が呟く。
確かな異質感を前方に感じながらも、皆同様に兵器と化して、フェアリエを殺し続けていく。そうしなければ、己自身が殺されてしまうから。
「・・ッッ?!・・フゥ。」
・・・危なかった。
正面から迫るフェアリエを殺したら、その腹を突き破るようにして攻撃が飛んできた。・・・ここ最近、こんな感じだったりのフェイント攻撃みたいなのが増えている。
言身たちが戦場に来てからもう半年以上・・・。その中で、フェアリエが戦い方を学んでいるということになるのだろうか・・・。
・・・こいつらにも知性はあったのか。・・・本当に成長してるんだ。
言身は、ヤン先輩の言葉。・・そして美十と話し合った内容を思い出していた。
「・・ジジ・・・カコがやられた!重傷だ!ミト!」
「私とツミレさんで援護。累飛くん、正面はお願い。」
「了解。」
「シノさんは香子さんをヘリまで送って戻ってきて。エリカさん、莉緒菜さんは少し耐えて。」
「ガッテン!「承知!」」
803は精鋭部隊。そんな愚痴を言われながらも、確かに今この瞬間までは犠牲者や重傷者なしでやってこれていた。・・・だけどフィリデイの数が足りていない事実は如実に現れ始めていて、しかも機甲部隊の立て直しが必要になる殿役では、後続は支援部隊のフィリデイに任せ、803は常に全員が前列に配置されている状況が大半。そんな中で、またしても1人目の離脱者が出た。
・・・仕方ない。
「ショーコちゃん。」
「はいはい。」また余計なお節介ね、と。
「アサツジくん。」
「そうだね。今現状で一番良いのは僕らが動くことだ。いいよ、前に出よう。陽太は援護メインで頼む。」
「おう。」
「ミトちゃん。右4人、少しだけ前に出るね。」
「ありがとう。立て直し完了次第、報告する。それまでお願い。」
「うん。」
そうして少し無理して前に出たところ、思考の隅に追いやっていた異質感が突然膨らみ、そして通り抜ける。
「ミトちゃん!気をつけて!」
・・・私は叫んだ。誰にも死んで欲しくなくてーーーー。
ーーーー突如として発生した爆炎と煙が空を昇る。
伸し掛かる衝撃が言身の全身を押し出す。
何が起きたか・・・・地上で何かが爆発した。そしてその原因には、直ぐに気づくことととなった。
・・・あれか?!
姿形は変わらないが、圧倒的な異質感を放つフェアリエを、言身の目が捉えた。
・・・対処法は?
見えた感じでは爆発自体はそこまで大きくなかった。つまり警戒さえしていれば避けられる。
「コトミちゃんなにを?!」
1人飛び出し、異質感丸出しのフェアリエを奇襲した。
まず切り裂きかち上げ、そして下がる。その最中で言身の目が捉えた状況。・・・切り裂かれたフェアリエは、一瞬にして姿が消え去り小さな光と生った。・・・そしてそれが弾けた。周囲のフェアリエ巻き込みながら・・・。まるで全てを無に帰すような光を放ちながら・・・。
「うぉぁ?!」
空中で爆風に晒された言身は、その衝撃でさらに後ろへと飛んで行く。
その背中を、昇子が受け止めた。
「ごめん。ありがとう。」
「それよりもあれ・・・。いや、今はとにかく・・・。」
戦闘を継続するしかない。
「フェアリエの中に爆発個体が混じってるみたいだ。違和感を持っている人がいたなら、これがその正体。爆発自体はそんな大きくない。姿を消したフェアリエがいたら、即座に離脱。じゃないと爆発に巻き込まれてしまうよ。」
状況をしっかり観察していた苴辻が、その情報をみんなへと伝える。
・・・やっぱできる男だなアサツジ君は。
その後はみんなが即座に対応して、なんとかその場は耐え忍んだ。・・・そして累飛から全体へ無線が入る。
「・・・ジジ・・中央壊滅。即時後退命令。第一絶対死守圏まで。すでに攻撃部隊は運べない武器を捨て最速で下がってる。僕らも急ぐよ。」
人類は3度目の大敗を喫することとなった。しかし、戦力は未だ健在。不屈の精神さえ残っているのならば、戦争自体に負けたわけではない。
「待って!まだミトが!!」
ツミレの声が無線越しに響く。そしてその声だけで、数人が理解した。美十が最初の爆発に巻き込まれてしまったのだと・・・・。
「状態は?!」
累飛が美十の現状を視認できる人に確認を取るが、誰もそれには答えられず。・・そんな中で、莉緒菜が現状を説明した。
「わからない。ミトちゃんの姿が見えないの。多分向こう側に飛ばされたんだと思う。でも・・・遠目からでも、爆発をもろに受けていたのが見えて・・それで・・・。」
莉緒菜だけは、あの光景をその目でしっかりと捉えていてたらしい。だからこそ言葉にできず、吐きそうなのを我慢しており、そして先の数人は通話越しでそれを悟った。
「違う!まだ生きてる!みんなも手伝って!道を開かないと!」
悲痛な叫びと呼ぶに等しい願望。そんな自分勝手な声を上げフェアリエに突っ込もうとするツミレに対して、累飛は麻酔を打ち込み無理矢理連れ戻すことにした。
「ごめん。でも、これ以上無駄に犠牲者を増やすことはできないから。」
その後、後退に際して、崩壊した左翼組は中央に合流。中央組はツミレを運びながらその護衛を。併せ余力のある数人は右翼組に合流。そして肝心の右翼組は殿役に徹することになった。
・・・これは流石に無茶かも。抜けた穴が大きすぎる。
一応、苴辻や陽太や累飛といった、余力が有り、かつ、個としても強い数人が多めに引き受けている状況ではあるが、しかしそれでも今までの数倍の数。そこに更に爆発個体などという異質物に集中力を割かれ、結果呼吸が荒れ、手首は感覚を失い、視界が滲みーーーー。
言身は人の兵器によって作られたクレーターで脚を踏み外してしまった。
「い゛ッッ・・・。」
どこから伸びているのかもわからない爪が言身の右脇腹を貫通する。
・・・鈍痛、焦り、恐怖、絶望。・・・カヒュッ・・・という音が自身から発せられているのを聞いて、それを最後に息ができなくなった。そして全身が一瞬、硬直した。
しかしそれでも言身が動きを止めることはなく、即座にフェアリエの爪を断ち切り、腹に突き刺さり残る爪は無視したまま、連続して近づくフェアリエの首を刎ねた。
だが、飛び散った血の幕により視界が遮られ、そのせいで右斜下から迫ってくる腕の断面に対処が遅れる。・・・・瞬間、ゴリッ・・・っと、耳に聞こえる音が鳴った。
「ん゛き゛ッ・・ぃ゛ッ・・・・・。」
変な音した変な音した変な音した!最悪!最悪!最悪!・・・早く体勢を!!
しかし腕の断面による打撃の攻撃は、言身の右大腿骨付け根辺りに命中しており、あの変な音は右脚が完全にイカれたことを意味していた。
だがそれを自覚していても尚、飛ばされた体が着地する瞬間、咄嗟に出た脚は軸足である右脚だった。
「・・・ん゛い゛ッ?!」
右脇腹から血が噴き出し、右脚の付け根に激痛が走り・・・・まるで踏ん張りが効かず勢いのままに地面を転がった。
そして迫る異質感に逃げること叶わずでーーーーー
・・・誰かの・・ショーコちゃんの叫び声が聴こえた気がする。
しかしそれが耳に届くことはなかった。言身の五感はただ目の前の光にのみに支配されて、輝く目前に無力を嘆いた。
「・・・ごめん。」
死んだと理解した。走馬灯を見た気がした。しかし直ぐ様、意識が現実に引き戻される。
気がつけば昇子が全速力のまま言身を抱き上げ、そして2人して輝く光の中心点から離れていった。・・・・とはいえ時は既に遅しで、爆発に巻き込まれることは必然。故に少しでも爆発から言身を守るために、昇子は言身を全身で包み込みながらジャンプした。・・・爆風に乗って少しでも遠くへ逃げる為に。
結果、鼓膜を破る爆音が聞こえ、高熱に全身を焼かれながら、体が天高く押し上げられる。
空を越えて宇宙へと駆け上っていくようにして、言身と昇子は満身創痍のまま太陽に近づいていった。
ーーーー焼かれた視界で片割れを見つめる。・・・口を開き、名前を呼ぼうとする。
「・・・・しょ、ぉッ・・ケホッ・・ゲボッ・・・・。」
名前は呼べず、咳が出て血を吐き出してしまった。
それでも、そっと彼女の顔に手を当てる。・・・彼女の意識は飛んでいた。
しかし寄り添いあっていることで、鼓動が伝わる。・・・・死んではいない。確かな鼓動がしっかり伝わってくる。ところどころで繋がる皮膚から共鳴するようにして・・・ドクン・・・ドクン・・・と・・・・。
生きてる・・・生きてる・・・。
・・・とはいえだ。一対しかない翼は溶け落ちてしまった。このままでは2人とも、イカロスと同じようにして死んでしまう。
・・・そんなの、嫌だ・・・。
そう思ってしまった私は、彼女との誓いを破り、自らが下敷きになる自分勝手を選んだ。・・・せめて彼女だけでも助かるように・・・と。
・・・大丈夫。強化されたフィリデイは蟻と同じ。こんな高さ、へっちゃらだよ・・・。
そんな言い訳に笑いながら、遂に地面が迫りーーーーーーー。
全身の骨が砕ける感触を体の隅々まで味わい、死の淵という終わりを知ってしまったーーーーー。




