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14.いずれ辿り着く形

以降未編集

 「ミトちゃん。」

 昇り始めた太陽が影を作る薄暗いテントの向こう側で、美十の腕を引っ張った言身が小さく呟いた。

 「今日の夜、少し話したい。」

 「うん?」

 「大事な話。」

 真剣な眼差しが美十の目を刺す。それだけで美十は察したらしい。

 「・・・了解。」

 「ありがとう。」

 そうしてヘリに乗り込んで行くーーーー。


 「あれぇ?今日なんか少ない?」

 空から地上を眺める昇子が”不満”を声に出す。

 「ほんとだ。」

 「ちゃんと意気込んできたのに・・・。」

 「そこ落ち込むんだ。」

 「ああ・・・ほら、ね?」

 「そっか。楽しみが減ったもんね。」

 「そゆこと。」

 フィリデイとなり、私たちは変わった。それは紛れもない事実だろうと感じる。だけど変わらないものだってちゃんとあるって信じて、私は今日も戦いに明け暮れるーーーー。

 

 「ふぅぃぃ〜終わった終わった。今日も退散。」

 地平線の向こうへと去っていくフェアリエたちを尻目に、昇子はつまらなそうに言葉を発した。

 「不完全燃焼が否めないって感じだね。」

 「寸止め感満載。それに、さ。私たちも強くなっちゃったから。」

 「そっか。・・・そうだよね。」

 昨日の夜にイコルの追加接種を終え、今日は心機一転しての初陣とも言える状況であった。

 しかしそんな新たな戦場は、集団として少なくなったフェアリエが、個体として強くなったフィリデイを前に惨敗を喫すという・・・つまりフィリデイによる一方的なワンサイドゲームであった。

 「シャワ〜シャワ〜シャワァ〜。とっとと綺麗になりましょぉ〜。」

 「そうだね。」

 「言身さん。」

 美十が言身を呼び止める。

 「今朝の事。いつにすれば良い?」

 「あえ?・・・」

 ああそっか。呼び止めたんだった私。

 「・・・えっとミーティングの後で。」

 「わかった。」


 ーーーーミーティングが終わり皆がテントを後にする中、言身と昇子はその場に座ったままだった。

 「ミト?」

 「ごめんツミレさん。私は言身さんと少し話すから、先行ってて。」

 「あたしも一緒じゃダメ?」

 「イィン長?アネゴ?・・・行かないの?」

 テントの入り口から旭日が顔を覗かせる。

 「ツミレさん。」

 美十が催促する。

 「・・・わかった。」

 ツミレは渋々受け入れた。

 「なんかある?」

 下を向くツミレに旭日が問いかけた。

 「いいから。・・・アタシらは行くよ。」

 旭日の頭を掴み、ツミレはその場を去っていった。

 そうしてテントの中は、言身と昇子と美十の3人だけとなった。

 「藍実あいざね教官には言ってあるから、ここには暫く誰も来ないよ。」

 「ありがとう。それで・・・ツミレちゃん、私は一緒でも良かったよ?」

 実際、ショーコちゃんには話しちゃったし・・・。

 「・・・大丈夫。」

 美十は首を振りながら言った。

 「・・・・そっか。」

 少し残念。相談できる人は多い方がいいから。

 「意気地無し。」

 昇子が気持ち悪そうに言葉を吐き捨てる。

 「ショーコちゃん・・・。」

 「だってそうでしょ?違う?」

 昇子の言葉に、美十は自嘲するような表情を見せる。

 「ちょっと黙ってて。私が話すから。」

 「はいはい。」

 「それでさ・・・。」

 言身は改めて、ここ最近の接した結果で気づいたことを口にする。

 「ミトちゃん、やっぱりまだ隠し事してるよね?」

 美十とは幾度か相談事を繰り返したし、美十自身からもいろいろと話してくれた。だから言身は全部話してくれたかと思っていたが、しかし日々の些細な仕草や表情や行動から、まだ一人で抱え込んでいる何かがあると推測してしまった。そういうわけで、こうしてもう一度改めて聞くことにした。

 「・・・そっか。」

 美十から少し、安堵の表情が見えた気がした。

 お風呂で相談したあの時と今日。どちらもで浮かべたこの表情を見て、言身はより深く美十を知った。

 隠し事をするくせに、聞かれたら聞かれたで安心するなんて・・・。なのに自分からは言わないとか・・・。

 「ミトちゃん、隠し事してるってことでいいんだね?」

 「・・・うん。」

 嬉しくもあり・・・しかし、もっと早くに気づいてくれたらこんなにも悩まずに済んだのに・・・という複雑な想いを感じ取れる。・・・だからか、美十の口から「ありがとう」という言葉は出てこなかった。

 「・・・実は、ヤン先輩から聞いたこと・・・あれが全部じゃないの・・・。」

 「そうだったんだ・・・。」

 「・・・まずは・・そう。フェアリエについて。そもそもフェアリエってなんだろう?」

 「国や専門機関は外生命体だって言ってるね。」

 「うん、そう。でも、それはどうでもいい事。」

 どうでも・・・。

 「・・・起源については、発生場所がデトメス大陸南部ってこと以外ほとんど不明確だから。」

 まあそっか。

 「・・・私が言いたいのは、フェアリエという生き物について。・・・そもそも”あの力”は何?・・見たところ骨と皮ばっかで”肉付きの悪い身体”してるくせして、”なんでライオンとかクマよりも強いの?”筋肉は必要ない?これって生物としておかしくない?」

 確かに・・その異質感は私も感じてた。

 「へぇ〜。・・・そうなの?コトミちゃん的には?」

 呑気に昇子が聞く。

 「普通におかしいかな。あの体躯から生まれる腕力然り、脚力然り。」

 「そんなおかしいものなの?」

 「感覚的に?・・・ほら、深海とか古代の生物とかで、時々すごい異型の生物いるじゃん?・・あれ、何も知らないまま始めて見せられると、『こんなのいるわけ無い!』って感じるでしょ?・・でも実際にそれは存在したわけだから、その構造自体は別に壊れてるわけじゃないし、環境にも適応していたんだろうけどど・・ん〜・・・なんて言えばいいのかな・・・・。」

 「よくわかんないなぁ。」

 「・・・・まぁ、そういうこと。・・フェアリエは今この世界に存在しているんだから、生物としてちゃんと生きられる構造のはずで・・・・そうだな。もしかしたら餌が少なくて月以下の低重力環境に棲息してたのかも。だからあんな体型してる?・・・まぁ、もしそうだったら命星エルダの重力にフェアリエが耐えられるはずないからこれは違うんだろうけど・・・うん。だから、かな。どうしてもフェアリエっていう存在に違和感を感じちゃうのは。」

 「んんん?・・・・・確かに変?だねぇ〜・・・。変な生き物だ・・・うん。」

 一通りよくわからない変な無駄話を終えたところで、美十が口を開く。

 「そう、おかしい。・・で、ここからが重要。・・・今度は私たち”フィリデイについて”。・・・フィリデイもフェアリエ同様に、異常な力を発揮できる。」

 「・・・ああ、似てるってこと?」

 「ヤン先輩は”一緒”だって考えてた。」

 「詳しく。私だけついていけてない。」

 「そうだな。・・・まあ、つまり、フェアリエが持つ謎の力と、イコルを接種したときに私たちが得た力の源は、同じ原理かもしれないってこと。」

 「ん?つまり?」

 「つまりぃ・・・えっとぉ・・・・」

 「つまりフィリデイとフェアリエはいずれ同種になるかもしれない。」

 「それ、ミトちゃんの答え?」

 「いえ、これはヤン先輩の答え。私は・・・」

 美十は少し迷って答えを出す。

 「別物だって思ってる。」

 「そっか。・・なら一緒かな?・・・私も謎の力の原理だけが同じだって考えてるよ。だから似てるだけだと思ってる。」

 「どゆこと?」

 「つまりヤン先輩は、いずれ私たちフィリデイもフェアリエも同じ存在に辿り着くって考えてた。ただ私的には元になってる生物が違うから・・・・そうだな。例えばイコルが謎の力を発揮するための薬剤だとして、これを人間に投与した存在がフィリデイで、犬に投与した存在をフェアリエだとするとさ。ヤン先輩はいずれ人も犬も同じ何かに進化するって考えたわけ。でも私からしてみれば人と犬は全くの別物。染色体の本数も身体的な特徴もまるで違う。だから何があろうと同種になることはない。要は強化剤イコルによってもたらされた謎の力は外付けの力なんだから、謎の力関連の在り方自体は人も犬も同じになるけど、それ以外が交わることはあり得ないってこと。」

 「・・・なんで犬?」

 なんでそこだよ?

 「そこはてきとうだよ。別に何だっていいから。」

 「外生命体でもいいの?」

 「それがフェアリエに成ったのかも。あ、腐敗と発酵みたいだね。あ、いや、外生命体だともとから備わってた力かもしれないから、成ったじゃくてイコールかも。外付けの力とか関係なく。」

 「んんん?」

 「ごめん忘れて。余計な事言った。」

 「あぁ〜うん。わかんないけどわかった。」

 「それでいいよ。」

 「・・・言身さんはそうだって確信してるの?」

 「ん?いや別に確信とまではいかないけど、でも自分で納得できる答えではあると思うよ。」

 「納得・・・。」

 「うん。そもそも私は科学者じゃないし。・・・でも何も分からない状態は嫌になるから、だから適当に妄想して納得する。ね?」

 「そっか。」

 「ヤン先輩のこともそんな感じ?」

 「そうだね。ほとんど話せなかった人だからどういった人間なのかとかは知らない。だからミトちゃんから聞いた事を妄想で補完してる。言っちゃえば9割方は私の妄想によって補完されてる。だから私の中のヤン先輩は、ほぼ他人じゃんっ!・・つってね?」

 「本当に別人って言っていいレベルだ。」

 「そ、だからまあ気にしないで。」

 「わかったでしましま。」

 「モザイクかかってる?!」

 「次に行こう。」

 「りょーかい。お願いミトちゃん。」

 「うん、えっと・・・そう。ヤン先輩は、言身さんが言ったように私たちもいずれフェアリエになるって考えた・・んだけど、そこに至った理由がちゃんとあって・・・」

 「あ!だから!」

 「ん?」

 「だからだよ!強くなったフィリデイがいずれは殺されるって話!」

 「ん?」

 昇子が覚えてなさそうに頭を傾けた。

 「ほら、フィリデイがフェアリエに為るかもしれないから!」

 「あ、ああ・・・・・え?コトミちゃんも私もいつかはあんなのになっちゃうの?」

 「いやそれはまだわからない・・けど、ヤン先輩はそうだって考えた。で、ヤン先輩の考えがそこに至った理由が、フィリデイが使い捨てにされて殺されたからってこと。フィリデイがいずれフェアリエになってしまうなら、その前に殺しておくのは・・・当たり前のことだから・・・・。」

 「そっか・・・。・・・そっか。」

 昇子は納得して、そしてようやく理解した。ただ、言身はそこに否定の意思を突きつける。

 「でもそれはヤン先輩の考えね。私はそんなこと考えてない。フィリデイがフェアリエになるなんて・・・可能性としては無くはないのかもしれないけど、でもあり得ない。だってもしそうなら、そもそも今いるフェアリエは何?・・なんで今も増え続けてるの?・・フィリデイって少ないでしょ?・・・これだけじゃな根拠としては弱いかもだけど、でもやっぱりあり得ない。私たちはフェアリエとは違う。根底から何もかもが別物だよ。」

 「言身さんはすごいね。」

 「え?」

 「私は少ししか話してないのに、まるで始めから全部知ってたみたい。」

 「ん?」

 「適当に妄想して納得する。本当にその通りだ。しかも勘が良いから大体的を得てる。」

 「ああ。そっか。そうだね。ごめん。話し続けて。」

 「うん。次はイコルについて。・・・言身さん、昇子さん。・・・貴方たちは、最近どう?フェアリエとの戦い、楽しい?」

 「うん、そうだね。楽しいよ。私もショーコちゃんも高揚感に包まれてる。」

 「そうだよね。ヤン先輩も、そうだって言ってた。そしてこれこそが、フェアリエに近づいている証だとも。」

 言身は黙って続きを待った。

 「フェアリエの行動について、考えたことある?」

 「ある。・・・けど、何も分からなかったよ。まるで獣以下。一切の自我無く、人を殺すことだけに支配されてるとしか思えなかった。」

 「私は・・・無邪気だって思った。それでヤン先輩はこう言った。フェアリエの行動は、赤子の原始反射とか幼子の好奇心に似てるって。」

 「原始反射?」

 「ほら、赤ちゃんの手のひらの上に指を置くと握り返してくるでしょ?ああいった本能的な反射行動のこと。」

 「そんなのあるんだ。」

 「うん、そう。そんな原始反射とか、幼子がおもちゃを口に入れたり投げたりする行動をフェアリエは見せる。例えば、フェアリエの持つ人を感知する特殊な器官が反応すると、フェアリエはそこに向かって一直線に進む。それで人を目前に捉えたら殺そうとする。・・・殺した後は、人の肉を食べたり投げたりもするってヤン先輩は言っていた。」

 「それもう似てるって言うかそのまんまじゃ?」

 「うん。私もそう思うし、ヤン先輩もあれはまだ生まれたてなんだと思うって言ってた。」

 「・・・今、フェアリエが強くなってるのがもし成長だとしたら・・・いずれ人間みたいな知能を持つことになる可能性もあるのか・・・。」

 「・・・可能性としては。」

 言身と美十は不安を隠せず俯いた。

 「ヤン先輩は言ってた。フェアリエは幼子のように、ただ純粋に楽しんでいるだけだって。そして私たちフィリデイも今、ただ純粋に楽しんでいる。戦うことを。殺すことを。」

 「いずれ同じになる・・・・。そっか。ヤン先輩が言いたいのは外見とかの話じゃなくて・・・・。」

 「コトミちゃん説明。つまりえっと・・・どういうこと?」

 「うん。えっと・・・まずフェアリエは今、絶賛成長中で、好奇心のままに戦って殺してを楽しんでる。で、イコルを打ち込まれた私たちフィリデイも、フェアリエとおんなじように、戦って殺してを楽しみ始めてる。きっと本来の私たちの心を捻じ曲げて、ね?・・・つまりは精神作用。精神操作。・・・で、フェアリエとフィリデイの心の在り方は今、とても似てる状態にある。このまま行けば、フィリデイの心の在り方が、いずれフェアリエとおんなじになるかもしれない。」

 「ちょっと待って。それじゃ、でも、敵が明確に違うくない?」

 「そうだね。フェアリエは人を。フィリデイはフェアリエを。そこの考え方が、私とヤン先輩では違う。でも、思い出して。ヤン先輩の話。私たちフィリデイは、いずれ殺されるかもしれない。で、それについては私も同感。フィリデイって存在はやっぱり危険で、上に立つ人間がフィリデイを始末する可能性は充分にあるんじゃないかなって思ってもいる。これはどうしても否定しきれない。なら、もう一度考えてみよう。・・・フィリデイの敵は誰?・・もちろん今はフェアリエだよね。でももしフィリデイが人によって始末されてるって話が本当だったら?・・恨みを抱えたフィリデイが人を敵視し始めるかも。・・・そうなったらもう、それはフェアリエとおんなじ。戦って殺してを楽しんでいるフィリデイの矛先が、フェアリエ同様人に向くんだから。」

 「その通り。言身さんの言う通り。・・・ヤン先輩はそのことを危惧してて、そしてヤン先輩自身が既に寄っていた。ヤン先輩は最後にこう言ったの。『人を殺したいって考える自分がいる』って。それがヤン先輩自身の意思なのか、それとも強化剤イコルによって変質させられた意思なのかは、私にはわからない。」

 「ちょっと待って。・・それおかしくない?・・・だってイコルは人の手によって打ち込まれたんだよ?」

 「うん、そうだね。昇子さんの言う通りだ。でもごめん。そこについては、まだなにも言えることはない。」

 「・・・・あっそ。コトミちゃんは?」

 「・・・・・・・・今後次第、かな。」

 これが意図的で無かったら、いずれイコルの使用は控えられると思う。それかイコルに代わる新しい薬剤が出てくるのかも?

 でも逆に意図的であったなら、それはわざと人を殺すように精神操作したわけで・・・つまり本当の目的は人の抹殺とか?・・・でもそしたらフェアリエの存在自体が・・・・・もしかして必然?全て誰かの策略?

 だめだ。考えが陰謀論じみてきた。

 「ごめん。私にもわからない。」

 「そっか。」

 「まあ今は・・・・ヤン先輩の話はこれで全部?」

 「・・・うん。これで全部かな。」

 「本当に?」

 「大丈夫。ここまで来てくれた以上、もう隠し事はしないよ。」

 「そっか。ありがとう。」

 「私の方こそ。・・・話せて良かった。・・言身さんの考え方は勉強になった。・・・本当にありがとう。」

 「いいよ。お互い様。」

 「お互い様?」

 「そう。お互い様。」

 「・・・そっか。」

 「じゃあ今日はこれで終わりだね。よし、行こ。コトミちゃん。」

 「どこに?」

 「どっか。いろいろ話し込んで疲れたから。」

 「・・・そうだね。少し歩こっか。」

 「言身さん・・・と、昇子さん。・・・今日は、本当にありがとう。」

 「・・・うん。そうだね。ミトちゃんはもっと頼ってね。私のこと。」

 「うん。本当にありがとう。」

 結局のところ、ミトちゃんから聞いた事の全容。それはあくまでも、ヤン先輩が経験し見聞きした情報をもとに立てられた推測でしかなく、つまりは不明確な情報だ。・・・だからたぶん、都市伝説的なことから、隠された真実までが入り交じっているんだと私は考える。

 そうさ。例え私が納得した推測であろうとも、所詮、推測は推測でしかなく、何が事実か?なんてのはその時が来てみなきゃわからない。だから今はいろいろ考えて納得したうえで、全て忘れて馬鹿に生きようと思う。それが結局、一番気楽な生き方だ。後は隣に大切な人さえ居てくれれば、私はずっと幸せでいれる。だからーーーーー。

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