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13.一人の兵士、一つの兵器

 ・・・暑いな〜・・・・。

 今は8月上旬。この辺りは確か乾燥帯だったかな。

 カンカン照りの太陽が肌を照り付けてくるし、地面を熱するから熱が地表面に溜まるし、あげく雨は全く降らないし・・・・・。

 とはいえここは、サミア戦線の中では北も北に位置しているから、他部隊と比べればだいぶ快適な生活ができているわけでーーーー。


 夜はとても快適だった。

 ・・・昼間の暑さが嘘みたい・・・。

 外を歩くには最適だった。・・・考え事をするのに最適だった。

 言身は昇子を捨て置き、一人ふらふらと散歩していた。・・・ここ数日間で美十と話し合った内容を、今一度考え直していた。

 ・・・私たちはイコルを打った。でもこのイコルには精神作用の効果があって、私たちはより感情的になりやすくなる。さらに恐怖心が減退して、痛覚も鈍化する。加えて好戦的にもなる。

 ただ感情的になる以外の事は、単純に戦闘を繰り返した結果の産物って可能性もある・・・けど、今は取り敢えず置いといて、全てがイコルの影響であったとしたら・・・。

 ・・・どうしてそんなことになる?

 それらが意図的であった場合、なんでそんなふうにする必要がある?

 ・・・それは「兵器にする為」って答えがやっぱり一番かな・・・。

 フィリデイは”決戦兵器”であって、”兵士”などではない。・・・よくよく思い返してみても、専門機関はいつだってフィリデイを決戦兵器と呼んでいた。

 恐怖心が減って好戦的になれば、フェアリエとの戦争にも意欲的になれる。迷って逃げることなく、勇んで正面から立ち向かってくれる。・・・ただ、「感情的になる」という部分には若干引っかかる。確かに理性的でなければ戦争に疑問を持たない。けれど感情的だと制御が難しくなる。それは兵器としてあまりよくない。でも実際は感情的になりやすくて・・・。

 やっぱり意図的ではなく偶然なのかな・・・。それかある程度許容した上で・・・・そもそもどこまでホントでどこまでが嘘かもわからないんだけど・・・。

 美十といろいろ話した。しかしそれらはあくまでも可能性の一部でしかなく、確定した情報ではない。故に明確な答えは出せず、ただいくつもの可能性を孕んだ疑問として、言身の中を反芻する。

 とはいえ疑問にいくつかの答えが用意できるだけでも、言身は安心できた。

 それに・・・だ。それに問題はそれだけではない。寧ろ今、最も警戒すべき問題こそを、言身は心配している。その結果として、イコルに関する問題にも不安が過っていた。

 

 ーーーー心地の良い風が肌を撫ぜる。

 この時期なら、外で眠ってしまっても・・と、少しだけ目を瞑った。

 「体、冷やすよ。」

 毛布がかけられる。

 言身の横には、昇子が立っていた。

 「また、考え事?」

 「・・・うん。」

 「いい加減、私もさみしいよ?」

 「・・・うん。」

 少し沈黙が続き、昇子が言身の横に座り毛布を一緒に被った。

 「フェアリエ・・・また少し強くなってたね。」

 「・・・うん。」

 「それに数も増えてた。」

 「・・・だね。」

 「私・・なんだかんだで、今すっごく楽しいよ。」

 「・・・そっか。よかった。」

 「うん。」

 夜の風は心地よかった。だけど地面は瓦礫ばかりで、空気中はあまりに静寂で、生き物の残滓をまるで感じることができなかった。私はそれが、とても気持ち悪かったーーーー。


 フェアリエの数が増えている。力も強くなっている。・・・そのせいで近頃は、どこも戦線を下げてばかりだ。このままではいずれ、どこかが山岳地帯と重なり、戦闘が困難となるかもしれない。そしたら最悪、戦線を大幅に後退させ、サミア大陸中央を捨てなくてはいけなくなる。

 それだけじゃない。現在の戦線はデトメス大陸から流れ出るフェアリエを、囲い込み抑え込む扇形のような形で引かれている。即ち、戦線を後退させれば戦線の幅が伸びてしまう形となっている。そして戦線が伸びれば必然的にフィリデイの数も増やさなければいけず、結果として戦力不足が噂として持ち上がったりもしている。

 ただ実際のところでは、ここ最近でフィリデイの死傷者は減少し、戦闘に長けたフィリデイが増え、さらに新人フィリデイも次々に投入されているために、そこまでの心配は必要なかった。

 とはいえフェアリエの脅威度は、依然として増加傾向にある。本来なら戦線の押し上げも可能となるはずだった希望が理想に終わり、現実では今日も戦果としての敗北を繰り返している。

 上の人が出した試算として、残された時間はあと2ヶ月ほど。そこを過ぎる前にどうにかできないと、私たちは一番大きな大陸の半分程度を失うことになる。

 そんな緊急事態だからなのか、倫理観が少し薄れた。今まで危険視され続けていたイコルの追加接種が検討され始めた。

 ・・・私たちにも、近々イコルが支給されるらしい。

 ・・・少し、怖い。

 追加のイコルを接種したとして、私は私のままでいられるのだろうか・・・。

 一人の兵士として・・・一つの兵器として、戦況を好転させるためには必要不可欠なこと。だから文句は言わない。けれどせめて、隠し事だけは・・・・。

 いや、それも無理か。

 現実問題、仮にイコル関連の暗い話が出れば、接種を拒絶するフィリデイが出てくるかもしれない。そうなればフィリデイの数が減って、強くもなれなくて、結果人間はフェアリエに惨敗する。・・・そうならないためにも、「イコルは神聖で高潔で安全なものである」って認識を確立しておかないといけない。

 ・・・いったい、どれくらいの人がこの問題を直視してるんだろ・・・。

 もしかしたら多くの人が気づいてるかもしれない。・・・気づいた上で、それでも未来の為に黙っているだけかもしれない。

 ・・・まあどのみち、私にはどうすることだってできない。・・・私にできるのは、ただ黙ってイコルを打って、この戦争を終わらせる為の力を身に着けるだけ。

 いつか自分自身が壊れてしまうのだとしても、私たちが「やらなければ」いけないのだから、私は「やる」んだ。

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